農業都市における持続可能な発展と地域活性化の未来

都市部で営まれる農業都市は、新鮮な農産物供給だけでなく、防災空間確保や地域コミュニティ形成など多面的な役割を果たしています。市街化区域内での農業経営は、消費地に近い地の利を活かした高収益モデルとして注目されていますが、土地コスト高騰や後継者不足といった課題も抱えています。農業都市は地方創生の鍵となり得るのでしょうか?

農業都市とその多面的機能

農業都市の主な機能
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新鮮な農産物の供給

消費地に近い立地を活かし、鮮度の高い野菜や果物を都市住民へ迅速に届けられる

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防災空間の確保

災害時の避難場所や延焼防止帯として、都市住民の安全を守る重要な役割を担う

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地域コミュニティの形成

農業体験や交流活動を通じて、都市住民と農業者が繋がる場を提供する

農業都市の定義と基本概念


農業都市とは、市街地及びその周辺地域において行われる農業を指します。2015年に制定された都市農業振興基本法では、農業生産面において農林統計で用いられる都市的地域を農業都市とみなしており、全農家数の25%、全耕地面積の27%を占めています。従来の近郊農業とは区別され、都市計画区域内やその近郊において営まれる産業としての農業を意味しています。


参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/tosi_nougyo/attach/pdf/kihon-1.pdf

市街化区域内農地は全農地の1.3%程度に過ぎませんが、都市住民との距離が近いという立地を活かした農業を行うことで、全国の農業産出額の1.8%を占めています。都市農業は単なる農産物生産の場ではなく、大都市の消費者にとって生産過程を目にしやすく、信頼関係も構築しやすいという特徴があります。


参考)都市農業とは? 近郊農業との違いやメリット・デメリットを解説…

日本の都市農業の典型的なエリアは、三大都市圏の特定市の市街化区域内及びこれに隣接する地域とされています。都市の中で都市と調和しつつ存在する農業として、その多面的な機能が近年ますます注目されています。


参考)都市農業 - Wikipedia

農業都市における新鮮な農産物供給の仕組み

農業都市の最大の強みは、産地と消費地が一体であるという地理的優位性です。都市農業では稲作や畜産の割合が少ない一方、野菜や果実、花卉などの施設型作物が多く作られ、高い収益を上げています。温室などの施設を利用することで年に数度もの野菜を生産でき、収益性の高い農家が多いのが特徴です。


参考)都市農業とは?特徴やメリット・デメリット、実践例も - Sp…

東京都練馬区の白石農園では、140アールの農地で従来の多品種生産に加えて、都内ではほとんど栽培されていないアスパラガスの栽培に乗り出しました。これは他農園との差別化を図るとともに、地場産野菜への関心を高めるという狙いがありました。消費者に近いという利点を生かした新鮮な農作物の供給ができる点は、農業都市の大きな特徴と言えます。


参考)野菜を育てるだけじゃない!都市農業のさまざまな役割

輸送コストを抑えながら鮮度の高い農産物を提供できるため、食料の安定供給に貢献しています。全国の農家が稲作を中心とする農産物の販売を系統もしくは卸に依存するのに対して、都市農家は青果物を中心とする農産物や農産加工品、もしくは市民農園などの関連サービスを、自ら消費者や実需者へ直接販売・提供しています。


参考)企業の農業参入と都市農業ビジネス − 曲がり角を迎える企業の…

農業都市が果たす防災機能と緑地空間

農業都市は農産物の生産以外にも、都市住民の生活と密接にかかわるさまざまな機能を持っています。特に防災面では、災害時の避難場所や延焼防止帯としての重要な役割を果たしています。農地は生活環境を保全する緑地としても大きな役割を果たしており、火災発生時の延焼防止や震災発生時の一時避難場所として機能します。


参考)第29回 都市農業への理解促進に力/土づくりや食農教育でファ…

都市農業振興基本法においても、身近な農業体験・交流活動の場の提供、災害時の防災空間の確保、やすらぎや潤いをもたらす緑地空間の提供が明記されています。都市の中での農業の価値は、新鮮な作物を都会の住人に供給するだけではなく、人々の心に潤いを与え、地域のコミュニティの形成や高齢者の健康にも寄与する可能性があります。


参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/nougyou/kentoukai/dai1/pdf/tosi_kento1_siryo2.pdf

都市農業振興基本法の詳細(農林水産省)
都市農業の法的定義と施策の基本方向が示されています。


国土交通省が作成した「都市と緑・農が共生するまちづくり 優良取組事例集」では、農業公園を拠点とした都市農業経営の継続・発展や、新たな農業経営モデルとその支援の取り組みが紹介されています。喜多見農業公園では野菜づくりなどの農業体験の講習会やイベントを実施し、地域住民との交流を深めています。


参考)https://www.mlit.go.jp/common/001341508.pdf

農業都市におけるビジネスモデルと収益性

農業都市では、消費地に産地を有する「地の利」を活かした高収益な農業ビジネスが実践可能です。いわば6次産業化の実践であり、農作物の生産する1次産業、生産物を加工する2次産業、加工品の販売や飲食、宿泊などの3次産業を掛け合わせた新しい産業形態が注目されています。


参考)農業ビジネスで起業!ビジネスモデルから徹底紹介!

埼玉県深谷市は「儲かる農業都市 ふかや」として、作付面積全国一位の深谷ねぎ、ブロッコリーをはじめ、農業産出額全国トップクラスを誇ります。都市農業を専業として、かつ一定規模で事業を営む都市農家はそれほど多くなく、ビジネスの観点からみても競合環境は穏やかです。


参考)儲かる農業都市 ふかや~アグリテック集積戦略 DEEP VA…

深谷市のアグリテック集積戦略(独立行政法人農畜産業振興機構)
農業都市として成功している深谷市の具体的な取り組みが紹介されています。


企業の農業参入として都市農業に注目する理由は、相対的に収益性の高い農業ビジネスが実践可能な点にあります。参入企業が都市に農園を持つことで、従業員や都市の消費者との接点を通じたシナジーが期待され、在宅ワークによるコミュニケーションの希薄化を補う効果も期待できます。

農業都市が直面する課題と将来展望

農業都市を進めるうえで、土地の確保とその利用コストの高さは大きな障壁となっています。都市部では土地の需要が非常に高く、農業に使えるスペースは限られているのが現状です。さらに、都市農地として活用するには、地代や固定資産税などの経済的負担が重くのしかかることがあります。


参考)注目の都市農業とは?メリット・デメリットとお客さま事例を紹介…

一方で、2025年から2040年の15年間で現役人口(20歳~64歳)が約1,000万人減少するとされる「2040年問題」に対して、農業都市は新たな解決策を提示する可能性があります。高齢者が参加できるコミュニティ農園の設置や、都市農業を通じた健康増進などのスキームが考えられ、労働力が減少する中で、都市農業の効率化や自動化が進む可能性もあります。


参考)都市農業の未来計画~新しい「都会のオアシス」その魅力と挑戦~…

東京都国立市と埼玉県草加市では、都市農業に活路を見出そうとするユニークな取り組みが進んでいます。特に草加市では、リノベーションまちづくりの中に「農」の要素を取り入れており、都市計画や商業振興だけでなく、農業の振興も視野に入れています。これにより、都市の中での農業の価値を再認識し、新しいコミュニティの形成を目指しています。

都市と農の共生事例集(一般財団法人都市農地活用支援センター)
全国各地の農業都市における先進的な取り組み事例が多数掲載されています。


都市農業の未来は、多くの人々が協力し合い、多様な地域資源を繋ぎ合わせることで、より豊かで持続可能なものになると言われています。地域住民や事業者、行政との連携を深めることで強固なコミュニティを形成し、都市の中での農業の可能性を最大限に引き出す新しいまちづくりが期待されています。




都市農業必携ガイド 市民農園・新規就農・企業参入で農のある都市(まち)づくり