予冷農業とは、野菜や果物などの青果物を収穫後すぐに低温で冷却処理し、輸送・貯蔵前に品温を下げる技術を活用した農業生産体系です。収穫直後の青果物は高温状態にあり、そのまま放置すると呼吸や蒸散が活発になって品質が急速に劣化してしまいます。予冷処理によって品温を3〜5℃程度まで下げることで、青果物の生理活動を抑制し、収穫時の鮮度を長期間維持することが可能になります。
参考)予冷(よれい)
この技術は特に軟弱野菜やレタス、キャベツなどの葉菜類において重要視されており、産地から消費者まで「収穫したての鮮度」で届けるためのスタートポイントとして位置づけられています。予冷と低温輸送を組み合わせることで、従来は都市近郊に限定されていた軟弱野菜の産地が、遠隔地でも成立するようになりました。
参考)予冷システム
予冷施設は青果物の品温管理による品質維持と、計画的な出荷調整を可能にするメリットがあります。現在では全国各地の産地で予冷センターや共同予冷施設が整備され、予冷青果物が一般商品として市場に流通しています。
参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/products/facilities/other/pre-cooling_cold_strage/
青果物の鮮度劣化の主な原因は、収穫後も続く呼吸作用と蒸散作用です。呼吸作用は温度が高いほど活発になり、貯蔵されている糖分などの栄養素を消費して食味や品質を低下させます。予冷によって品温を下げることで、この呼吸速度を大幅に抑制できます。
参考)青果物を予冷庫で冷却するメリットとは? | コラム | セイ…
呼吸速度と温度の関係は品目によって異なり、例えばレタスやキュウリ、セロリなどは呼吸速度が100〜50と高く、温度管理の重要性が特に高い品目です。一方、キャベツやジャガイモ、トマトなどは50以下と比較的低く、温度変化への耐性があります。
予冷処理によって糖分の損失が防がれ、特に予冷後の品温上昇を防いだ場合にその効果は顕著になります。冷蔵庫に比べて予冷庫は作物の冷却時間が短く、青果物から発せられる熱や外部からの侵入熱を取り去る能力に優れているという特長があります。予冷処理と低温管理を組み合わせることで、長距離輸送が可能になり、産地の選択肢が大きく広がります。
参考)https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/12280/4.pdf
予冷方式は大きく分けて冷風冷却、真空冷却、冷水冷却の3種類がありますが、農業現場で主流なのは冷風冷却方式と真空冷却方式です。
参考)食品小売業界必見!予冷が大切なその訳|お知らせ・コラム|保冷…
強制通風式予冷は、予冷庫内で冷たい風を循環させて熱交換により青果物を冷やす方法です。あらゆる品目に一定の効果が期待できる汎用性の高さから、最も普及している予冷設備となっています。冷却時間は8〜12時間程度かかりますが、設備の汎用性と安定性が評価されています。
差圧通風式予冷は、穴の開いたダンボールに青果物を入れ、気圧差を利用して冷気を強制的に循環させる方式です。ファンによって圧力差を作り出し、ダンボールの通気穴から直接青果物を冷却するため、3〜5時間であらゆる品目を冷却できます。強制通風式に比べて約3倍速く冷やせるとされており、真空冷却に適さない比重の重い野菜に最適です。
参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/products/facilities/other/pre-cooling_cold_strage/pressure_wind.html
真空予冷は、水の気化熱を利用した方式で、最も短時間(30〜40分)で冷却できます。白菜やレタスなどの葉物野菜には適していますが、トマトやキュウリなど一部の品目には適さないという制限があります。冷却時に余分な水分を蒸散させるため、雨天収穫でも品質が保持されるという利点があります。
参考)https://www.yanmar.com/jp/agri/products/facilities/other/pre-cooling_cold_strage/vacuum_wind.html
| 方式 | 冷却時間 | 対応品目 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 強制通風式 | 8〜12時間 | あらゆる青果物 | 最も普及、汎用性が高い |
| 差圧通風式 | 4〜8時間 | あらゆる青果物 | 強制通風の約3倍速 |
| 真空予冷 | 30〜40分 | 葉物中心、制限あり | 最速、雨天収穫対応 |
予冷施設を導入する最大のメリットは、廃棄品や事故品の発生率を低下させられることです。保管中や流通中の青果物が傷みにくくなり、輸送中の温度が高い場合でも無予冷に比べて温度上昇が抑えられ、鮮度低下のスピードが緩やかになります。
市場価格への効果も実証されており、レタスやスイートコーンでは予冷出荷によって明確な価格向上が確認されています。産地のブランド力強化にもつながり、嬬恋村など一部地域では地域特性を活かした予冷施設の運用が地元産品の価値向上に貢献しています。
参考)https://www.pref.iwate.jp/agri/_res/projects/project_agri/_page_/002/004/836/s55shidou_17.pdf
導入コストは方式によって異なり、真空予冷施設の場合は設備投資が比較的高額になりますが、強制通風式や差圧通風式は比較的安価です。実際の運営費用として、真空予冷では重量10kg当たり55.6円、容積1㎥当たり1,664円程度が目安となります。2か所の施設を1か所に集約することで作業効率が向上し、人件費やメンテナンスコストが削減された事例も報告されています。
参考)https://www.maff.go.jp/kanto/seisan/nousan/tuyoinougyou/sanchipowerup/attach/pdf/sanchipowerupjirei-3.pdf
施設導入にあたっては、国の補助事業として農業機械や予冷・貯蔵庫のリース導入支援も活用できます。総事業費3億8千万円をかけて真空予冷装置を導入し、衛生管理とコールドチェーンを強化した事例もあり、産地全体の競争力向上につながっています。
予冷処理で顕著な鮮度保持効果を得るためには、いくつかの重要な注意点があります。まず、収穫後できるだけ早く予冷処理を開始することが基本です。青果物は収穫後も呼吸を続けており、高温下に置かれる時間が長いほど品質劣化が進行するためです。
参考)https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/AN0006957X-00000052-0017.pdf?file_id=34055
目標到達品温は5℃程度が基本ですが、25℃や30℃の品温のものはまず10℃近辺まで早く下げることが推奨されます。予冷後の温度上昇を防ぐことも極めて重要で、予冷と低温輸送・低温貯蔵を一貫して行うコールドチェーンの構築が必要です。
参考)予冷をどうするか?それが問題だ! | 七花ファームダイアリー
品目ごとに最適な予冷方式と温度設定が異なるため、適切な選択が求められます。例えば、いちごの場合は予冷区と無処理区で保冷車輸送後の温度差は比較的小さいものの、継続的な温度管理によって品質維持効果が得られます。容器や積み方にも制限があり、差圧通風式では穴の開いたダンボールの使用が必須となるなど、利用には容器の見直しが必要です。
参考)https://www.agrinet.pref.tochigi.lg.jp/nousi/seikasyu/seika09/sep_009_3_3_03.pdf
予冷施設の温度管理は常に監視が必要で、施設によっては15℃で365日管理運転を行い、春から秋にかけての気温上昇期に本格稼働させる運用も行われています。環境負荷の低減やエネルギー効率の改善を目指した新たな予冷技術の研究も進められており、今後の技術革新が期待されています。
参考)京都南部青果株式会社 京印
農林水産省による青果物の鮮度保持技術ガイド - 予冷の基本原理と実践方法が詳しく解説されています
ヤンマーの予冷施設解説ページ - 各予冷方式の特徴と導入メリットが比較されています
農畜産業振興機構の品質保持技術資料 - 予冷方式の科学的根拠と効果測定データが掲載されています