コレシストキニンと家畜の生理と採食と消化

コレシストキニンが家畜の生理でどんな役割を持ち、採食や消化、離乳期の変化にどう関わるのかを現場目線で整理します。飼料設計や管理の改善にどこまで活かせるのでしょうか?

コレシストキニンと家畜と生理

この記事で押さえるポイント
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満腹・採食のブレーキ

コレシストキニン(CCK)は「食べた後に抑える」方向へ働き、採食量や採食パターンに影響します。

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消化のアクセル

胆嚢収縮(胆汁排出)や膵消化酵素分泌を促し、脂質・タンパク質の消化効率を左右します。

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離乳期の「反応の切り替わり」

仔ヤギでは離乳前後で採食(哺乳)に伴うCCK反応が大きく変化し、管理の工夫点が見えてきます。

コレシストキニンの生理と消化


コレシストキニン(CCK)は、家畜の「消化を進める」側面と「採食を抑える」側面を同時に持つ消化管ホルモンです。
主な生理作用として、摂食量の減少(満腹方向)、膵臓からの消化酵素分泌促進、胆嚢の収縮(胆汁酸分泌促進)、消化管運動の促進、胃内容排出の抑制が挙げられます。
現場で言い換えるなら、CCKは「食べた後に、胆汁と膵液を出して消化を前へ進めつつ、食べ過ぎを抑えるブレーキも踏む」仕組みの中心にいるホルモンです。
採食後の家畜体内では、飼料由来の栄養素が腸管へ流入することが刺激になり、CCKが分泌されやすくなります。


参考)https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030752910.pdf

特にタンパク質・脂質(またはその代謝産物)の流入がCCK分泌を強く促進しやすい、という整理は飼料設計を考える上で重要です。

濃厚飼料の比率や脂質の供給源を変えた時、「消化の化学反応(酵素・胆汁)」だけでなく「内分泌の反応(CCK)」も一緒に変わる可能性がある、という視点が持てます。

コレシストキニンの採食と反芻の生理

反芻家畜の採食は、単に胃に入る量だけではなく、採食→反芻→胃腸運動→排出の流れ全体がセットで動く生理です。
CCKはこの一連の流れの中で、摂食量を抑えたり、消化管の運動性に関わったりしながら、採食から排泄までの制御に関与するとされています。
つまり、採食量だけを見て「食いが落ちた」と判断するより、採食のタイミング、採食速度、反芻、糞性状まで含めて“連動しているか”を見る方が、CCKの影響を現場で捉えやすくなります。
反芻家畜は離乳前後で消化の主戦場が変わります(離乳前は主に下部消化管、離乳後はルーメン発酵とVFA利用が重要化)。

この切り替えに伴い、同じ「採食」という行動でも、CCKを含む腸管ホルモンの分泌調節が大きく変化し得る点がポイントです。

採食設計(回数、給与時間、飼料の形状・成分)は、ルーメンだけでなく腸管ホルモン反応の“出方”にも影響しうる、と考えると管理の見直しの幅が広がります。

コレシストキニンと離乳の生理

仔ヤギの研究では、離乳前は哺乳(代用乳給与)により血漿中CCK濃度が有意に上昇する一方、離乳後では同様の採食刺激でCCK濃度の明確な変動が見られないことが示されています。
同研究では、採食によるCCK分泌反応面積(AUC)や増分(Incremental Area)が離乳前の方が離乳後より有意に高い、と報告されています。
現場的に重要なのは、「離乳後も同じ感覚で“食後反応”が出るとは限らない」ことで、離乳期は“飼料を変えたら反応も変わる”だけでなく、“反応する装置自体が切り替わる”時期として扱う方が安全です。
離乳後にCCK反応が弱まる理由として、下部消化管への消化物の流入速度低下、摂取飼料中の脂肪含量低下、加齢による調節メカニズムの変化などが考察されています。

この整理から、離乳設計では「食べさせる量」だけでなく、脂質・タンパク質の“腸への入り方”を変えない工夫(急激な切替を避ける、嗜好性・形状で摂取パターンを整える等)がヒントになります。

離乳期に下痢や採食停滞が出た時、ルーメン発酵の立ち上げだけでなく、CCKを含む消化管ホルモンの反応変化も背景にある可能性を置いておくと、原因の切り分けがしやすくなります。

コレシストキニンと十二指腸の生理

消化管組織中のCCK含量は、反芻動物(仔ヤギ)では十二指腸が他の部位より格段に高い値を示し、血中に放出されるCCKの多くが十二指腸由来である可能性が示唆されています。
この点は「腸(特に十二指腸)は、単なる吸収の場ではなく、消化を制御する司令塔的な内分泌器官でもある」という理解につながります。
そのため、十二指腸へ流入する栄養素の種類・量・タイミング(=飼料設計と給与法)が、胆汁・膵液の出方や採食抑制の出方に波及する、という因果の筋道が作れます。
また、同研究では離乳により十二指腸中のCCK含量が減少する一方、第4胃(アボマサム)ではCCK含量が大幅に上昇した、という興味深い結果も示されています。

第4胃でのCCK含量上昇は「現在まで一切報告がない」とされ、詳細メカニズムが不明とされていますが、離乳期の内分泌調節が部位ごとに組み替わる可能性を示す材料になります。

現場で“意外な情報”として効くのは、離乳期のトラブルを「ルーメンの問題」に寄せ過ぎず、第4胃・十二指腸を含む下流側の生理変化も同時に疑えるようになる点です。

コレシストキニンと飼養管理の生理(独自視点)

CCKを「測れないホルモン」として終わらせず、飼養管理の点検表に落とすと、現場で再現性が出ます。
ポイントは、CCKが「栄養素の腸への流入」に反応し、「摂食量抑制」と「消化促進」を同時に回すことです。
つまり、飼料設計の変更で“採食が落ちた”時、それが嗜好性だけでなく「食後にブレーキが強く出た(CCK方向)」結果である可能性も、理屈としては置けます。
次のような観察項目を、CCKという“見えない要因”を扱うための代替指標として持つと整理しやすくなります。


  • 🐄 採食開始から10~30分の食べ方(早食い→急に止まる/ゆっくり一定)
  • 💩 糞の水分・未消化粒・泡立ち(消化・胆汁・膵液の出方の乱れの可能性)
  • 🧾 給与設計(脂質・タンパク質の増減、給与回数、急な切替の有無)
  • ⏱️ 離乳・移行期の“段階設計”(日数、混餌比率、ストレス要因の同時発生)

さらに、離乳前後でCCK反応が変わるという知見を踏まえると、「同じ手当てが同じ効き方をしない」前提で計画を組むのが安全です。

例えば、離乳前の“哺乳後に落ち着く”個体と、離乳後の“食後に反応が読みづらい”個体を同じ評価軸で見ない(採食量の増減だけで一喜一憂しない)など、管理の見立て精度が上がります。

参考:離乳前後のCCK分泌変化、十二指腸・第4胃のCCK含量、CCKの主な生理作用(摂食抑制、膵酵素分泌、胆嚢収縮など)の根拠
仔ヤギにおけるコレシストキニン(CCK)の分泌調節と機能に関する研究(栄養生理研究会報, 2008)




医学のあゆみ 自律神経のサイエンス 2023年 285巻6号 5月第1土曜特集[雑誌]