「データソース(Data Source)」という言葉を分解すると、「データ(Data)」と「ソース(Source)」になります。「ソース」には「源泉」「水源」「情報源」という意味があります 。つまり、直訳すれば「データの源泉」となりますが、ITやビジネスの現場では、アプリケーションやシステムがデータを取り出すための「接続先」や「保管場所」そのものを指すことが一般的です 。
参考)データソース。データソースとは何か、種類と例
農業の現場に例えるなら、用水路に流れる水が「データ」であり、その水を供給しているダムや湧き水ポイントが「データソース」です。もし水源が汚れていれば、当然流れてくる水も汚れてしまいます。これと同様に、データ分析や経営判断を行う際、その元となるデータソースが正確で信頼できるものでなければ、どれだけ高度なAIや分析ツールを使っても正しい結果は得られません 。
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具体的には、以下のようなものがデータソースとして定義されます。
多くの人が「データベース」と「データソース」を混同しがちですが、この二つはイコールではありません。データベースはデータソースの一種に過ぎず、データソースという大きな枠組みの中に、データベースやファイル、センサーなどが含まれているという包含関係にあります 。農業経営において「データソースを確保する」という場合、単にパソコンにデータを保存するだけでなく、圃場の環境データや外部の気象予報など、あらゆる情報の入り口を整備することを意味します。
データソースには多種多様な形態がありますが、システム的な観点からは大きく分けて「マシンデータソース」と「ファイルデータソース」という分類がなされることがあります。また、データの発生元という観点からは「一次データ」と「二次データ」に分けることもできます 。
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| 分類 | 種類 | 特徴と農業でのイメージ |
|---|---|---|
| 接続方式による分類 (ODBC等) |
マシンデータソース | 特定のパソコンやサーバーの設定に依存して接続するタイプです。他の環境へ簡単に持ち運ぶことが難しいため、特定の選果場や事務所のメインPC内だけで完結するシステムなどで使われます 。 |
| ファイルデータソース | 接続情報がファイル自体に含まれており、誰かと共有しやすいタイプです。クラウドに置いて複数の農家でデータを共有する場合などに適しています 。 | |
| 発生元による分類 | 一次データ (内部データ) |
自社の活動から直接得られるデータです。自分の農場の収穫量、作業時間、ハウス内の温度ログなどがこれに当たります。独自性が高く、経営改善の核心になります 。 |
| 二次データ (外部データ) |
外部機関が作成・公開しているデータです。気象庁の天気予報、JAの市況データ、農林水産省の統計などが該当します。自社データと比較分析するために不可欠です 。 |
特にスマート農業においては、この「データベースとの違い」を理解しておくことが重要です。データベースは整理整頓された「本棚」のようなものですが、データソースは「本棚」だけでなく、書きかけのメモ(CSVファイル)や、空から降ってくるラジオ放送(センサーからのリアルタイム通信)も含みます 。
Excelで管理している出荷記録も、システムに読み込ませて分析ソフトで表示させた瞬間、そのExcelファイルは「データソース」としての役割を果たします。逆に、手書きのノートに書かれた記録は、デジタル化(データ入力)されない限り、ITシステムにとってのデータソースにはなり得ません 。ここがデジタル化の第一歩となるポイントです。
参考)Talend logo
現代の農業、特にスマート農業と呼ばれる分野では、多様なデータソースをいかに組み合わせるか(マッシュアップするか)が重要視されています。単一のデータソースだけでは見えなかった傾向が、複数を掛け合わせることで見えてくるからです 。
参考)スマート農業を支えるICTとは?センサー通信・データ連携・遠…
農業現場で活用される具体的なデータソースの例を見てみましょう。
これらのデータソースを活用する際に意外と見落とされがちなのが、「静的データ」と「動的データ」の組み合わせです。例えば、土壌マップ(あまり変化しない静的データソース)と、現在の土壌水分量(刻々と変わる動的データソース)を組み合わせることで、精密な灌水(水やり)制御が可能になります 。
参考)AIアプリ「NotebookLM」農家向け活用術|栽培方法・…
データソースがただ存在するだけでは意味がありません。それらを収集し、分析できる形に整え、システムと「連携」させる仕組みが必要です。これが俗にいう「データパイプライン」や「ETL(Extract, Transform, Load)」と呼ばれる処理の一部です 。
農業者が直面する最大の課題は、データソースの形式がバラバラであることです。
例えば、A社の環境制御盤は独自のCSV形式でデータを書き出し、B社の販売管理システムは専用のデータベースを使っていて、C社の気象アプリはAPIでデータを提供している、といった状況がよくあります 。これらを一つの画面(ダッシュボード)で見るためには、それぞれのデータソースからデータを吸い上げ、共通の形式に変換して統合する必要があります。
参考:農林水産省 - 農業データの利活用の推進について(WAGRIなどの連携基盤の解説)
データ収集の具体的な方法としては、以下のようなアプローチがあります。
ここで重要なのが「コネクタ」や「ドライバ」の存在です 。パソコンが新しいプリンターを使うためにドライバが必要なように、分析ソフトが特定のデータソース(例えば特定のメーカーのトラクター)からデータを読むためにも、専用の接続プログラムが必要になることがあります。最近では、農業特有のデータ形式を標準化しようとする動き(WAGRIなど)が進んでおり、異なるメーカーの機械同士でもデータソースとして連携しやすくなってきています 。
これは検索上位の記事ではあまり深く触れられていませんが、データソースを利用する上で最も重要なのが「データの品質(Data Quality)」と「前処理(Data Cleaning)」の視点です。特に自然相手の農業では、データソースにノイズ(不要な信号)や欠測(データの抜け)が頻繁に発生します 。
例えば、「温度センサー」をデータソースとして使う場合を考えてみましょう。もしセンサーに直射日光が当たってしまっていたら、実際の気温より5度も高いデータが出力されるかもしれません。この「誤ったデータソース」を信じて換気窓を全開にすれば、作物は冷害を受けてしまう可能性があります。つまり、データソースは「ただ繋げばいい」というものではなく、「そのデータは本当に現場の状況を正しく表しているか?」という疑いの目を持って選定・管理しなければなりません。
意外と知られていない「アナログデータ」の価値
また、最先端のセンサーだけが優れたデータソースではありません。実は、ベテラン農家が長年書き溜めてきた「手書きの栽培ノート」や、毎朝の見回りで感じる「葉の色味の感覚」も、デジタル化さえできれば極めて価値の高い独自データソースになります 。
近年では、こうしたアナログ情報を音声入力やスマホアプリで簡単に記録し、構造化データ(コンピュータが扱いやすいデータ)に変換するツールも増えています。AI(例えばChatGPTやNotebookLMなど)を使えば、乱雑なメモ書き(非構造化データ)から「日付・作業内容・気づき」を抽出して、分析可能なデータソースへと昇華させることも可能です 。
データソースを選ぶ際のチェックリスト
「ゴミを入れればゴミが出てくる(Garbage In, Garbage Out)」という格言がある通り、出力される分析結果の質は、入力されるデータソースの質で決まります。高価な分析ソフトを導入する前に、まずは足元のデータソースが「きれいで」「新しく」「正しい」状態にあるかを見直すことが、データ駆動型農業への近道となるのです。