クローン病の症状と子供の成長障害や腹痛と下痢の原因

子供のクローン病は大人とどう違う?成長の遅れや長引く腹痛はサインかも。早期発見のための症状チェックリストと、学校生活や食事療法で親ができるサポートとは?

クローン病の症状と子供

子供のクローン病のサイン
📉
成長の停滞

身長や体重が増えない

🚻
お尻のトラブル

治りにくい痔や排便痛

🌡️
原因不明の発熱

微熱が長く続く

腹痛や下痢などの消化器症状の特徴と見分け方

 

子供が「お腹が痛い」と訴えることは日常よくありますが、クローン病における腹痛下痢には、一般的な胃腸炎とは異なるいくつかの特徴があります。特に注意が必要なのは、症状が「慢性的に続く」という点と、痛む場所が特定される傾向にあることです。

 

クローン病は消化管のあらゆる場所に炎症が起きる可能性がありますが、日本人では特に小腸と大腸のつなぎ目付近(回盲部)に病変ができやすいとされています。そのため、おへその周りから右下腹部にかけての痛みを訴えるケースが多く見られます。子供の場合、うまく痛みの場所を伝えられないこともありますが、「食事をするとお腹が痛くなる」「トイレに行くと少し楽になる」といったパターンが見られる場合は注意が必要です。

 

下痢についても、水のような便が一日中続くこともあれば、軟便が数週間も続くケースなど様々です。感染性胃腸炎であれば数日で治まることが多いですが、クローン病の場合は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら(寛解と再燃)、徐々に体力を奪っていきます。また、炎症が強い場合には血便が見られることもありますが、潰瘍性大腸炎ほど顕著ではないことも多く、目に見えない微量な出血が続いて貧血を引き起こすこともあります。
親御さんがチェックすべきポイントは以下の通りです。

 

  • 夜間の排便: 寝ている間に便意で起きてしまうことは、機能的な腹痛(過敏性腸症候群など)では稀で、器質的な病気のサインの可能性があります。
  • 食欲不振: 食べることで腹痛が起きるため、無意識に食事を避けるようになります。
  • 口内炎: 繰り返す口内炎(アフタ性口内炎)も、消化管全体の炎症の一端として現れることがあります。

国立成育医療研究センター:子どものクローン病の症状と治療についての詳細解説
IBD-INFO:小児クローン病の症状の特徴(関節痛や貧血など)に関するPDF資料

成長障害や体重減少の早期発見サイン

小児クローン病において、消化器症状と同じくらい、あるいはそれ以上に重要なサインとなるのが成長障害です。実は、下痢や腹痛といった目に見える症状が出る前に、「身長の伸びが止まる」「体重が増えない」といった成長の異変だけが先行して現れるケースが少なくありません。これを「成長障害が初発症状」と呼びます。

 

なぜ成長障害が起きるのでしょうか。主な原因は栄養吸収の不良と炎症性サイトカインの影響です。

 

  1. 栄養吸収障害: 小腸に炎症があると、食事から十分な栄養を吸収できません。特に小腸は栄養吸収の要であるため、ここがダメージを受けると深刻なカロリー不足に陥ります。
  2. 食事摂取量の減少: 腹痛を避けるために無意識に食べる量を減らしてしまいます。
  3. 炎症による代謝の変化: 体内で慢性的な炎症が起きていると、サイトカインという物質が分泌されます。このサイトカインは、骨を伸ばすために必要な成長ホルモンの働き(IGF-1の作用)を阻害してしまうことが分かっています。つまり、いくら食べていても、炎症がある限り身長が伸びにくい状態になってしまうのです。

学校の身体測定の結果は非常に重要なデータです。「成長曲線」をつけてみて、同年代の平均から大きく外れてきたり、自身の成長カーブが横ばいになり始めたら、消化器症状がなくても専門医への相談を検討すべきです。特に思春期前の急激に背が伸びる時期(スパート期)に病気が重なると、最終的な身長に大きく影響する可能性があります。早期に発見し、炎症を抑える治療(栄養療法や生物学的製剤など)を開始することで、再び成長を取り戻す(キャッチアップ現象)ことが可能です。

 

難病情報センター:クローン病(指定難病96)における成長障害のメカニズム解説
日本消化器病学会:成長障害を主訴とした小児クローン病の症例報告PDF

痔瘻や肛門部病変と排便トラブルへの対応

意外に思われるかもしれませんが、子供のクローン病発見のきっかけとして非常に多いのが、痔瘻(じろう)や肛門周囲膿瘍といった肛門部病変です。一般的な「切れ痔」とは異なり、肛門の周りが腫れて膿(うみ)が出たり、皮膚に穴が開いて腸とつながってしまう複雑な症状を示すのが特徴です。

 

子供、特に乳幼児や小学生で「難治性の痔」が見つかった場合、クローン病が強く疑われます。通常の小児科では「ただの肌荒れ」や「普通の切れ痔」として軟膏処置だけで様子を見られてしまうことがあり、診断が遅れる一因にもなっています。

 

肛門部病変は、子供にとって非常にデリケートで辛い症状です。

 

  • 痛み: 座るのが辛い、排便時に激痛が走る。
  • 浸出液: 下着が汚れることへの羞恥心。
  • 精神的ストレス: 友達に知られたくないという不安。

家庭でのケアとしては、排便後にお尻を清潔に保つことが基本ですが、過度な洗浄(ウォシュレットの使いすぎなど)は逆効果になることもあります。柔らかい素材で優しく拭く、あるいはシャワーで洗い流すなどの対応が必要です。また、これらの肛門症状は、腸管の炎症がコントロールされない限り完治することは難しいため、外科的な手術(排膿など)と並行して、内科的な治療(レミケードやヒュミラなどの生物学的製剤)を早期に行うことが推奨されています。

 

親御さんは、子供が「お尻が痛い」と言ったときに、「ただのお尻のトラブル」と軽く見ず、背景に腸の病気が隠れていないか疑ってみる視点を持つことが大切です。

 

獨協医科大学埼玉医療センター:クローン病の特徴である痔瘻や肛門病変についての解説

学校生活での食事制限とストレス管理

クローン病を持つ子供にとって、学校生活と治療の両立は大きな課題です。特に給食やお弁当といった「食」の場面と、体育や部活動などの「運動」、そしてトイレの問題がストレスの要因となり、それが病気の悪化(再燃)につながるという悪循環を招くことがあります。

 

食事制限に関しては、低脂肪・低残渣(食物繊維が少ない)食が基本となります。給食のメニューには揚げ物や繊維質の多い野菜が含まれることが多いため、全てのメニューをみんなと同じように食べることは難しい場合があります。

  • 対応策: 「脂質の多いおかずだけお弁当を持参する」「牛乳を控える」など、学校側と相談して柔軟な対応をとる必要があります。最近ではアレルギー対応と同様に、病気による食事制限にも理解を示す学校が増えています。
  • 疎外感のケア: 「自分だけ違うものを食べる」ことは子供にとって孤独感につながります。家庭では、制限の中で最大限美味しく食べられる工夫(ノンオイル調理や、消化に良い食材を使った彩り豊かなお弁当)をしてあげることが、心のケアにもなります。

また、トイレの問題も深刻です。「授業中にトイレに行きたくなったらどうしよう」という不安(予期不安)が、さらなる腹痛を招くこともあります。担任の先生と共有し、「合図をしたら自由にトイレに行ってよい」という環境を作ってもらうだけで、子供の安心感は大きく変わります。

 

体育のマラソンや水泳なども、体調が悪い時や肛門に病変がある時は見学が必要です。「サボっているわけではない」ということを周囲に理解してもらうための、医療機関からの「学校生活管理指導表」などの活用も有効です。

 

EAファーマ:学校の先生方へ向けたクローン病患児への配慮事項まとめPDF
日本小児栄養消化器肝臓学会:クローン病の子供に向けた病気と生活のガイド

食事療法における農産物の選び方と添加物の影響

※このセクションでは、農業に関心のある親御さんに向けて、独自の視点から食事療法に使える食材選びについて深掘りします。

 

クローン病の食事療法では「何を食べてはいけないか」に目が向きがちですが、「何を選んで食べるか」という前向きな視点も大切です。特に、消化管への負担を減らすためには、素材そのものの質、つまり農産物の選び方が重要になってきます。

 

まず、野菜選びにおいては「低残渣(ていざんさ)」がキーワードですが、これは単に食物繊維を避けるという意味だけではありません。繊維が硬く消化されにくい野菜(ゴボウ、レンコン、タケノコ、キノコ類)は、炎症のある腸管を物理的に刺激し、狭窄(腸が狭くなった部分)がある場合は詰まってしまうリスクがあります。

 

一方で、土の中で育つ野菜の中でも、ジャガイモニンジンカボチャなどは、皮を厚く剥いて十分に加熱することで、非常に良質なエネルギー源となります。農業をされている家庭であれば、完熟して柔らかくなった野菜を選別して使う、あるいは繊維の少ない品種(例えば、筋の少ないインゲンや、とろけるような食感のナスなど)を自家用に栽培するというのも一つの手です。

 

また、加工食品に含まれる食品添加物(乳化剤や増粘剤など)が腸内細菌叢(マイクロバイオーム)のバランスを崩し、腸の炎症を悪化させる可能性を示唆する研究報告も近年増えてきています。市販のルウやドレッシングを使わず、自家製の野菜だしや完熟トマトを使ったソースで味付けをすることは、添加物を避けつつ、野菜の栄養(抗酸化作用のあるビタミンなど)を摂取できる最良の方法です。

 

「制限」を「素材の味を生かす機会」と捉え直し、新鮮な農産物を使ったシンプルな食事を心がけることは、結果として子供の腸を守り、長期的な寛解維持につながる強力なサポーターとなるでしょう。

 

  • 推奨される調理法: 野菜は繊維を断つように細かく刻む、裏ごしをする、圧力鍋でトロトロになるまで煮込む。
  • 避けるべきもの: 皮の硬い豆類、種のある果物(種や皮は取り除く)、アクの強い山菜。

高野病院:IBD(クローン病)の栄養療法と具体的な食事の工夫
IBD広場:クローン病の子供の食事作りの注意点とレシピのヒント

 

 


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