電解液の作り方とバッテリー希硫酸の比重で復活させる

農業機械のバッテリー上がりで困っていませんか?電解液の作り方や希硫酸の濃度調整、精製水でのメンテナンス、そして意外なマグネシウムを使った復活方法まで、農家のための自作ノウハウを徹底解説します。
電解液の作り方と復活ガイド
🔋
希硫酸の調合

濃度37%を目指し、必ず「水に酸」の順で混ぜる

⚖️
比重の管理

適正値1.28を維持し、温度補正を行う

🧪
復活の裏技

マグネシウム投入やパルス充電でサルフェーション除去

電解液の作り方

農業の現場において、トラクターやコンバイン、田植え機といった農業機械のメンテナンスは欠かせない作業です。特に冬場の農閑期を過ぎた春先、久しぶりにエンジンをかけようとしたらセルモーターが回らない、といったバッテリー上がりは農家にとって「あるある」の悩みではないでしょうか。

 

多くの農家はバッテリーを買い替えてしまいますが、実はバッテリーの仕組みを理解し、適切な「電解液」の管理やメンテナンスを行うことで、弱ったバッテリーを復活させたり、寿命を大幅に延ばすことが可能です。ここでは、危険を伴う「電解液の作り方」の正しい手順から、日常的な比重管理、そして知る人ぞ知る復活の裏技まで、プロの視点で深掘りして解説します。

 

なお、バッテリー液(電解液)は「希硫酸」という劇薬です。取り扱いを間違えると失明や重篤な火傷、爆発事故につながるため、安易な気持ちでの作業は禁物です。正しい知識と装備で臨んでください。

 

電解液の作り方における希硫酸の濃度と危険性

 

まず大前提として、バッテリーの電解液とは何かを理解する必要があります。鉛バッテリーに使用される電解液は、無色透明の「希硫酸」です。これは「濃硫酸」と「精製水」を混合して作られており、満充電時における標準的な濃度は約37%、比重は20℃で1.280とされています。

 

参考)自動車用バッテリーのQ&A

ホームセンターやカー用品店で売られている「バッテリー補充液」の多くはただの「精製水(蒸留水)」ですが、バッテリーを倒して液がこぼれてしまった場合や、干上がって極板が露出してしまった場合には、水ではなく「希硫酸」そのものを補充、あるいは作り直す必要があります。

 

希硫酸を自作する際の手順と絶対的なルール
もし手元に濃硫酸があり、自分で希硫酸を作る場合は、以下の手順を厳守してください。命に関わる化学反応が起きます。

 

  1. 保護具の完全着用
  2. 「水に酸を入れる」が鉄則
  3. 発熱への対処
    • 硫酸と水が混ざると溶解熱が発生し、液体が高温になります。ガラス容器は割れる恐れがあるため、耐熱・耐酸性のポリタンクやビーカーを使用し、冷ましながら作業を行います。

適正濃度の目安
農業機械用のバッテリーでは、比重1.28(濃度約37%)が標準です。これを狙って調合しますが、濃硫酸の濃度(通常98%など)から計算して希釈する必要があります。計算が複雑で危険リスクも高いため、現在では薬局で「希硫酸」そのものを購入するか、電装屋に依頼するのが一般的かつ安全です。自作はあくまで緊急避難的な知識として留め、可能な限り既製品を利用することをお勧めします。

 

参考)自動車のバッテリー液 - バッテリー液を作ろうと思っています…

電解液(希硫酸)の基礎知識と比重の関係性について詳細はこちら

電解液の作り方と精製水の補充によるメンテナンス

「電解液を作る」という行為の9割は、実際には「減った水分を補給して濃度を元に戻す」作業です。バッテリーを使っていると液面が下がりますが、これは電解液中の「水分」だけが電気分解や蒸発によって失われているためです。硫酸分(酸)はバッテリー内部に残っています。

 

参考)https://carbattery.support.panasonic.com/faq/show/45?category_id=2amp;site_domain=default

水道水がNGな理由
農家の作業場には井戸水や水道水がすぐに使えますが、これをバッテリーに入れることは絶対に避けてください。水道水や井戸水には、カルシウム、マグネシウム、鉄分、塩素などの不純物(ミネラル分)が含まれています。これらが電解液に入ると以下のような悪影響が出ます。

 

  • 自己放電の増大: 不純物が電極間で微小なショートを引き起こし、置いておくだけで電気が抜けていきます。
  • 極板の腐食: 鉄分などが極板を劣化させ、寿命を縮めます。
  • 性能低下: 化学反応が阻害され、本来のパワーが出せなくなります。

必ず「精製水」または「バッテリー補充液(工業用蒸留水)」を使用してください。

 

「希硫酸」を足してはいけないケース
液が減っているだけ(こぼれていない)なのに、親切心で「希硫酸」を継ぎ足してしまうと、バッテリー内の硫酸濃度が異常に高くなります。比重が1.30を超えると「過濃」となり、極板の格子体が腐食したり、セパレーターが劣化したりして、バッテリーの寿命を一気に縮めます。液が減っただけの時は、必ず「水」で埋めて、比重を1.28に戻すのが正しい「電解液のメンテナンス」です。

 

参考)比重の下がったバッテリーに希硫酸を添加し比重を調整すれば使え…

  • 液漏れした場合: 希硫酸を補充(または同じ比重の液を作る)
  • 自然減少した場合: 精製水を補充

この見極めが重要です。

 

電解液の作り方で重要な比重計と温度の関係

作成した、あるいは補充した電解液が適正な状態にあるかどうかを判断する唯一の指標が「比重」です。農業機械のメンテナンスを行うなら、スポイト式の「比重計」は必須アイテムです。

 

比重の測定と温度補正
比重は温度によって変化します。標準値の1.280は「20℃」の時の値です。気温が変わると液体の体積が変わるため、正確な判定には補正が必要です。

 

S20=St+0.0007×(t20)S_{20} = S_t + 0.0007 \times (t - 20)S20=St+0.0007×(t−20)


  • S20S_{20}S20: 20℃換算の比重
  • StS_tSt: 現在の温度 ttt℃ で計測した比重
  • ttt: 電解液の温度

例えば、冬場の0℃の環境で比重を測って「1.27あるからOK」と思っても、計算すると 1.27+0.0007×(020)=1.2561.27 + 0.0007 \times (0 - 20) = 1.2561.27+0.0007×(0−20)=1.256 となり、実は放電気味(要充電)であると分かります。逆に夏場の30℃なら、比重計の数値は低く出ます。










外気温

比重計の読み

実際の状態 (20℃換算)

判定

冬 (0℃)

1.280

1.266

良好

冬 (0℃)

1.240

1.226

要注意(充電不足)

夏 (30℃)

1.280

1.287

良好(やや高め)

農機具は季節変動が激しい環境で使われるため、この「温度補正」の感覚を持っているだけで、バッテリー管理の精度が格段に上がります。

各セルのバラつきを見る
12Vバッテリーには6つの部屋(セル)があります。全てのセルの比重を測ってください。もし、5つのセルは1.28あるのに、1つだけ1.15しかない、といった場合は、そのセル内部でショート(短絡)や極板脱落が起きています。こうなると、どんなに電解液を調整しても、充電しても復活は不可能です。潔く交換しましょう。比重計測は、無駄な努力を避けるための診断ツールでもあります。

農業現場で役立つ比重計やメンテナンス用品の確認はこちら

電解液の作り方とサルフェーション除去のメンテナンス

バッテリーが劣化する最大の原因は「サルフェーション(硫酸鉛の結晶化)」です。放電したまま放置すると、極板に付いた柔らかい硫酸鉛が硬い結晶に変化し、電気を通さなくなります。これを解消しない限り、いくら良い電解液を入れても電気を蓄えられません。

 

参考)https://myheros.jp/blogs/times/210331

物理的な除去と化学的な除去
サルフェーションを除去してバッテリーを「復活」させるには、大きく分けて2つのアプローチがあります。

 

  1. パルス充電(電気的アプローチ)
    • 特殊な充電器を使い、微細な高周波パルスをバッテリーに流します。この振動で硬くなったサルフェーションを極板から剥がし、再び電解液中に溶け込ませます。最近はAmazonなどで安価なパルス充電器(デサルフェーター)が手に入るため、農家には一台あると便利です。

      参考)https://www.jacom.or.jp/archive03/new_product/2009/02/new_product090220-138.html

  2. 添加剤(化学的アプローチ)

電解液が濁っている場合
比重を測ろうとしてスポイトで吸い上げた電解液が「茶色」や「黒色」に濁っている場合は、極板そのものがボロボロに崩れています。これはサルフェーション除去では治りません。寿命です。透明か、やや白濁程度であれば、復活のチャンスがあります。

 

電解液の作り方としてマグネシウム活用した復活の裏技

ここからは、教科書にはあまり載っていない、一部のDIY愛好家や海外の農家の間で知られる「エプソムソルト(硫酸マグネシウム)」を使った電解液の調整による復活方法を紹介します。これはあくまで自己責任の裏技ですが、完全に死んだと思ったバッテリーが一時的に使えるようになる可能性があります。

なぜマグネシウムなのか
硫酸マグネシウム(入浴剤のエプソムソルトとして入手可能)を電解液に添加すると、内部抵抗が下がり、化学反応が活性化されると言われています。厳密にはバッテリー本来の性能に戻るわけではありませんが、応急処置としてエンジンの始動が可能になるケースがあります。

 

手順(自己責任で行ってください)

  1. 溶液の作成
    • 薬局やネットで「硫酸マグネシウム(エプソムソルト)」を入手します。
    • 約500mlの温めた精製水に対し、大さじ3〜4杯程度の硫酸マグネシウムを溶かします。完全に溶け切るまで混ぜてください。
  2. 電解液の入れ替え
    • バッテリーのキャップを開け、各セルから既存の電解液を少しだけ(スポイト1〜2回分)抜きます。入れすぎによる溢れを防ぐためです。
  3. 注入と充電
    • 作ったマグネシウム溶液を各セルに均等に注入します。
    • その後、通常通り(できれば低電流でゆっくりと)充電を行います。パルス充電器があればなお良しです。

注意点
この方法は、電極板が物理的に壊れていない場合にのみ有効です。また、正規のメンテナンス方法ではないため、長く使い続ける機械には推奨しません。「どうしても今日、トラクターを動かしたいが新しいバッテリーが届かない」といった緊急時のサバイバル術として知っておくと良いでしょう。

 

海外で実践されるバッテリー電解液の調合と安全ガイド

最後に:廃棄時の電解液の処理

最後に、自作や入れ替えで余ってしまった電解液(希硫酸)の処理について触れておきます。希硫酸はそのまま下水に流すことは法律で禁じられていますし、環境破壊につながります。

 

もし少量を処分する必要がある場合は、「重曹(炭酸水素ナトリウム)」を使って中和します。

 

参考)【化学の】バッテリー電解液(希硫酸)を捨てるには?【実験】|…

  1. プラスチック容器に重曹を多めに入れます。
  2. そこに廃液(希硫酸)を少しずつ加えます。
  3. 「シュワシュワ」と激しく発泡し、中和反応が起きます。
  4. 泡が出なくなるまで反応させ、リトマス試験紙などで中性(pH7付近)になったことを確認してから、大量の水とともに処分します。

農機具小屋のコンクリート床に電解液をこぼしてしまった場合も、水をかける前に重曹を振りかけることで、コンクリートが酸で溶けるのを防ぐことができます。農業現場には重曹を一袋常備しておくと、こうした酸のトラブルに即座に対応できて安心です。

 

正しい知識で電解液を管理し、愛機のバッテリーを長く元気に使い続けましょう。

 

 


強アルカリ電解水 ブリーズクリア 最高濃度pH13.2以上 詰替 2L マルチクリーナー 油汚れ アルカリ電解水クリーナー