経営継続補助金の大枠は、「新型コロナウイルス感染症の影響を克服するため」に、感染拡大防止対策を行いつつ、販路回復・開拓や事業継続・転換のための機械・設備導入、人手不足解消の取組を総合的に支援する、という設計です。
この補助金の“本道”は、トラクターを買うこと自体ではなく、「経営計画」に基づいて、何をどう変えて経営を継続するかを説明できるかにあります。
まず、補助対象経費の中心は「機械装置等費」です。公募要領には、機械装置等費は「事業の遂行に必要な機械装置等の購入」に要する経費であること、そして“単なる取替え更新”は補助対象にならない旨が明記されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/68151d13a513fcce4daca8af29ff7a4146e5ec7d
つまり、同じトラクター導入でも、言い方を誤ると「古い機械の買い替え=更新」と見なされ、説明の筋が悪くなります。
トラクターを機械装置等費として計上するなら、導入目的を「省力化」「接触機会の削減」「作業の効率性向上」などに結びつけ、経営継続の取組として具体化するのが基本です。
公募要領の取組例では「作業員間の接触を減らすための省力化機械等の導入」が例示され、農業用機械の自動操舵システム等も挙げられています。
また、費目は機械装置等費だけではありません。広報費、展示会等出展費、委託費、外注費なども対象経費として整理されているため、例えば「ネット販売」「販路回復」の取組と合わせて、計画を“経営全体の転換”として見せる設計も可能です。
ただし、補助対象外の例も大量に列挙されており、パソコン・タブレット等の汎用機器、通信費、補助金応募書類作成・送付費用などは対象外とされています。
「対象経費に見えるが落ちる」典型が、オプション・付属品や維持費です。公募要領では、車両の補助対象は車体に係る経費のみで、カーナビ等の付属品、税金、検査登録手数料、燃料代等は補助対象外と示されています。
トラクター導入でも、見積の内訳にメンテ契約、消耗品、油脂類などが混ざりやすいので、最初から見積を分ける(本体/対象外)発想が重要になります。
採択の要点は「補助要件」に沿って計画を組むことです。特に重要なのが、(経営の継続に向けた取組の)補助対象経費の6分の1以上が、「接触機会を減らす生産・販売への転換」または「感染時の業務継続体制の構築」に合致する投資であること、という要件です。
ここでトラクターをどう位置付けるかが勝負です。例えば、作業が分散していたために複数人で同時進行していた工程を、作業幅・作業速度・精度の向上で“同時作業の密度”を下げ、少人数で回せるようにする——この方向性なら「接触機会を減らす」に寄せやすいです。
また、公募要領の具体例には「作業員間の接触を減らすための省力化機械等の導入」や、機械化体系確立用農機、自動操舵システムなどが挙げられています。
一方、注意点もあります。補助対象経費は「使用目的が本事業の遂行に必要なものと明確に特定できる経費」であることが前提で、事後に説明できない投資は危険です。
つまり「便利だから」「古いから」だけでは弱く、作業工程(いつ・誰が・何を・どれだけ)を棚卸しして、導入後にどう変えるかまで文章化する必要があります。
要件に絡める際に強いのが、販売側の接触削減です。取組例として、ネットでの販売、移動販売の導入、無人販売(野菜自動販売機等)やキャッシュレス決済端末等の導入が示されています。
トラクター導入だけで要件の文章を作るより、出荷調整・梱包・積込・配送などの導線も含めて“接触機会の削減”を計画に織り込むと、説明の骨格が太くなります。
なお、この補助金は全国農業会議所が実施主体として公募を行い、すでに公募は終了していると明記されています。
そのため、今から同名の補助金に申し込むというより、「過去制度の要件に似た事業での計画作り」「別制度での説明の型」として、要件の考え方を流用するのが現実的です。
公募要領では、申請に際して「支援機関」の確認が必要で、地域の農業協同組合等などの支援機関に経営計画書等を提出し、確認書(様式3)の発行を受けた後に、補助金事務局へ郵送提出する流れが説明されています。
また、締切に余裕をもって相談すること、書類不備があると受付できないこと、電子媒体(Excel形式)の提出が必要で送付漏れがあると採択審査ができないことなど、運用面の注意が具体的です。
経営計画の中身は、「国内外の販路の回復・開拓」「生産・販売方式の確立・転換」「円滑な合意形成の促進等」のいずれかの取組を含む計画として整理されます。
トラクターを絡めるなら、多くの場合は「生産・販売方式の確立・転換」側に置き、品質向上・省力化・安全対応などの文脈で、工程の変更点を具体に書きます。
書き方のコツは、設備名より“行動の変化”を主語にすることです。例として、以下のように文章を組むと計画が締まりやすいです。
また、補助金は「交付決定通知書」受領後の発注・契約・支出が原則である一方、特例として令和2年5月14日以降に発生した経費を遡って認めるなど、時期要件が細かく規定されています。
支払は口座取引が大原則で、原則として1取引10万円超(税込)の現金支払いは不可、小切手・手形不可、相殺不可など、会計処理のルールも厳密です。
この補助金で最も“後から効く”のが、証拠書類の保存と、処分制限財産の考え方です。全国農業会議所の案内では、補助金の交付を受けた農林漁業者は、帳簿や支出の根拠となる証拠書類等を、事業完了年度から5年間保存する必要があるとされています。
公募要領でも、補助事業関係書類の5年間保存、会計検査院による実地検査の可能性、検査結果によって返還命令等があり得る点が明記されています。
さらに重要なのが「処分制限財産」です。全国農業会議所のページでは、取得価格50万円以上の施設・設備(財産)は、耐用年数に相当する期間内の処分(目的外使用、譲渡、貸付、担保、取壊し等)に制限がかかり、事前承認が必要で、場合によっては補助金の一部返還等の条件が付され得ると説明されています。
公募要領でも、単価50万円(税込)以上の機械装置等は処分制限財産に該当し、承認なく処分すると交付取消・返還命令の対象になり得ると繰り返し注意されています。
トラクターは金額的に50万円を超えることが多いので、採択後は「使い方の証拠」を残す設計が必須です。最低限、次を揃えると後工程が楽になります。
意外と盲点なのが「消費税」です。全国農業会議所の説明では、補助金は特定収入であり、消費税を含む補助金の交付を受けた場合に、仕入控除を受けると“自らが支払っていない消費税の仕入控除”となり、返還が必要になる場合があるため、確定申告後に報告が必要とされています。
公募要領でも、原則として補助対象経費から消費税等を減額して申請する扱い、一定の事業者は例外的に税込計上が認められる扱いが整理されています。
検索上位の解説記事では“新品購入”の話に寄りがちですが、実務では中古トラクターの扱いが大きな分岐点になります。公募要領には、中古品購入は一定条件のもと補助対象経費として認めること、条件として「法定耐用年数を経過しておらず残存耐用年数が2年以上」「見積書または価格妥当性を証明する書類(同等中古品価格のネット情報等)が整備されていること」などが明記されています。
そして中古品は、故障や不具合の修理費用は補助対象にならず、故障等で計画の取組に使用できなかった場合は補助金の対象にできない、と注意されています。
ここが“意外と知られていない現場の怖い点”です。中古でコストを抑えたつもりでも、故障で計画が崩れると、補助金の説明が破綻します。
中古を選ぶなら、価格の妥当性資料だけでなく、稼働の確実性(整備記録、点検、保証、部品供給の見込み)まで含めて、計画のリスク管理として文章化すると説得力が上がります。
独自視点としておすすめなのは、「中古+外注費(整備ではなく“工程変更の外注”)」の組み合わせで、接触機会削減の効果を“運用”で担保する考え方です。例えば、繁忙期だけ外注で一部工程を切り出して人員を分散させる、作業場のレイアウト変更を外注して導線を変える、といった構成です。
こうすると、トラクターはあくまで工程改革のパーツになり、「単なる更新」に見えるリスクを下げられます。
参考:制度の目的、公募終了、証拠書類の保存、処分制限財産、消費税の注意点
https://www.nca.or.jp/support/farmers/keieikeizoku.html
参考:補助要件(6分の1要件)、補助率・上限、対象経費(機械装置等費)、中古品条件、支払方法、保存義務などの一次情報(公募要領)
http://www.ikgyoren.jf-net.ne.jp/pdf/history/20200716-2.pdf