フェーリング反応の反応式と作り方!還元糖やアルデヒドを検出

農作物の甘味成分である還元糖。その測定に使うフェーリング反応の反応式や作り方を知っていますか?糖度計との違いや、実験時の廃液処理まで、農業現場で役立つ知識を深掘りしませんか?

フェーリング反応の反応式と作り方

フェーリング反応のポイント
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試薬の自作

硫酸銅と酒石酸塩でA液・B液を調製

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反応の確認

加熱により特有の赤色沈殿を生じる

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農業での活用

糖度計では測れない還元糖を推定可能

フェーリング液の作り方と保存期間

フェーリング反応を行うために不可欠な試薬であるフェーリング液は、市販のセットを購入することも可能ですが、コストを抑えるために自分で調製することも一般的です 。この試薬は、保存性を高めるために「A液」と「B液」という2種類の溶液に分けて作成し、使用する直前に等量ずつ混合して使います 。

 

参考)銀鏡反応とフェーリング反応(原理・反応式・沈殿・色変化など)…

それぞれの溶液の具体的な作り方と組成は以下の通りです。

 

フェーリング液A液(銅イオン溶液)

  • 材料: 硫酸銅(II)五水和物 (CuSO₄・5H₂O) 34.6g、蒸留水
  • 作成手順: 硫酸銅の青い結晶34.6gを蒸留水に溶かし、全量を500mLにします。
  • 特徴: 鮮やかな青色の液体です。酸性側にあるため比較的不安定さはなく、長期間の保存が可能です。

フェーリング液B液(アルカリ性酒石酸塩溶液)

  • 材料: 酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)173g、水酸化ナトリウム (NaOH) 50g、蒸留水
  • 作成手順: 酒石酸カリウムナトリウム173gと水酸化ナトリウム50gを蒸留水に溶かし、全量を500mLにします。水酸化ナトリウムの溶解時には発熱するため、耐熱容器を使用し、十分に放冷してからメスアップ(定容)することが重要です 。

    参考)https://www.customs.go.jp/ccl_search/analysis_search/a_109_j.pdf

  • 特徴: 無色の液体ですが、強塩基性(強アルカリ性)であるため、皮膚につくとぬるぬるして火傷のような症状を引き起こす可能性があります。取り扱いには保護メガネや手袋が必須です 。

    参考)http://www.st.rim.or.jp/~shw/MSDS/06006950.pdf

保存期間と混合時の注意
A液とB液を別々に保存する場合、冷暗所であれば数ヶ月から半年程度は持ちますが、ゴム栓などはアルカリで侵される可能性があるため、B液にはゴム栓を使わないようにします 。

 

参考)https://www.yamagata-c.ed.jp/file/388

最も重要な点は、A液とB液を混合した後は保存がきかないということです 。混合液は時間とともに自己還元を起こし、また空気中の二酸化炭素を吸収して劣化するため、必ず実験の直前に必要な分だけを混ぜ合わせるようにしてください。

 

参考)フェーリング液についてです。フェーリング液A液とB液を直前で…

デキストリン中の還元糖分の定量分析法(税関分析法) - 公的なフェーリング液の調製法と定量分析の詳細な手順が記載されています。

反応式の仕組みと色の変化

フェーリング反応において観察される色の変化は、銅イオンの価数が変化することに起因しています。この反応の核心は、還元性を持つ物質(アルデヒド基を持つ糖など)が酸化され、逆に銅イオンが還元されるという酸化還元反応です 。

 

参考)フェーリング反応の覚え方と反応式の作り方がスッキリわかる!

化学反応式の詳細
フェーリング反応全体の化学反応式は以下のように表されます。ここで、R-CHOはアルデヒド基を持つ物質(グルコースなど)を表しています。

 

R-CHO+2Cu2++4OHR-COOH+Cu2O+2H2O\text{R-CHO} + 2\text{Cu}^{2+} + 4\text{OH}^- \longrightarrow \text{R-COOH} + \text{Cu}_2\text{O} \downarrow + 2\text{H}_2\text{O}R-CHO+2Cu2++4OH−⟶R-COOH+Cu2O↓+2H2O
この反応式をイオン反応式(半反応式)に分解すると、それぞれの物質の役割がより明確になります 。

参考)銀鏡反応とフェーリング反応

  1. 酸化反応(還元剤): アルデヒド基がカルボン酸へと酸化されます。

    R-CHO+3OHR-COO+2H2O+2e\text{R-CHO} + 3\text{OH}^- \longrightarrow \text{R-COO}^- + 2\text{H}_2\text{O} + 2e^-R-CHO+3OH−⟶R-COO−+2H2O+2e−

  2. 還元反応(酸化剤): 銅(II)イオンが還元され、酸化銅(I)になります。
    2Cu2++2OH+2eCu2O+H2O2\text{Cu}^{2+} + 2\text{OH}^- + 2e^- \longrightarrow \text{Cu}_2\text{O} + \text{H}_2\text{O}2Cu2++2OH−+2e−⟶Cu2O+H2O

酒石酸ナトリウムカリウムの役割
ここで、「なぜ単に硫酸銅と水酸化ナトリウムを混ぜるだけではだめなのか?」という疑問が湧くかもしれません。単純にCu²⁺イオン(A液)とOH⁻イオン(B液)が出会うと、水酸化銅(II) Cu(OH)₂ の青白い沈殿ができてしまい、均一な溶液になりません。

B液に含まれる酒石酸イオンは、銅イオンを包み込んで「錯イオン(キレート錯体)」を形成する役割を持っています 。これにより、強アルカリ性条件下でも銅イオンが沈殿せず、深青色の透明な溶液として安定して存在できるようになります。

色の変化と沈殿
反応液を加熱すると、錯イオン中の銅(II)が還元されて酸化銅(I) Cu₂O になります。酸化銅(I)は水に溶けないため沈殿します。この沈殿の色は赤色(赤褐色)です 。

参考)フェーリング反応 (アルデヒドの検出反応) の解説 - 化学…


反応の進行具合や粒子の大きさによって、溶液の色は以下のように変化して見えることがあります。

 

  • 反応前: 深青色(透明)
  • 反応初期: 緑色(青色と黄色の混色)
  • 反応進行: 黄色 → オレンジ色
  • 反応完了: 赤褐色沈殿

この劇的な色の変化こそが、フェーリング反応が還元糖の検出に使われる最大の理由です。

 

銀鏡反応とフェーリング反応の原理 - 化学の視点から反応原理と錯イオンの構造について詳しく解説されています。

アルデヒドや還元糖の検出実験

実際の農業現場や加工の現場で、どのような物質がこの反応を示すのかを理解しておくことは重要です。フェーリング反応は万能ではなく、特定の構造を持つ物質にしか反応しません。これを「還元糖」と呼びます 。

 

参考)https://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/kou_nougyou/jikken/SubShokuhin/09/genri.html

検出できるもの(陽性)

  • アルデヒド: ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなど。
  • 単糖類: グルコース(ブドウ糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなど。これらはすべて還元性を示します。フルクトースはケトン基を持ちますが、塩基性条件下で構造が変化(異性化)し、還元性を示します。
  • 一部の二糖類: マルトース(麦芽糖)、ラクトース(乳糖)。これらは分子内に開環できる構造(ヘミアセタール構造)を残しているため還元性があります。

検出できないもの(陰性)

  • スクロース(ショ糖): 砂糖の主成分です。グルコースとフルクトースが結合して還元性を示す部分が塞がっているため、フェーリング反応は起きません(色は青いままです) 。

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/12/3/12_3_98/_pdf/-char/ja

  • デンプン: 多数のグルコースが繋がっていますが、末端のごく一部を除いて還元性を示さないため、全体としては反応しません。

実験手順のコツ

  1. 混合: A液とB液を等量(例えば1mLずつ)試験管に取り、よく振って混ぜます。深青色のきれいな溶液になります。
  2. 試料添加: 調べたい農作物の搾汁液やサンプルを数滴加えます。
  3. 加熱: ここが最重要ポイントです。常温では反応がほとんど進みません。バーナーやアルコールランプで穏やかに加熱するか、沸騰水浴中で数分間加熱します 。
  4. 判定: 溶液の中に赤色の沈殿が生じれば陽性(還元糖あり)です。

注意点として、加熱しすぎると試料中の成分が焦げて黒くなり、判定ができなくなることがあります。沸騰石を入れて突沸を防ぎながら、穏やかに加熱するのがコツです 。

 

フェーリング反応の実演動画 - 実際の色の変化や加熱の様子を映像で確認でき、イメージがつかみやすくなります。

農作物の還元糖測定と糖度計の違い

農業従事者にとってなじみ深い「糖度計(Brix計)」と、今回解説している「フェーリング反応」による測定は、何が違うのでしょうか?実は、これらは測定している対象が異なります 。

 

参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/yasai/negi/documents/s21y03.pdf

糖度計 (Brix) が測っているもの
一般的な糖度計は「光の屈折率」を利用しています。これは水に溶けている固形分全体の濃度を指標化しています。つまり、ショ糖(スクロース)も、還元糖(グルコース・フルクトース)も、さらには塩分や酸なども含めた「可溶性固形分」の総量を測っています 。

 

参考)糖度計のおすすめ人気ランキング【2025年12月】

  • メリット: 現場ですぐに測定でき、果実全体の「濃厚さ」や「甘さの目安」を知るのに非常に便利です。
  • デメリット: 「どの種類の糖が入っているか」までは分かりません。

フェーリング反応(還元糖定量)が測るもの
フェーリング反応(およびその応用であるベルトラン法やソモギーネルソン法)は、化学的に還元性を持つ糖だけをターゲットにします 。

 

参考)https://uwajimahigashi-h.esnet.ed.jp/uploads/h302nen14.pdf

  • メリット: 作物の生理状態をより詳しく知ることができます。例えば、ネギなどの野菜では、Brix値よりも還元糖の含有量の方が、実際の食味試験による「甘さ」の評価と高い相関があるという研究報告があります 。また、ジャム加工などにおいては、ペクチンのゲル化に糖の種類と比率が関わるため、還元糖の割合を知ることが品質管理に繋がります。​
  • デメリット: 試薬の調製や加熱が必要で、現場で即座に測定するのは困難です。

使い分けの提案
日々の収穫判断や出荷基準には手軽な糖度計を使い、新品種の育成や、加工品の品質トラブル(色が黒ずむメイラード反応の原因調査など)の際には還元糖測定を行う、という使い分けが賢明です。還元糖はアミノ酸と反応して褐色物質を作る(メイラード反応)ため、乾燥野菜やドライフルーツを作る農家にとっては、還元糖の量は製品の色味を左右する重要なパラメータになります。

 

加熱ネギのおいしさ評価に関する研究報告 - Brix糖度計と還元糖含量の違い、食味との相関について実データをもとに解説されています。

【独自視点】環境への配慮:廃液処理の重要性

フェーリング反応を個人の農家や小規模な加工場で行う場合、最も注意しなければならないのが「実験後の廃液処理」です。これは検索上位の受験勉強用サイトではあまり深く触れられていませんが、土壌を扱う農業従事者にとっては死活問題となる可能性があります 。

 

参考)https://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/r2/02_rika/2_yakuhin.pdf

銅イオンの環境負荷
フェーリング反応で使用する銅イオン(Cu²⁺)は、重金属の一種です。反応後の廃液(青色が消えた上澄み液や、赤色の沈殿を含む液)をそのまま流し台や農地の排水路に流すことは絶対に避けてください。

 

銅は殺菌剤(ボルドー液など)としても使われますが、高濃度で河川に流出すると水生生物に甚大な被害を与えます。また、下水処理場の微生物の活動を阻害する恐れもあります。

 

適切な処理方法
もし実験を行う場合は、以下のいずれかの方法で廃液を適切に管理する必要があります。

 

  1. 専門業者への委託:

    最も確実な方法です。廃液をポリタンクなどに貯めておき、産業廃棄物処理業者に回収・処理を依頼します。「重金属含有廃液」として扱われます。

     

  2. 簡易的な凝集沈殿処理(自己処理する場合):

    大量の廃液が出ない場合でも、そのまま流さず、化学的に無害化処理を行う知識が必要です。

     

    • 廃液に水酸化カルシウム(消石灰)や水酸化ナトリウムを加えて強アルカリ性にし、残留している銅イオンを完全に水酸化銅や酸化銅として沈殿させます。
    • その後、ろ過して固形分(銅スラッジ)と液体に分けます。
    • 液体部分は中和してから排水し、固形分は脱水して産業廃棄物として処分します。
    • ※この処理は化学的知識が必要なため、自信がない場合は業者委託を推奨します 。

      参考)https://nwuss.nara-wu.ac.jp/media/sites/11/20_22.pdf

代替法の検討
単に「還元糖があるかどうか」を簡易に知りたいだけであれば、重金属を使わない尿糖検査試験紙(グルコース濃度を酵素反応で色変化させるもの)を流用する方法もあります 。これなら銅廃液が出ず、コストも安く、環境にも優しい測定が可能です。ネギの甘さ調査などでは、実際に試験紙を用いた簡易測定法が研究されています。

農業は自然環境と共にある産業です。分析一つをとっても、その後の環境負荷まで考えた方法を選択することが、持続可能な農業経営につながります。

 

廃棄物活用と環境負荷に関する資料 - 農業現場における廃液や廃棄物の適切な取り扱いについて示唆に富む内容が含まれています。