塩化鉄(III)(FeCl3)水溶液をフェノール類に加えると、青〜赤紫色の呈色反応が起き、フェノール類の検出に利用できることが教科書的に整理されています。
この色は「色素が混ざった」わけではなく、鉄(III)イオンとフェノール由来の配位子が結合して錯体を作り、その錯体が可視光を吸収することで見える色が変わる、という理解が実務上もズレが少ないです。
同じフェノール類でも、フェノール/クレゾールは青紫、サリチル酸やサリチル酸メチルは赤紫など、置換基(分子構造)の差で吸収が変わり、色が変わると説明されています。
農業の文脈に落とすと、この反応は「植物体や抽出液に含まれるフェノール性水酸基(ポリフェノールに多い官能基)がそれらしいか」をスクリーニングする考え方に向きます。
参考)https://www.chart.co.jp/subject/rika/scnet/73/Snet73-3.pdf
ただし「フェノール類=全部同じ色」ではなく、化合物により紫〜緑〜黄褐色など幅が出る、という点は最初に押さえておくと誤判定が減ります。
参考)塩化鉄(III):フェノール検出用TLC発色試薬の原理と作り…
タンニン(フェノール性水酸基を複数持つポリフェノールの一群)は、塩化鉄(III)で緑色〜黒紫色などに呈色する、といった整理が広く見られます。
また、タンニンや低分子ポリフェノールの「鉄による発色」は、鉄(II)より鉄(III)の方が強く発色しやすいこと、条件によっては鉄(II)が酸化されて鉄(III)になってから発色することが、基礎検討として報告されています。
この“鉄の価数”の観点を持つと、例えば発酵液・堆肥浸出液のように還元性/酸化性が揺れるサンプルで、同じ抽出物でも日によって色が変わる現象を説明しやすくなります。
現場の簡易チェックとしては、同じ濃度・同じ採取タイミングの抽出液同士で「呈色の濃さ・色味」を比較し、相対評価にとどめるのが安全です。
一方で、黒っぽくなった=タンニンが多い、と即断するのは危険で、そもそも塩化鉄側(鉄(III)の状態、濃度、劣化)でも色が揺れるため、必ずブランク(溶媒のみ)を並べるのが基本です。
塩化鉄(III)はフェノール検出用の発色試薬として扱われ、調製例として、FeCl3・6H2Oを水に溶かす水溶液系、または水少量+エタノールを用いる系などが紹介されています。
溶媒にエタノールを使うと発色が弱くなる傾向があること、また水系とエタノール系で呈色が若干異なることがあり、構造推定のヒントになる可能性が示されています。
つまり「色が薄い=フェノールが少ない」と決めつける前に、溶媒条件(特にアルコール混在)を疑うのが筋が良いです。
農業用途のサンプルは、アルコール抽出(焼酎・エタノール)や界面活性剤、糖、有機酸などが混ざりやすく、呈色反応の“素直さ”が落ちます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk1962/17/6/17_6_231/_pdf
そのため、簡易手順としては「同じ容器」「同じ滴下量」「同じ混和時間」「同じ照明」で比較し、スマホ撮影する場合もホワイトバランスを固定して再現性を上げる、といった運用が現実的です。
(参考リンク:フェノール類が塩化鉄(III)で青〜赤紫に呈色する基本事項と、検出に使えることの根拠)
芳香族化合物の呈色反応(PDF)
呈色反応 塩化鉄は「フェノールなら必ず濃い紫」といった万能試験ではなく、化合物によって呈色しにくい場合があることが指摘されています。
さらに、アルコールの影響で呈色が妨害される(エタノールでFeCl3溶液を調製すると呈色が弱い/出ない傾向がある)という注意点は、現場の抽出液で起きがちな落とし穴です。
また、タンニン酸−鉄の発色は、還元剤の存在で阻害され得るという検討もあり、アスコルビン酸(ビタミンC)など還元性成分が多いサンプルでは「出るはずの色が出ない」ことが起こり得ます。
安全面では、塩化鉄(III)は金属塩で、溶液は皮膚・衣類を汚染しやすく、金属腐食や刺激のリスクもあるため、手袋・保護メガネ・飛散防止を前提に扱うのが無難です。
農業現場でよくある事故は「少量だから」と素手で触って茶色いシミが残るパターンなので、スポイト・使い捨て容器・廃液の一時保管(酸性寄りになりやすい点も含む)を決めてから試すのが現実的です。
(参考リンク:同じフェノール類でも色が違う理由=分子構造で吸収(色)が変わる、という説明)
フェノール類の呈色反応で色が違う理由(日本化学会 近畿支部)
検索上位の多くは「フェノールの確認」「タンニンの確認」に寄りますが、農業では“同じ資材でもロットや保管で効き方が違う”問題の方が切実で、呈色反応 塩化鉄はその原因推定に寄与します。
具体的には、タンニンやポリフェノールの鉄発色が鉄(III)で強いこと、鉄(II)は状況により酸化されてから発色に寄与することが示されており、サンプル側の酸化還元状態が色に出る、という読み方ができます。
例えば、発酵が進んで還元的になった液では鉄(III)が還元されやすく、発色が鈍る(または色調が不安定になる)という仮説を立て、曝気(空気接触)や攪拌、保管条件の違いと合わせて検証する、といった使い方が可能です。
この使い方のポイントは「成分同定」ではなく「状態変化の指標」にすることで、呈色反応の限界(溶媒妨害・化合物差)を織り込んだ運用になります。
現場での簡易プロトコル案は次の通りです。
(参考リンク:タンニンと鉄イオンの発色が鉄(III)で強いこと、還元剤等で阻害され得ることの基礎検討)
タンニンと低分子ポリフェノールの鉄発色に関する検討(J-STAGE PDF)