農作業の繁忙期、いざ防除作業を始めようとしたときに「噴霧機のエンジンがかからない」という事態は、農家にとって最も避けたいトラブルの一つです。エンジン始動不良の原因として、真っ先に疑うべきなのが点火プラグの状態です。プラグはエンジンの心臓部とも言えるパーツで、ここで適切な火花が飛ばなければ、どれだけ新鮮な燃料が入っていてもエンジンは目覚めません。
まず、プラグレンチを使って点火プラグを取り外してみましょう。先端がガソリンで濡れている「カブリ」の状態であれば、シリンダー内に燃料が過剰供給されているか、火花が飛んでいない証拠です。この場合、プラグを乾いた布で拭き取り、シリンダー内部も乾かすために、プラグを外した状態でリコイルスターターを数回引いて換気を行います。逆に、プラグが白く乾きすぎている場合は、燃料が来ていない可能性があります。
また、電極部分に黒い煤(カーボン)が大量に付着していると、電気がうまく流れず失火の原因になります。ワイヤーブラシ等で清掃することで一時的に復活することもありますが、基本的には消耗品です。
点火プラグは数百円で購入できる安価な部品ですが、エンジンの調子を劇的に左右します。予備を常に1本、工具箱に入れておくことが、現場での不意なトラブルを回避する最大の防御策です。新品に交換するだけで、嘘のように一発始動することも珍しくありません。
NGKスパークプラグ公式の症状別トラブルシューティングが非常に参考になります。
点火プラグに問題がない場合、次に疑うべきは「燃料が正しくキャブレターまで届いているか」という点です。ここで盲点になりやすいのが、燃料タンクの中にある燃料フィルター(ストレーナー)の詰まりです。特に、長期間使用していなかった噴霧機や、保管状態があまり良くなかった燃料を使用した後に多く見られるトラブルです。
燃料フィルターは、ガソリンに含まれるゴミやタンク内の錆がキャブレターに侵入するのを防ぐ重要な役割を果たしています。しかし、ここに汚れが蓄積すると、燃料の通り道が塞がれ、エンジンが必要とするガソリンが供給されなくなります。症状としては、「エンジンがかかりそうでかからない」「かかってもすぐに止まる」「高回転にすると息継ぎをする」といった挙動が見られます。
針金などをフック状にしたもので、燃料タンクの給油口から燃料ホースごとフィルターを釣り上げて確認してみてください。
掃除をする場合は、パーツクリーナー(ブレーキクリーナー)を使用して、フィルターの内側から外側に向かって吹き付けるのが基本です。外から吹き付けると、逆にゴミを内部に押し込んでしまうため注意が必要です。しかし、変色や硬化が見られる場合は、掃除ではなく新品への交換を強くお勧めします。汎用品であれば数百円で入手可能です。
また、意外な落とし穴として「タンクキャップの空気穴の詰まり」もあります。キャップの通気口が詰まると、タンク内が負圧になり、ガソリンが落ちていかなくなります。キャップを緩めた状態だとエンジンがかかる場合は、ここが原因です。
農機具メーカーのクボタによる、燃料系トラブル時のチェックポイントが役立ちます。
プラグも火が飛び、燃料も来ている。それでもエンジンがかからない、あるいはアイドリングが不安定で吹け上がらない場合、いよいよ「キャブレター(気化器)」の不調を疑う必要があります。キャブレターは、ガソリンと空気を最適な比率で混ぜ合わせる精密機器であり、噴霧機のトラブル原因の横綱と言えます。
最も多い故障理由は、キャブレター内部の「ジェット類(小さな穴)」の詰まりと、「ダイヤフラム(ゴム膜)」の劣化です。特に混合ガソリンを使用する2サイクルエンジンの場合、長期間放置するとガソリン成分が揮発し、残ったオイル成分がワニス状(水飴のような粘着質)になって微細な穴を塞いでしまいます。
オーバーホール(分解清掃)の手順は以下の通りですが、細かい部品が多いため慎重な作業が必要です。
修理のコツとして、分解前にスマートフォンのカメラで現状の写真を撮っておくと、組み立て時の迷いを防げます。また、プライマリーポンプ(燃料を送る透明な半球状の部品)にヒビが入っていると、そこから空気を吸ってしまい始動不能になります。これも同時にチェックしましょう。
自力での修理が難しいと感じた場合は、無理をせず農機具店へ持ち込むのが賢明ですが、キャブレタークリーナーでの簡易清掃だけで直るケースも多々あります。
「昨シーズン使った残りのガソリンを入れたら動かない」というケースは、農機具トラブルの定番です。噴霧機のエンジンがかからない原因として、機械的な故障よりも先に疑うべきは、実は「燃料そのものの品質」です。ガソリンは生鮮食品と同じで、鮮度が命です。
混合ガソリン(ガソリンと2サイクルオイルを混ぜたもの)は、特に劣化が早いです。保管期間が長くなると以下のような変化が起きます。
劣化した燃料を使用すると、着火性が悪くなるだけでなく、前述したキャブレター詰まりの直接的な原因になります。1ヶ月以上保管していた混合ガソリンは使用せず、新しいガソリンとオイルで作り直してください。
また、混合比率の間違いも始動不良の原因です。現在の多くの農機具は「50:1」または「25:1」の混合比率を指定しています。
正確な比率で作るためには、専用の混合容器を使用するのが確実です。目分量での混合は絶対に避けてください。最近では、あらかじめ最適な比率で調整され、劣化防止剤が入った「そのまま使える混合ガソリン」もホームセンターで販売されています。コストは割高ですが、トラブルの頻度を劇的に下げられるため、使用頻度が低いユーザーには特におすすめです。
これは検索上位の記事ではあまり触れられていない、意外な盲点となるトラブルです。「プラグも新品、キャブレターも掃除した、燃料も新しい。それでもエンジンがかからない、あるいは爆発音はするが続かない」という場合、マフラー(排気口)が詰まっている可能性があります。
農機具は納屋や倉庫に長期間保管されることが多いですが、この保管中に「ドロバチ(徳利蜂など)」がマフラーの排気口に巣を作ってしまうことがあります。彼らは細い穴を好んで泥を詰め込み、巣にする習性があります。排気口が泥で完全に塞がれると、エンジンは排気ガスを外に出せず、いわゆる「糞詰まり」の状態になり、始動できません。
また、ハチの巣以外にも、長年の使用によるカーボンの堆積でマフラーの排気ポートが狭くなっているケースもあります。2サイクルエンジンは構造上、未燃焼のオイルがマフラーに溜まりやすいです。
マフラーを外した状態でリコイルを引いてエンジンがかかる(爆音になるので一瞬だけの確認に留めること)場合は、原因は100%マフラーの詰まりです。この「排気側のトラブル」は、吸気(キャブレター)や点火(プラグ)ばかりに気を取られていると見落としがちなポイントですので、ぜひチェックリストに加えてください。
最後に、保管時はマフラーの穴にウエスを詰めたり、テープを貼っておくことで、次回の使用時にハチの巣トラブルを防ぐことができます。

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