搾乳機械は、現場でよく使われる形として「バケットミルカー(搾った乳を缶に貯める)」と「パイプラインミルカー(配管で処理室へ送乳)」に大別して整理すると理解が早いです。
さらに運用としては「人が牛の所へ動く(つなぎ+パイプライン)」か「牛が搾乳室へ動く(ミルキングパーラー)」か、あるいは搾乳ロボットか、という区分で作業設計が変わります。
方式を決めるときは、まず“牛の移動”と“人の移動”のどちらを減らしたいかを明確にします。パイプライン方式やミルキングパーラー方式が主流として紹介されるのは、この動線設計が省力と直結するからです。
参考)酪農にはこんな仕事がある
施設・機器の資料でも、パイプラインミルカーは「搾乳ユニットを乳頭に装着し、真空で機械的に搾乳し、配管で処理室へ送乳する」装置として説明されており、配管・真空・送乳まで一体で考える必要があります。
参考)https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/attach/pdf/souchi_kairyo-21.pdf
実務上の選び方の目安は、導入費だけでなく「1回の搾乳に必要な人数」「ピーク時間帯の詰まり」「洗浄のしやすさ」を同じ重みで比較することです。ja-kushirotancho+1
特にパーラーは、作業者が一定位置(ピット)で作業できる一方、方式(ヘリンボーン、パラレル、ロータリー等)で見え方や安全性が変わるため、現場の癖(蹴りやすい牛が多い等)も織り込むと失敗が減ります。
参考:搾乳・生乳処理設備(パイプライン、真空配管、設置方式など)の説明(機器選定の根拠に)
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/sinko/lin/l_siryo/attach/pdf/souchi_kairyo-21.pdf
搾乳機械の心臓部は「真空(吸引)」と「脈動(乳頭を休ませる周期)」で、ここがズレると乳が出ないだけでなく乳頭に負担が出やすくなります。
行政系の設備資料でも、パイプラインミルカーは“真空の作動により機械的に搾乳を行う”と明記されており、真空ポンプや配管条件は“機械の一部”として扱う必要があります。
意外と見落とされやすいのが、配管の高さや送乳の抵抗が「ユニット側の真空の安定性」に影響する点です。
参考)真空1系統と2系統の違い
メーカー解説では、ハイライン方式で生乳を持ち上げる際の圧力損失が搾乳真空を不安定にし得るため、搾乳真空(低真空)と送乳真空(高真空)を分けて安定化させる考え方が紹介されています。
現場のトラブルとしては、乳が急に止まる・ライナーが外れやすい・音が変わる、といった“症状”が先に出ますが、原因は真空漏れ、脈動の不具合、ホース長や取り回し不良など複合になりがちです。
参考)http://hyoraku.or.jp/pdf/document/1-1.pdf
搾乳手順のマニュアルでも、ミルカー装着時に空気を流入させない工夫や、ロングミルクチューブを最短にして牛体に平行にする注意点が示されており、装着のクセが真空の乱れにつながることがわかります。
搾乳機械は「搾る部分」よりも「洗浄の再現性」が乳質を決める、と言っても過言ではありません。
乳質改善マニュアルでも、搾乳後の搾乳機器の洗浄が衛生的な乳質確保に重要である位置づけで整理されています。
現場で効くのは、洗浄を“気合”ではなく工程管理にすることです。タオル運用ひとつでも「一頭一布以上」「洗濯後はふた付き容器で保管」など、汚染を持ち込まないルールが示されています。
また、次亜塩素酸ナトリウムは40℃前後で殺菌効果が高い一方、43℃を超えると有効塩素の分解が速まり効力が落ちやすい、という温度の注意点が具体的に書かれています。
濃度も同様で、高ければ良いわけではなく、200ppmになるよう希釈する指針が示され、濃度が高いと逆に殺菌力が低下する点まで触れられています。
この「温度・濃度・保管」を固定化すると、洗浄の結果が安定し、乳質のブレが減って原因追跡もしやすくなります。
参考:正しい搾乳手順・洗浄・乳房炎対策・点検のまとまった解説(現場教育のベースに)
http://hyoraku.or.jp/pdf/document/1-1.pdf
乳質指標の中でも体細胞数は、搾乳管理・乳房炎・機器状態の影響を受けやすく、現場改善の“結果”が数字で出やすい指標です。
家畜改良事業団系の資料では、ライナースリップとドロップレッツ現象の話題を通じて、スリップが起きると汚染物を吸い込み、逆流に乗って乳房へ侵入し得る、というメカニズムが説明されています。
ここが意外なポイントで、「乳房炎=環境や牛側だけ」と捉えると、搾乳機械が原因のケースを見逃します。スリップが増えると、ミルカー自体が乳房炎の原因になり得る、という指摘は重いです。
参考)https://liaj.lin.gr.jp/wp-content/uploads/2024/01/liaj155_06.pdf
さらに、ライナーゴムの交換目安として“搾乳回数1500回または3カ月(いずれか早い方)”が一般的とされ、回数で先に限界が来る例(2カ月程度で交換が必要になる計算)まで示されています。
搾乳手順側でも、搾乳中のライナースリップには素早く対処する、という注意があり、スリップを「起きても仕方ない」から「起きたら即対処」へ運用を変えるだけで、乳頭負担と乳質の悪化リスクを下げられます。
交換・点検を“月日”だけで決めず、「搾乳回数」「スリップ頻度」「乳量の波形(空搾り感)」とセットで見ていくと、無駄交換を減らしつつ事故を防げます。liaj.lin+1
搾乳機械の導入効果は「機械の性能」より「人の動きが規格化できるか」で決まる場面が多いです。
搾乳手順のマニュアルでは、前搾りからミルカー装着までの時間(乳頭刺激時間)が重要であること、そして“誰が搾っても同じ手順・適正なタイミングで装着できるようにする”ことが強調されています。
ここを現場で実装するなら、搾乳を“職人技”から“工程”に落とすのが近道です。例えば、つなぎ牛舎なら搾乳カートを用意してタオル・薬剤・検査具を定位置化すると、手順抜けが減り作業性が上がる、と具体例が載っています。
また、チーム搾乳では担当頭数と役割を明確にし、原則2~3頭を同じ手順で回す、という運用の考え方が示されており、パーラーでも「分業のしすぎでタイミングが崩れる」事故を防ぎやすくなります。
“意外と効く”のは、異常の早期発見を作業に埋め込むことです。ストリップカップでブツや血乳などの異常をチェックし、牛床に搾り捨てないなど、衛生と観察を同時に満たす手順が整理されています。
搾乳機械の話に見えて、実は人の動線・道具の配置・役割分担が、真空の乱れやスリップや洗浄の揺れを増幅させるため、レイアウト改善(カート、置き場、歩数削減)は乳質改善の“機械投資に近い効果”を生むことがあります。