フェーリング反応を行うために不可欠な試薬であるフェーリング液は、市販のセットを購入することも可能ですが、コストを抑えるために自分で調製することも一般的です 。この試薬は、保存性を高めるために「A液」と「B液」という2種類の溶液に分けて作成し、使用する直前に等量ずつ混合して使います 。
参考)銀鏡反応とフェーリング反応(原理・反応式・沈殿・色変化など)…
それぞれの溶液の具体的な作り方と組成は以下の通りです。
フェーリング液A液(銅イオン溶液)
フェーリング液B液(アルカリ性酒石酸塩溶液)
参考)https://www.customs.go.jp/ccl_search/analysis_search/a_109_j.pdf
保存期間と混合時の注意
A液とB液を別々に保存する場合、冷暗所であれば数ヶ月から半年程度は持ちますが、ゴム栓などはアルカリで侵される可能性があるため、B液にはゴム栓を使わないようにします 。
参考)https://www.yamagata-c.ed.jp/file/388
最も重要な点は、A液とB液を混合した後は保存がきかないということです 。混合液は時間とともに自己還元を起こし、また空気中の二酸化炭素を吸収して劣化するため、必ず実験の直前に必要な分だけを混ぜ合わせるようにしてください。
参考)フェーリング液についてです。フェーリング液A液とB液を直前で…
デキストリン中の還元糖分の定量分析法(税関分析法) - 公的なフェーリング液の調製法と定量分析の詳細な手順が記載されています。
フェーリング反応において観察される色の変化は、銅イオンの価数が変化することに起因しています。この反応の核心は、還元性を持つ物質(アルデヒド基を持つ糖など)が酸化され、逆に銅イオンが還元されるという酸化還元反応です 。
参考)フェーリング反応の覚え方と反応式の作り方がスッキリわかる!
化学反応式の詳細
フェーリング反応全体の化学反応式は以下のように表されます。ここで、R-CHOはアルデヒド基を持つ物質(グルコースなど)を表しています。
R-CHO+2Cu2++4OH−⟶R-COOH+Cu2O↓+2H2O
この反応式をイオン反応式(半反応式)に分解すると、それぞれの物質の役割がより明確になります 。
参考)銀鏡反応とフェーリング反応
R-CHO+3OH−⟶R-COO−+2H2O+2e−
反応の進行具合や粒子の大きさによって、溶液の色は以下のように変化して見えることがあります。
この劇的な色の変化こそが、フェーリング反応が還元糖の検出に使われる最大の理由です。
銀鏡反応とフェーリング反応の原理 - 化学の視点から反応原理と錯イオンの構造について詳しく解説されています。
実際の農業現場や加工の現場で、どのような物質がこの反応を示すのかを理解しておくことは重要です。フェーリング反応は万能ではなく、特定の構造を持つ物質にしか反応しません。これを「還元糖」と呼びます 。
参考)https://gakuen.gifu-net.ed.jp/~contents/kou_nougyou/jikken/SubShokuhin/09/genri.html
検出できるもの(陽性)
検出できないもの(陰性)
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/seikatsueisei1957/12/3/12_3_98/_pdf/-char/ja
実験手順のコツ
注意点として、加熱しすぎると試料中の成分が焦げて黒くなり、判定ができなくなることがあります。沸騰石を入れて突沸を防ぎながら、穏やかに加熱するのがコツです 。
フェーリング反応の実演動画 - 実際の色の変化や加熱の様子を映像で確認でき、イメージがつかみやすくなります。
農業従事者にとってなじみ深い「糖度計(Brix計)」と、今回解説している「フェーリング反応」による測定は、何が違うのでしょうか?実は、これらは測定している対象が異なります 。
参考)https://www.pref.ibaraki.jp/nourinsuisan/enken/seika/yasai/negi/documents/s21y03.pdf
糖度計 (Brix) が測っているもの
一般的な糖度計は「光の屈折率」を利用しています。これは水に溶けている固形分全体の濃度を指標化しています。つまり、ショ糖(スクロース)も、還元糖(グルコース・フルクトース)も、さらには塩分や酸なども含めた「可溶性固形分」の総量を測っています 。
参考)糖度計のおすすめ人気ランキング【2025年12月】
フェーリング反応(還元糖定量)が測るもの
フェーリング反応(およびその応用であるベルトラン法やソモギーネルソン法)は、化学的に還元性を持つ糖だけをターゲットにします 。
参考)https://uwajimahigashi-h.esnet.ed.jp/uploads/h302nen14.pdf
使い分けの提案
日々の収穫判断や出荷基準には手軽な糖度計を使い、新品種の育成や、加工品の品質トラブル(色が黒ずむメイラード反応の原因調査など)の際には還元糖測定を行う、という使い分けが賢明です。還元糖はアミノ酸と反応して褐色物質を作る(メイラード反応)ため、乾燥野菜やドライフルーツを作る農家にとっては、還元糖の量は製品の色味を左右する重要なパラメータになります。
加熱ネギのおいしさ評価に関する研究報告 - Brix糖度計と還元糖含量の違い、食味との相関について実データをもとに解説されています。
フェーリング反応を個人の農家や小規模な加工場で行う場合、最も注意しなければならないのが「実験後の廃液処理」です。これは検索上位の受験勉強用サイトではあまり深く触れられていませんが、土壌を扱う農業従事者にとっては死活問題となる可能性があります 。
参考)https://www.saga-ed.jp/kenkyu/kenkyu_chousa/r2/02_rika/2_yakuhin.pdf
銅イオンの環境負荷
フェーリング反応で使用する銅イオン(Cu²⁺)は、重金属の一種です。反応後の廃液(青色が消えた上澄み液や、赤色の沈殿を含む液)をそのまま流し台や農地の排水路に流すことは絶対に避けてください。
銅は殺菌剤(ボルドー液など)としても使われますが、高濃度で河川に流出すると水生生物に甚大な被害を与えます。また、下水処理場の微生物の活動を阻害する恐れもあります。
適切な処理方法
もし実験を行う場合は、以下のいずれかの方法で廃液を適切に管理する必要があります。
最も確実な方法です。廃液をポリタンクなどに貯めておき、産業廃棄物処理業者に回収・処理を依頼します。「重金属含有廃液」として扱われます。
大量の廃液が出ない場合でも、そのまま流さず、化学的に無害化処理を行う知識が必要です。
代替法の検討
単に「還元糖があるかどうか」を簡易に知りたいだけであれば、重金属を使わない尿糖検査試験紙(グルコース濃度を酵素反応で色変化させるもの)を流用する方法もあります 。これなら銅廃液が出ず、コストも安く、環境にも優しい測定が可能です。ネギの甘さ調査などでは、実際に試験紙を用いた簡易測定法が研究されています。
農業は自然環境と共にある産業です。分析一つをとっても、その後の環境負荷まで考えた方法を選択することが、持続可能な農業経営につながります。
廃棄物活用と環境負荷に関する資料 - 農業現場における廃液や廃棄物の適切な取り扱いについて示唆に富む内容が含まれています。