ブラシノステロイド作用と植物ホルモン抵抗性収量増加

ブラシノステロイド作用を、栽培現場での狙いどころ(収量・耐病性・耐冷性など)と注意点まで、研究知見を踏まえて整理します。結局、どの作物・どの条件で効きやすいのでしょうか?

ブラシノステロイド 作用

ブラシノステロイド作用の要点
🧪
低濃度で効く植物ホルモン

ナノモル水準でも生育・耐性に幅広く関与し、作用は単独というより「他ホルモンとの相互作用」で理解すると現場判断がしやすくなります。

🌿
狙いは収量とストレス耐性

種子発芽、栄養成長、着花・着果、収量増加、耐病性・耐冷性などの報告があり、特に不利条件下で差が出やすい傾向が語られています。

⚠️
圃場では再現性が壁

圃場は生育ステージや環境が揺れるため、効き方がぶれやすいのが古くからの課題です。処理時期・方法の設計が成否を分けます。

ブラシノステロイド作用の基本:ブラシノライドと植物ホルモン

ブラシノライド(BL)は、発見直後から「6番目の植物ホルモン」として注目され、同様の活性を示す関連化合物群がブラシノステロイド(BR)と総称されます。
作用の特徴は、非常に低濃度(ナノモル水準)でも個体・細胞・分子レベルで多彩な生理反応を引き起こす点にあります。
そして現場で誤解しやすいのが「BRをやれば全部伸びる」ではなく、BRは生育段階や器官、同時に動いている他のホルモン条件で、伸長・分化・抵抗性の出方が変わることです。
農業利用の観点で頻出の効果は次の通りです。

 

  • 種子発芽の促進。

    参考)ブラシノライドの農業への利用について

  • 栄養成長の促進(葉数・穂数・花数などの増加を含む)。​
  • 不定根発生の促進。​
  • 開花促進、着花・着果の促進。​
  • 不利な環境条件に対する耐性の増加(抗ストレス作用)。​

ここで重要なのは、同じ「生育促進」に見えても、現場で価値が高いのは“見た目の徒長”ではなく、受粉・結実、子実・果実肥大、落果抑制など、最終的な収量構成要素に触れる作用が混ざっている点です。

 

参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030741151.pdf

つまり、BRの作用を語るときは「草勢」だけで判断せず、「いつ・どの器官の生理を動かしたいのか」を先に決めるのが事故を減らします。

ブラシノステロイド作用と収量増加:着果と栄養成長

多くの作物試験で、BRによる収量増加が認められているという紹介があり、要因の一つとして耐病性・耐冷性などの抗ストレス作用が挙げられています。
研究レビューでは、果樹・豆類・穀類など作物を選ばず促進的な生理効果が得られること、また効果が出る時期や部位が多様であることが整理されています。
収量に関係する“効き方の型”を、農業従事者目線で分けると次の3つです。

 

  • 受粉・結実率の底上げ(着果率向上、結実率向上)。​
  • 果実・子実の肥大成長への関与(粒重・果実肥大など)。​
  • 生理落下や器官脱離の遅延(落果・落葉のタイミングを動かす)。​

意外に見落とされがちなのは、「結果が出た」という報告の裏に、どの栽培制約を緩めたのか(低温、乾燥、病害など)が隠れている点です。

BRは“条件が悪い時ほど差が出る”という見方が示されており、ストレスが少ない環境では顕著な効果が出にくい可能性も語られています。

このため、ハウスで環境を作り込んでいる作型より、露地や端境期、冷え込み・乾燥・塩類など「揺らぎ」が大きい作型で、検討価値が上がる考え方になります。

ブラシノステロイド作用と耐病性:ストレス抵抗性とクロストーク

BRは低温・高温・乾燥・塩などの非生物学的ストレスだけでなく、病原微生物の感染といった生物学的ストレスに対しても抵抗性を付与する例がまとめられています。
さらにレビューでは、BRにより誘導される耐性の一部は、アブシジン酸(ABA)、エチレン、ジャスモン酸など“ストレス関連ホルモン”の機能を通じて間接的に達成される可能性が示されています。
ここが「ブラシノステロイド 作用」を現場で使うときの核心で、BRは単独のスイッチというより、ホルモン同士の“クロストーク(相互作用)”の中で抵抗性・成長配分を組み替える役割を持ちます。

例えば、病害抵抗性の文脈では、サリチル酸(SA)を介した全身獲得抵抗性(SAR)とは別経路で、BRが抵抗性(BDR)を誘導することが示され、ただし下流因子(NPR1)が必要で完全に独立ではない可能性(クロストーク)が述べられています。

農業での解釈としては、「病害の薬効」ではなく、植物側の防御反応の立ち上がりやすさ・落ちにくさを調整し、結果として被害が軽く見えるケースがあり得る、という整理が安全です。

耐性を狙う場合の現場チェック項目(観察ベース)を挙げます。

 

  • 低温後に新葉の立ち上がりが鈍らないか。​
  • 乾燥や高温後に生育が止まり続けないか(回復速度)。​
  • 病斑の拡大速度や二次感染の出方(発病ゼロではなく被害進行)。​

ブラシノステロイド作用の注意点:圃場とコストと再現性

ブラシノライド関連物質は、試験研究は多い一方で、現段階で「実際の農業への利用」という段階には至っていない、という指摘があります。
背景として、合成ブラシノステロイドの製造コストが高く、投資と収益のバランスが取りづらい、という見方も紹介されています。
またレビューでは、圃場ではバイオアッセイの効果が低い・再現されない、地域や年度で効果がばらつくといった事情から、実用化を目指した試験研究が衰退した経緯が述べられています。
再現性の壁は、BRが「効く/効かない」以前に、次の要素が揺れるために起こります。

 

  • 生育ステージが揃いにくい(最適期に当てにくい)。​
  • BRの効果持続が短いと指摘され、短期間で消失する例も示されています。​
  • 葉面散布と根処理で吸収・移動の特徴が異なる可能性が議論され、施用方法の工夫が必要とされています。​

現場対応としては「いきなり全面」ではなく、最初は小区画で、処理日・気象・生育段階・散布量・展着・散布回数を揃えて、未処理区と比較できる設計が重要になります。

また、根がBRに敏感で高濃度では成長阻害を起こし得ることも確認されているため、根処理を考える場合は濃度設計が特に慎重であるべきです。

“効かせる工夫”と“事故を避ける工夫”は同じで、処理の目的(着果か、回復力か、徒長抑制の回避か)を先に固定すると、検討が速くなります。

ブラシノステロイド作用の独自視点:阻害剤ブラシナゾールで逆算する使いどころ

検索上位が「BRを与えるとどうなるか」に寄りがちな一方で、現場の理解を一段深める方法として“阻害剤で逆算する”視点があります。
レビューでは、BR特異的生合成阻害剤ブラシナゾール(Brz)が、BR生合成の酵素反応(C-22水酸化など)を阻害すること、処理により矮性化などBR欠乏様の表現型が出ることが説明されています。
この「BRを落とすと何が崩れるか」を知ると、BRの本当の寄与(どの器官のどの局面で必要か)を現場仮説として立てやすくなります。
例えば、次のような逆算ができます。

 

  • BRが足りない(または働きにくい)条件では、成長配分が変わり、収量構成要素が落ちる可能性がある → “不足側の兆候”を観察指標にできる。​
  • BRは他ホルモンと相互作用し、単独では説明できない → 「効き過ぎ」や「効かなさ」を、ホルモンバランスのズレとして扱える。​
  • 圃場の揺らぎが大きいほど差が出るという見方がある → ストレスが出やすいタイミングに合わせた試験が合理的。​

この視点は、単なる“資材レビュー記事”ではなく、栽培者が自分の圃場で検証計画を作るための土台になります。

BRは魔法の一手ではないものの、作用機序(受容・情報伝達・遺伝子発現・他ホルモンとのクロストーク)という筋道で理解すると、結果のブレを「失敗」ではなく「条件差の情報」として回収できるようになります。

耐病性・抗ストレス作用(背景と整理に有用)。
AgriKnowledge(PDF)「ブラシノステロイド研究の進歩と農業利用への期待」:収量増加・ストレス耐性・圃場再現性の課題・シグナル伝達の要点がまとまっている
農業利用の現状と、効果が出やすい話(現場目線の整理に有用)。
日本植物生理学会 みんなのひろば「ブラシノライドの農業への利用について」:発芽促進・栄養成長・着花着果・耐性などの報告と、普及が進みにくい背景が読める