デンソーウェーブqrコード利益と特許の権利を無料にした理由

なぜ開発元のデンソーウェーブは莫大な特許収入を捨てたのか?農業にも欠かせないQRコード普及の裏にある戦略と、彼らがどこで収益を上げているのか、その意外なビジネスモデルを知っていますか?

デンソーウェーブのqrコードと利益

記事の要約:QRコードの戦略
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特許の権利をあえて行使せず

デンソーウェーブは普及を最優先し、誰でも使える公共財としての地位を確立しました。

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読み取り機器で利益を確保

コードは無料でも、高速・高精度の専用スキャナーやシステム開発で収益を上げています。

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農業分野での不可欠な貢献

トレーサビリティや生産管理など、現代農業のDX化に深く根付いています。

デンソーウェーブがQRコードの特許権と利益を放棄してまで普及させたかった理由


私たちの生活、そして農業の現場において、もはや見かけない日はないと言っても過言ではない「QRコード」。この画期的な技術を開発したのは、自動車部品メーカーであるデンソー(現在のデンソーウェーブ)です。しかし、多くの人が疑問に思うのが、「なぜこれほど世界中に普及した技術なのに、デンソーウェーブは莫大なライセンス料(特許収入)を得ていないのか?」という点です。ここには、企業の利益よりも技術の普及社会貢献を優先した、極めて高度な経営判断がありました。


1994年にQRコードが開発された当時、デンソーウェーブは当然ながらこの技術に関する特許を取得していました。通常、企業が独自の技術を開発した場合、特許権を行使して他社による無断使用を禁じたり、使用料を徴収したりして利益を最大化しようとします 。しかし、デンソーウェーブは「QRコードの特許権を行使しない(オープンにする)」という異例の宣言を行いました。


参考)したたかデンソーの戦略

なぜでしょうか。その背景には、当時の「バーコード」が抱えていた限界があります。従来のバーコードは情報量が少なく(英数字で20文字程度)、工場の生産ラインや物流現場では複数のバーコードを読み取る必要があり、作業効率が頭打ちになっていました。デンソーウェーブが開発したQRコードは、漢字を含む大容量データを扱え、汚れにも強く、高速で読み取れるという圧倒的な性能を持っていました。彼らはこの技術を自社だけで独占するよりも、「世界標準(グローバルスタンダード)」にして社会インフラ化することを選んだのです 。


参考)特集

もし特許料を徴収していれば、これほど急速に世界中に広まることはなかったでしょう。特に農業や中小小売店のように、コストにシビアな現場での導入は大幅に遅れていたはずです。


参考リンク:経済産業省 特許庁 | 「QRコード」(株)デンソーウェーブ(特許と普及戦略の公式解説)
ただし、ここで重要なのは「権利を放棄したわけではない」という点です。あくまで「JISやISOなどの規格に従って正しく使う限りは権利を行使しない」というスタンスであり、規格から外れた粗悪なコードや、セキュリティを脅かすような改変に対しては、しっかりと特許権を保持して監視しています 。この「秩序ある自由」こそが、QRコードが安心して使われる土台となっています。


参考)儲けるつもりナシ? 中国モバイル決済で再燃、誰も知らないQR…

開発者・原昌宏氏が語る囲碁から生まれたQRコードの開発秘話

QRコードの生みの親として知られるのが、デンソーウェーブの原昌宏(はら まさひろ)氏です。彼がこの技術を開発するに至った経緯には、意外な趣味が関係していました。それは、昼休みに同僚と楽しんでいた「囲碁」です 。


当時、原氏は新しい2次元コードの開発に行き詰まっていました。情報を詰め込むだけなら簡単ですが、「高速で読み取る」ことと「正確に認識する」ことを両立させるのが難題だったのです。工場や物流倉庫などの現場は、背景に様々な文字や模様があり、カメラが「どこにコードがあるか」を瞬時に見分けるのが困難でした。そんなある日、囲碁の盤面を見ていた原氏は、黒と白の石が配置された格子状のパターンからヒントを得ます。「情報を2次元の白黒パターンに置き換えれば、機械が認識しやすくなるのではないか」という着想です。


さらに、QRコードの四隅にある3つの四角いマーク(切り出しシンボル)にも、驚くべき開発秘話があります。このマークは、カメラが360度どの方向からスキャンしても、「これはQRコードだ」と認識して角度を補正するためのものです。原氏は、世の中に存在するチラシ、雑誌、段ボールなどの印刷物を徹底的に分析し、「1:1:3:1:1」という黒白の比率が、自然界や通常の印刷物の中で「最も出現しにくい独自の比率」であることを突き止めました。


  • 囲碁からの着想: 平面(2次元)で情報を管理するマトリックス構造の基礎。
  • 特異な比率の発見: 「1:1:3:1:1」という比率は、他の印刷物と誤認されないための黄金比。
  • 汚れへの強さ: 工場の油汚れ等で一部が隠れてもデータを復元できる「誤り訂正機能」の実装。

開発チームはわずか2名。原氏は、来る日も来る日もコードの読み取りテストを繰り返し、当時のコンピューター性能の限界に挑みました。特筆すべきは、この開発が当初は「自動車部品工場の生産管理(かんばん方式)」を効率化するためだけに行われた社内プロジェクトだった点です 。それが結果として、世界中の決済やURL共有、そして農業のトレーサビリティにまで革命を起こすことになるとは、当時の原氏自身も予想していなかったかもしれません。

参考リンク:デンソーウェーブ | 開発者・原昌宏氏が語るQRコード開発の軌跡(公式インタビュー)
この「現場の苦労を解決したい」という純粋なエンジニア魂と、囲碁という日本的な文化の融合が、世界を変える発明を生み出したのです。


読み取り機器とシステムで稼ぐデンソーウェーブのしたたかなビジネスモデル

ここで本題の「利益」に戻りましょう。QRコード自体を無料開放してしまったデンソーウェーブは、一体どこで収益を上げているのでしょうか。実は、彼らは非常に賢明で「したたか」なビジネスモデルを構築しています。それは、「道路(インフラ)は無料にするが、その上を走る高性能な車(読み取り機器)を売る」という戦略です 。


参考)QRコードの普及から考える知財戦略  ー知財戦略カスケードダ…

QRコードが普及すればするほど、世界中でそれを「読み取る」ニーズが爆発的に増えます。スーパーのレジ、物流倉庫の検品端末、工場のライン管理など、業務で使うスキャナーには、スマートフォンとは比較にならないほどの「読み取り速度」と「堅牢性」が求められます。デンソーウェーブは、この読み取り機器(ハンディターミナルやスキャナ)の製造・販売において圧倒的なシェアと技術力を持っています。


デンソーウェーブの主な収益源:

  1. 業務用ハンディターミナル・スキャナの販売
    • 0.1秒以下の爆速読み取り、遠距離読み取り、汚れたコードの解読能力など、プロ仕様の機材は高価でも売れ続けます。
    • 特に物流や農業の集荷場など、過酷な環境下では安価な代替品では務まりません。
  2. システムソリューションの提供
    • QRコードを使った在庫管理システムや、クラウド型のトレーサビリティサービスなど、ハードウェアとセットでソフトウェアを販売しています。
  3. 進化系QRコード(SQRCなど)のライセンス
    • 実は、通常のQRコード以外に、見た目は普通のQRコードなのに特定のリーダーでしか読み取れない「SQRC(セキュリティ機能付きQRコード)」などを開発しており、こうした付加価値の高い独自技術ではしっかりと対価を得ています。

つまり、QRコードを無料開放して「QRコードがないと仕事にならない世界」を作り出し、その世界で最も高性能な道具を売ることで、ライセンス料以上の持続的な利益を生み出しています。これは、プラットフォーム戦略の先駆けとも言える非常に優れた経営判断でした。


参考リンク:株式会社メディアシーク | QRコード関連のビジネスモデル・マネタイズ解説
農業従事者の皆さんが導入する選果場のシステムや、直売所のPOSレジシステムの中にも、デンソーウェーブの読み取り技術(ハードウェアやデコードエンジン)が組み込まれていることが多く、間接的に彼らの利益に貢献していることになります。


農業の現場におけるQRコード活用とトレーサビリティの進化

農業分野において、QRコードは単なる「Webサイトへのリンク」以上の重要な役割を果たしています。特に、食の安全・安心に対する消費者の意識が高まる中、トレーサビリティ(生産履歴の追跡)の確保において、QRコードは最強のツールとなっています 。


参考)QRコードで「産地偽装」撲滅 食ベンチャーが挑む米の流通改革…

かつて、野菜や果物の生産履歴を消費者に伝えるには、手書きのポップやシールに情報を詰め込むしかありませんでした。しかし、スペースには限りがあります。QRコードの導入により、パッケージには小さな正方形を印刷するだけで、消費者はスマホをかざし、以下のような膨大な情報にアクセスできるようになりました。


  • 生産者の顔と想い: 誰が、どこで、どんなこだわりを持って作ったか。
  • 栽培履歴: どのような農薬や肥料を、いつ、どれだけ使用したか。
  • 収穫日と食べ頃: 最も美味しいタイミングやおすすめレシピ。

これにより、生産者と消費者の距離が縮まり、直売所などでは「○○さんの野菜だから買う」という指名買い(ファン作り)に繋がっています。


さらに、農業の生産現場(バックヤード)でもQRコードは利益改善に貢献しています。


例えば、農薬のボトルにQRコードを貼り付け、散布前に読み取ることで、使用基準の間違いを防止するシステムや、作業員が圃場(ほじょう)ごとのQRコードを読み込んで作業時間を記録する労務管理システムなどが導入されています 。


参考)https://www.denso.com/jp/ja/news/newsroom/2024/20240116-01/

農業における具体的な活用メリット:

活用シーン 具体的なメリット
出荷管理 選果場で箱ごとのQRコードを高速読み取りし、誤出荷を防止。在庫状況をリアルタイム可視化。
GAP認証 JGAP/GlobalGAP取得に必要な複雑な工程管理記録を、QRコードで簡素化・デジタル化。
スマート農業 自動収穫ロボットが作物の位置や畝(うね)の情報をQRコードから認識し、自律走行する。

最近では、デンソーと農業ベンチャーが協力し、大規模ハウスでのトマト栽培において、収穫ロボットがQRコードで位置情報を認識しながら稼働する実証実験も行われています 。QRコードは、単なる情報伝達手段から、ロボットやAIと農業をつなぐ「制御タグ」としての役割も担い始めています。

【独自視点】狭い場所にも印字可能な新型rMQRコードがもたらす利益と可能性

最後に、あまり知られていない最新の技術革新について触れておきましょう。QRコードは正方形であるため、ある程度の高さ(スペース)が必要です。しかし、試験管や電子部品の側面、あるいは細長い商品のパッケージの縁など、「高さはないが横幅はある」という場所には印字しにくいという課題がありました。


そこでデンソーウェーブが新たに開発し、2022年に発表したのが「rMQRコード(長方形マイクロQRコード)」です 。


参考)https://monoist.itmedia.co.jp/mn/articles/2205/27/news064.html

この新しいコードは、従来のQRコードの性能(大容量・高速読み取り)を維持しつつ、極端に細長い長方形の形状をしています。これにより、これまで管理が難しかった以下のような極小スペースでの活用が可能になりました。


  • 農業資材の管理: 細いパイプや支柱育苗トレイの縁などの狭いスペースに個体管理コードを印字できる。
  • 精密機器の管理: ドローンや農業センサーなどの小型基板の縁に印字し、メンテナンス履歴を管理。
  • デザイン性の向上: 商品パッケージのデザインを邪魔せず、下部の僅かなスペースに情報を格納できる。

参考リンク:デンソーウェーブ公式 | rMQRコードの技術仕様とメリット
「正方形でなければならない」という常識を自ら覆したこの技術革新は、農業分野におけるIoT化(モノのインターネット)をさらに加速させる可能性があります。例えば、一つ一つの苗ポットの縁にrMQRコードを印刷し、苗ごとの成長記録を自動でデータベース化するといった、超精密な農業管理が可能になるかもしれません。


デンソーウェーブが特許を無料開放して築いた「QRコード帝国」は、いまや形を変え、進化し続けています。その恩恵を最大限に活かし、自らの農業経営の利益につなげていくことこそ、私たち利用者に求められている姿勢ではないでしょうか。技術の裏側にある企業の戦略を知ることで、普段使っている四角い記号が、少し違ったものに見えてくるはずです。




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