蒸し機(製茶)の蒸熱工程の第一の目的は、生葉中の酸化酵素を短時間で失活させ、発酵を止めて緑色を保つことです。 酸化酵素が働いたままだと葉が褐変し、緑茶というよりウーロン茶や紅茶の方向に品質が流れてしまうため、この「殺青」の確実さが製品の方向性を決めます。
同時に、蒸熱は生葉の青臭さを抑えつつ、茶葉の柔軟性を増し、後工程の揉乾作業をスムーズにする役割も持っています。 蒸し時間・蒸気の当たり方によって、香り・渋味・水色といった緑茶の基本性格がほぼここで決まるため、蒸し機(製茶)は「品質のスイッチ」を握る工程と言えます。
一般に蒸し時間を長くすると細胞膜が壊れやすくなり、水色は濁りやすくなる一方で色沢は明るくなり、渋味と香気は穏やかになります。 逆に若蒸しでは香りが立ちやすく水色は澄みますが、後工程での揉みや乾燥の難度が上がることもあり、栽培条件や狙う市場に応じた蒸し度設計が重要です。
代表的な胴回転式の蒸し機(製茶)は、円筒状の金網胴が回転し、その中心に突起の付いた撹拌軸があり、そこへ圧力のない飽和蒸気を吹き込みながら茶葉を跳ね上げて均一に蒸します。 外釜を二重構造にして保温層を持たせたり、左右から蒸気を入れるダブル蒸気導入口を設けてムラを減らす構造も一般的で、外気冷却による蒸し露の付着や色変化を抑える工夫がされています。
蒸し機(製茶)で使う蒸気は、なるべく低圧の飽和蒸気がよく、生葉1kgあたり必要な蒸気量は理論上約200g、熱損失を見込んで300g程度を目安に設定されます。 圧力を上げ過ぎると蒸気温度が上がり、凝縮潜熱の放出が遅れて若蒸しやムラ蒸しの原因となり、逆に低圧すぎると配管内で凝縮し、蒸し露が付きやすくなるため、ボイラ缶体圧力と配管保温のバランスが重要です。
金網胴の回転数は、芽の硬さや狙う蒸し時間から計算式で求めることができ、みる芽・普通芽・硬葉に応じた係数と蒸度係数を掛け合わせて最適値を出す指標が示されています。 撹拌軸の回転数も別式で計算し、みる芽では高回転・硬葉では低回転とすることで、葉切れや上乾き、黒みといった欠点を抑える運転が可能です。
蒸し機(製茶)に投入する生葉量は、機種能力と胴の傾斜角度によって「適正な在胴量」が決まり、この範囲を外れると一気にムラ蒸しや葉切れが増えて品質が不安定になります。 葉が多すぎると込み合って重なり合い、蒸し露が多くなって綺麗に蒸せず、少なすぎると過剰蒸しになりやすい、と現場レベルでの注意点も指摘されています。
蒸し度の調節は、胴回転式蒸し機では主に金網胴の傾斜角度で行い、角度を急にすると在胴時間が短くなり、緩くすると長くなります。 たとえばみる芽なら25〜30秒、普通芽なら30〜35秒、硬葉では35〜40秒程度を目安に、紐をつけた芽を流して通過時間を実測するなど、アナログな確認方法が今も有効とされています。
蒸気流量の計算例としては、生葉1kgあたり0.3kgの水蒸気を必要とするとし、生葉40kgを10分で蒸す場合には投入量240kg/時、必要蒸気流量72kg/時といった関係式が紹介されています。 この初期設定をベースに、茶期の進み具合や萎凋の程度、天候などを見ながら「経験と勘」で微調整していくのが実務で、数値と感覚の両輪がうまく噛み合ったラインが安定した品質を出し続ける傾向があります。
蒸し機(製茶)を出た直後の蒸葉は高温で水滴が多く付着しており、そのまま放置すると色沢が失われ、香味も劣化してしまいます。 そのため、冷却機での急速・均一な冷却と蒸し露の除去が必須であり、製茶工場全体の換気を良くして低湿度の新鮮空気を供給することが冷却効率を高めるポイントです。
冷却後の葉打ち工程では、蒸し機で良く蒸した場合ほど表面水分が多く「ぐしゃ揉み」になりやすいため、短時間で表面水分を取るよう熱風温度・風量・投入量を調整する必要があります。 蒸し度が強いと葉打ちの投入量を基準より5〜10%増やすことが推奨されており、この調整を怠ると粗揉以降で色沢の黒みや水色の赤黒み、能率低下といった形でしっぺ返しが来ることが報告されています。
粗揉・揉捻・中揉・精揉と工程が進むにつれ、茶温・熱風温度・もみ手圧・回転数は細かく変化させますが、元の蒸し度が強いか弱いかで最適なパターンは変わります。 実際には、粗揉機への投入量を胴容量1㎥あたりみる芽70kg・普通芽65kg・硬葉60kgといった基準から加減しながら、蒸し機(製茶)の設定も含めた「ライン全体のチューニング」として考えるのが効率的です。
蒸し機(製茶)で生葉を加熱しているのは、蒸気温度そのものではなく、蒸気が葉に当たって凝縮するときに放出される凝縮潜熱である、という点は意外と見落とされがちです。 高温高圧にすればするほど良く蒸せるように思えますが、実際には温度が高いほど100℃まで下がる時間が長くなり、かえって蒸し効率が落ちるという逆説的な現象が起きます。
また、茶葉中の酵素類は蒸熱で不活性になると一般には説明されますが、最近の分析では蒸熱時間の設定次第で一部酵素活性が残るケースも示唆されています。 殺青をギリギリに抑えつつ、軽い発酵感や独特の香りを狙うような商品設計では、蒸し機(製茶)の蒸気圧・蒸し時間・投入量を微妙にずらして「完全には殺し切らない蒸熱」を意識的に使い分ける余地も考えられます。
さらに、ボイラ缶体水位を変えることで乾燥蒸気か湿り蒸気かを制御し、みる芽には乾燥蒸気、硬葉には湿り蒸気を使い分けるという基準も提示されています。 同じ蒸し機(製茶)でも、ボイラ側の運転を含めて蒸気品質をチューニングすることで、蒸し露の出方や葉の柔らかさ、色沢が変わるため、「蒸し機の前にあるボイラも含めた一体の道具」として設計し直す視点が、これからの差別化要素になり得ます。
蒸熱工程の基礎と品質への影響が整理されている資料の参考リンクです。ocha+1
煎茶の製造工程 荒茶工程|お茶ができるまで(日本茶業中央会系サイト)
蒸し機(製茶)の蒸気量・回転数・傾斜など具体的な数値基準が詳しい技術資料です。
参考)https://www.pref.nara.jp/secure/261590/3_2futuusenntya_kabusetya.pdf
普通煎茶・かぶせ茶製造指針(奈良県農業研究開発センター)