家畜の雄性生殖器は精巣、精巣上体、精管、副生殖腺、陰茎から構成されています。精巣の主な役割は精子を生産し、雄性ホルモンであるテストステロンを分泌することです。肉用牛では通常若齢時に去勢されるため睾丸や陰嚢は機能しなくなりますが、繁殖用の種牛は大きく発達した陰嚢と睾丸を持っています。
参考)生殖器の構造はどうなっているのかな
精子形成は精巣の精細管で行われ、基底膜から内腔に向かって精祖細胞、精母細胞、精娘細胞、精子細胞の順に配列します。精巣上体では精子が成熟し運動能力を獲得します。また精巣の間質細胞はテストステロンを産生・分泌し、雄性の生殖機能を維持します。
参考)畜産研究部門:写真で見る繁殖技術:牛の受精卵移植
種雄牛の健康管理では、精巣の触診や精液性状の検査が重要です。高齢牛では精巣石灰化が発症する可能性があり、精巣が軟化して精液生産に影響を及ぼします。日和見的な尿路感染による精嚢腺炎も重要な疾患で、精液中に膿塊が含まれる状態になります。
参考)https://www.ivma.jp/promotion/magazine/document/47-1/03_47_1_technicallecture.pdf
雌の生殖器は卵巣、卵管、子宮、膣、外陰部から構成されます。卵巣では卵胞が発育し、その中で卵子が成熟します。家禽類では卵巣で卵黄(卵子)が形成され、卵管では卵白、卵殻膜、卵殻が形成されるという特徴があります。
参考)生殖機能の発育と生殖器の構造|子孫をつくる(2)
牛は季節に関係なく21日間隔で発情を繰り返します。発情期にはエストロゲンの濃度が高まり、交配を受け入れる状態になります。排卵後はプロゲステロンの濃度が上昇し、体は妊娠の準備を始めます。このホルモンの周期的な変動が繁殖効率に直結するため、酪農家や繁殖担当者にとって理解が必要な知識です。
参考)畜産研究部門:写真で見る繁殖技術:牛の発情
子宮の構造も重要で、反芻獣の子宮内膜には子宮小丘が存在し、妊娠期には胎盤を形成します。受精は卵管で行われ、受精卵は子宮へ移動して着床します。膣前庭には外尿道口が開口し、生殖と排尿の両機能に関わっています。
参考)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/tikusan/chikusan/documents/ai_syuugyousiken_r6.pdf
受精卵移植は優良な雌牛から受精卵を採取し、体外で凍結などの処理を行った後、別の雌牛に移植する技術です。この技術には(1)過排卵処理技術、(2)受精卵採取技術、(3)体外操作技術、(4)移植技術の4つが必要です。
優秀な雌牛に性腺刺激ホルモンを注射して一度にたくさんの卵胞を発育させ、発情時に優秀な雄牛の精液を人工授精します。人工授精7日後に子宮から受精卵を洗い出して採取し、実体顕微鏡で検査してストローに入れたり凍結保存します。日本では黒毛和種の受精卵をホルスタイン種に移植することが行われています。
体外受精技術では食肉処理場の卵巣から未成熟な卵子を採取し、体外で成熟させて受精に用いる方法が開発されています。この体外成熟・体外受精(IVM/IVF)技術は新しい受精卵生産法として注目されており、貴重な野生動物の保存法としても期待されています。
参考)畜産草地研究所:写真で見る繁殖技術:体外受精、研究と応用
農研機構の受精卵移植技術の詳細説明(写真付き解説)
発情周期の正確な把握と管理は繁殖効率向上の鍵となります。牛の発情期を見極め、適切なタイミングでの人工授精や交配を行うことが繁殖成功のポイントです。発情観察では動物の種類ごとに異なるサインを示すため、観察者は必要な知識を持ち、緻密な観察が求められます。
参考)https://www.capsulesense.net/post-001/
発情の主な兆候として、落ち着きのなさ、鳴き声の増加、他の牛への乗駕行動、外陰部の腫脹や粘液の排出などがあります。発情期の正確な記録と管理により、健康状態のチェックはもちろん、最適な交配時期を判断し計画的な繁殖が可能になります。
家畜改良増殖法では人工授精や受精卵移植の定義が明確にされており、雌畜に卵子を多量生産させる過排卵処理や、受精卵の採取・移植が体系的に行われています。近年では性判別技術も発展し、精子の雌雄選別や受精卵の性判別により、求める性の子畜を効率的に生産することが可能になっています。
参考)https://www.alic.go.jp/content/000138193.pdf
牛の発情周期管理の最新技術とモニタリング方法
生殖器の健康管理は畜産経営における生産性維持の基盤です。子宮や膣といった生殖器の異常は不受胎の主要な原因となります。トリコモナス病のように原虫によって牛と水牛に泌尿・生殖器系の異常や早期流産を引き起こす届出伝染病も存在します。
参考)病気の種類と症状、治療法
種雄牛では精巣炎、精嚢腺炎、陰茎損傷などの疾患が精液生産に直接影響します。高熱による造精機能への影響もあるため、日常的な健康観察が重要です。雄豚では夏の環境対策の不備が繁殖障害の7~8割の誘因となるため、舎内温度を25℃以下、可能なら20℃以下に保つことが最大の対策となります。
参考)https://www.e-jasv.com/gijutu_pdf/hanshoku_09_kuwahara.pdf
衛生管理では畜舎や器具の清掃・消毒を定期的に行い、注射針や人工授精用器具は1頭ごとに交換または消毒します。消毒効果は洗浄作業にかかっており、有機物を除去した後に消毒剤を使用することで微生物まで届きます。予備洗浄とこすり洗いを組み合わせることで、細菌数を大幅に減少させることができます。
参考)農場のバイオセキュリティを考える ≪第4回≫飼養衛生管理基準…
畜舎への出入り時には手指をアルコール消毒し、足(靴)は踏み込み消毒槽で消毒することが基本です。他の畜産関係施設で使用した物品は衛生管理区域内に持ち込まないことが原則ですが、持ち込む場合は徹底した消毒が必要です。
参考)畜産農場の衛生状態を確保するためには?準備すべき設備・もの|…
畜産農場の衛生管理設備と消毒方法の具体例