酸素欠乏症の症状とガンダムの原因、対策と危険な場所

農業従事者にとって身近な危険、酸素欠乏症。その症状や原因、そしてなぜ「ガンダム」と関連付けられるのかご存知ですか?本記事では、酸素欠乏症の基本的な知識から、具体的な予防策、さらにはガンダムとの意外な関係性までを深掘りします。あなた自身の安全を守るための知識、十分に備わっていますか?

酸素欠乏症とガンダムの症状

この記事でわかること
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酸素欠乏症の危険性

初期症状から死に至る危険性、そして農業現場に潜む発生しやすい場所を具体的に解説します。

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なぜ「ガンダム」と呼ばれる?

酸素欠乏で倒れる様子がなぜ「ガンダム」と俗称されるのか、その由来と背景を詳しく解説します。

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農業現場での対策

サイロや貯蔵庫など、農業特有の危険箇所と、そこで働く人々が取るべき具体的な予防策を解説します。

酸素欠乏症の初期症状と危険な場所

 

酸素欠乏症は、自覚症状がないまま突然意識を失うこともある、非常に恐ろしい症状です 。私たちの周りの空気には通常約21%の酸素が含まれていますが、この濃度が18%未満に低下した環境を「酸素欠乏状態」と呼びます 。農業従事者にとっても、決して他人事ではありません。
酸素濃度が低下するにつれて、人体には様々な症状が現れます。初期段階では気づきにくいものも多いため、注意が必要です。

     

  • 酸素濃度 16%: 頭痛、吐き気、集中力の低下といった症状が現れ始めます。
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  • 酸素濃度 12%: 筋力低下、めまい、判断力の著しい低下が起こり、自力での脱出が困難になります。
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  • 酸素濃度 8%: 失神、意識不明に陥ります。
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  • 酸素濃度 6%以下: 呼吸停止、心停止に至り、数分で死亡する可能性があります。

特に危険なのは、空気が滞留しやすい閉鎖的な空間です。農業現場にも、以下のような多くの危険箇所が潜んでいます。

     

  • サイロや貯蔵タンク: 穀物や飼料が呼吸することで酸素が消費され、内部が高濃度の二酸化炭素で満たされることがあります 。
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  • 井戸や地下ピット: 地下水中の微生物の活動や金属の錆などにより、酸素が消費されることがあります。
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  • 堆肥舎や汚水槽: 有機物が微生物によって分解される過程(発酵)で、大量の酸素が使われます 。
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  • 野菜や果物の貯蔵庫: 野菜や果物も収穫後、呼吸を続けており、密閉された空間では酸素濃度が著しく低下します 。

これらの場所で作業を行う際は、酸素欠乏症のリスクを常に意識し、後述する適切な予防策を講じることが命を守る上で不可欠です。
こちらの参考リンクでは、酸素欠乏症等の発生しやすい場所や、その対策についてイラストを交えて分かりやすく解説されています。

 

厚生労働省:酸素欠乏症等を防止しましょう

酸素欠乏症の原因とガンダムと呼ばれる所以

酸素欠乏症が発生する主な原因は、空気中の酸素が何らかの理由で消費されたり、他のガスに置き換わったりすることです 。農業現場では、生物的な要因が大きく関わっています。

     

  • 生物の呼吸: 貯蔵中の穀物、野菜、果物、さらには土壌中の微生物まで、多くの生物が呼吸によって酸素を消費します 。密閉空間ではこの消費量が空気の供給量を上回り、酸素濃度が危険なレベルまで低下します。
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  • 化学反応: 金属の錆(酸化)も酸素を消費する化学反応の一つです。例えば、鉄製のタンクや配管が湿った環境で錆びる過程で、周囲の酸素が奪われます。
  • - 不活性ガスの流入: 農業用施設で、品質保持のために窒素ガスなどを充填することがあります。これらのガス自体に毒性はありませんが、空気を追い出して酸素濃度を低下させるため、非常に危険です。

     

ところで、建設現場や製造業の現場では、酸素欠乏症で倒れる様子を指して「ガンダム」という隠語が使われることがあります。これは一体なぜなのでしょうか。
この俗称の由来は、人気アニメ『機動戦士ガンダム』にあります 。劇中で、敵の攻撃を受けて撃破されたモビルスーツ(人型兵器)が、ガクンと膝から崩れ落ちるようにして倒れるシーンが多く描かれます。酸素欠乏症を発症すると、脳の機能が急激に低下し、体のコントロールを失います。その結果、立ったまま意識を失い、まるで糸が切れた人形のように、あるいは撃破されたモビルスーツのように、膝からガクッと崩れ落ちるように倒れてしまうのです 。この特徴的な倒れ方が、現場作業員の間で「ガンダムになる」といった表現として広まったとされています。
また、主人公アムロ・レイの父親であるテム・レイが、宇宙空間での事故により酸素欠乏症に陥り、脳に障害を負ってしまうというエピソードも、この俗称と関連付けて語られることがあります 。この痛ましいエピソードが、酸素欠乏症の恐ろしさを象徴するものとして、ファンの間で広く知られていることも一因かもしれません。

酸素欠乏症の具体的な予防と対策

酸素欠乏症による悲しい事故は、適切な予防と対策を徹底することで防ぐことができます。農業現場で働く皆さんが、安全に作業を進めるために必ず守るべきポイントを以下にまとめます。
1. 作業前の環境測定
最も重要なのが、作業を開始する前に必ず作業場所の酸素濃度と、もし発生の恐れがある場合は硫化水素濃度を測定することです。法律(酸素欠乏症等防止規則)でも定められている義務であり、命を守るための絶対条件です。

     

  • 酸素濃度18%以上を確認する。
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  • ✅ 携帯用の酸素濃度計を使用し、作業空間の複数箇所(上・中・下層)で測定する。
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  • ✅ 測定結果は記録し、作業員全員で共有する。

2. 換気の徹底
測定の結果、酸素濃度が18%未満であったり、硫化水素が検出されたりした場合は、作業空間の空気を十分に入れ替えなければなりません 。

     

  • ✅ 送風機や排風機などの換気ファンを使用し、新鮮な空気を送り込む。
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  • ✅ 換気後も、作業中、継続して換気を行うか、定期的に濃度を測定する。
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  • ✅ 開口部が上部にしかないタンクなどでは、送風管を底まで伸ばして内部の空気を確実にかくはん・排出する。

3. 作業体制の確立
万が一の事態に備え、単独での作業は絶対に避けるべきです。

     

  • 作業主任者の選任: 酸素欠乏危険作業を行う際は、技能講習を修了した「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者」を選任し、その指揮のもとで作業を行う必要があります。
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  • 監視人の配置: 作業中は必ず入口に監視人を配置し、作業者と常に連絡が取れる状態を保ちます。異常があればすぐに救助を要請し、二次災害を防ぎます。
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  • 保護具の準備と使用: 空気呼吸器や送気マスクなどの呼吸用保護具を必ず現場に備え付け、緊急時にすぐに使用できるよう、日頃から訓練しておくことが重要です 。

これらの対策は、一つでも欠けると重大な事故につながる可能性があります。面倒だと感じても、自分自身と仲間の命を守るために、必ずルールを遵守してください。
こちらの参考リンクは、家畜排せつ物処理施設における安全管理について、酸素欠乏症対策を含めて具体的に示されています。

 

農林水産省:家畜排せつ物処理施設の安全管理について

酸素欠乏症の治療法と後遺症のリスク

万が一、酸素欠乏症の発生が疑われる事態に遭遇した場合、迅速かつ適切な対応が生死を分けます。しかし、焦りからくる不適切な行動は、救助者自身が被災する「二次災害」を引き起こす危険性が極めて高いため、冷静な判断が求められます。
【緊急時の対応】

     

  1. 救助者は絶対に中に入らない: 要救助者を発見しても、安易に同じ空間に入ってはいけません。救助者も同様に酸素欠乏症に陥り、共倒れになるケースが後を絶ちません。
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  3. 直ちに119番通報: まずは安全な場所から消防に連絡し、「酸素欠乏症の疑いがある」ことを明確に伝えます。
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  5. 換気の実施: 可能であれば、送風機などで新鮮な空気を送り込み、現場の換気を行います。
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  7. 安全が確保された上での救出: 救助者は空気呼吸器などを装着し、安全が完全に確保された状態でのみ救出活動にあたります。

救出後、被災者は直ちに医療機関へ搬送されます。病院での主な治療法は、高濃度の酸素を投与することです。特に重症の場合には、「高圧酸素療法」が行われることがあります。これは、大気圧よりも高い圧力環境下で高濃度の酸素を吸入させる治療法で、体内の組織に効率よく酸素を供給することを目的としています 。
【後遺症のリスク】
酸素欠乏症の最も恐ろしい点は、たとえ一命を取り留めたとしても、脳に深刻なダメージが残り、重い後遺症に苦しむ可能性があることです 。脳の細胞は酸素不足に非常に弱く、一度損傷すると回復が難しい場合があります。

     

  • 🧠 高次脳機能障害: 記憶障害、注意力の低下、遂行機能障害(計画を立てて行動できない)など、日常生活や仕事に大きな支障をきたします。
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  • 🏃 身体的障害: 手足の麻痺や、体のバランスが取れなくなる運動失調などが現れることがあります。
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  • てんかん: 脳の神経細胞が異常に興奮することで、けいれん発作を繰り返すようになることがあります 。
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  • 🤔 間欠型低酸素脳症: 一度は回復したように見えても、数週間から数ヶ月後に再び症状が悪化するケースも報告されており、長期的な経過観察が必要です。

このように、酸素欠乏症は死に至るだけでなく、その後の人生を大きく左右する可能性のある重大な労働災害です。予防策の徹底がいかに重要か、改めて認識する必要があります。

農業における酸素欠乏症の特殊な発生事例と対策

製造業や建設業で多く発生する酸素欠乏症ですが、農業現場にも特有の危険が潜んでいます 。一般的な閉鎖空間とは少し異なる、農業ならではの発生事例と、それに特化した対策を知っておくことが重要です。
【農業特有の危険な場所と原因】
以下の表は、農業現場における酸素欠乏症の危険がある場所と、その主な原因をまとめたものです。

危険な場所 主な原因 具体的な状況
果物・野菜の貯蔵施設(CA貯蔵庫など) 青果物の呼吸作用

収穫後も続く呼吸により、密閉された庫内の酸素が消費され、二酸化炭素濃度が上昇する
参考)https://www.pref.aomori.lg.jp/soshiki/nourin/nosui/files/h25y05.pdf
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飼料用サイロ 飼料(牧草など)の発酵 サイレージ(発酵飼料)を作る過程で微生物が活発に活動し、酸素を大量に消費する。
堆肥舎・発酵槽 有機物の分解(発酵) 堆肥や家畜の糞尿が発酵する際に、微生物が酸素を消費し、二酸化炭素やメタンガスを発生させる。
地下かんがい用水槽 水中の微生物の活動 長期間溜まった水の中で微生物が繁殖し、水中の溶存酸素や空気中の酸素を消費する。

【実際の事故事例から学ぶ】
過去には、ごぼうを貯蔵していた農業用倉庫内で、作業員が意識を失い死亡する事故が発生しています。この事故では、ごぼうの呼吸作用によって倉庫内の酸素濃度が著しく低下していたことが原因とみられています 。また、リンゴのCA貯蔵庫(controlled atmosphere storage:空気調整貯蔵)では、品質保持のために意図的に酸素濃度を低く設定しているため、作業手順を誤ると極めて危険です。
【農業従事者が取るべき追加対策】
基本的な予防策に加え、農業の特性を考慮した以下の対策を心がけましょう。

     

  • 🌱 収穫物の「呼吸」を意識する: 野菜や果物は生き物であり、密閉空間では自ら酸素を消費する危険物であるという認識を持つことが大切です。貯蔵庫に入る前は、単にドアを開けるだけでなく、換気扇などで最低でも15〜30分は強制的に換気しましょう。
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  • 🐮 発酵の力を侮らない: 堆肥やサイレージの発酵は、目に見えないところで大量の酸素を消費しています。「いつも大丈夫だから」という油断が命取りになります。特に、夏場など気温が高い時期は発酵が活発になるため、より一層の注意が必要です。
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  • 💧 水の溜まった場所は要注意: 使われていない井戸や地下水槽は、見た目以上に危険な状態になっている可能性があります。蓋を開けてすぐに中を覗き込むような行為は絶対にやめましょう。

農業は自然を相手にする仕事だからこそ、目に見えない空気の危険性についても正しい知識を持ち、日々の作業に活かしていくことが、安全な農業経営の第一歩となります。

 

 


酸素欠乏症等防止規則の解説〈オンデマンド版〉