有効土層とは、単に土がある深さのことではなく、「作物の根が支障なく伸長でき、水分や養分を吸収できる土層」のことを指します。作土層(耕うんされている層)の下にある心土も含め、どこまで根が張れるかが収量や品質に決定的な影響を与えます。
多くの農業現場では、作土層(約15~20cm)の管理には熱心ですが、その下の有効土層の深さが見落とされがちです。根が深く張れるかどうかは、地上の茎葉の生育と比例します。
根が深く入ることで、地上部が強風で倒伏するのを防ぐ物理的な支持力が得られるほか、微量要素の欠乏症が出にくくなるメリットもあります。特に果菜類では、栽培期間が長いため、後半の「スタミナ切れ」を防ぐには十分な有効土層の深さが不可欠です。
農林水産省:土壌の基礎知識(有効土層の定義と等級基準について)
土壌の物理性において、有効土層の深さは「水はけ(排水性)」と「水もち(保水性)」のバランスを決定づける巨大なタンクの役割を果たします。有効土層が浅いということは、タンクの容量が小さいことを意味し、少しの雨で過湿になり、少しの日照りで干ばつ害を受けやすくなります。
理想的な土壌は、固相(土の粒子)、液相(水)、気相(空気)の三相分布がバランスよく保たれています。しかし、有効土層が浅い圃場では、下層に「耕盤層」や「グライ層」などの緻密な層が存在し、水の垂直移動を妨げています。
特に、大型機械の多用による踏圧で形成される「耕盤層」は、物理性を悪化させる最大の要因です。この硬い層が地表から20~30cmの浅い位置にあると、作物の根は横に広がるしかなく、夏の高温乾燥時などに急激に萎れる原因となります。
AGRI PICK:地力を最大限活用して生産性向上!土壌物理性を改善しましょう
自分の圃場の有効土層が実際にどのくらいの深さあるのかを知るには、土壌断面の調査が必要です。最も確実なのは穴を掘ることですが、簡易的な調査器具を使うことで、圃場内の複数箇所を効率よく診断できます。
診断のポイントは、「ち密度(土壌硬度)」です。一般的に、山中式土壌硬度計の数値で20mm~24mm程度が根の伸長に最適とされ、29mmを超えると根が貫入できなくなります。この「29mm」のラインがどの深さにあるかが、その圃場の有効土層の限界点となります。
調査を行う際は、作物の生育が良い場所と悪い場所の両方を掘り比較することで、土壌物理性が生育に与えている影響をより明確に特定できます。
調査の結果、有効土層が浅いことが判明した場合、物理的な改良が必要です。単に肥料を入れるだけでなく、硬くなった下層土(心土)を物理的に破壊し、空気と水の通り道を確保する作業が求められます。
最も効果的なのは、トラクターに装着する作業機を用いた心土破砕(サブソイラ)です。
機械的な破砕と同時に行うべきなのが、有機物の投入と深根性緑肥の栽培です。ソルゴーやセスバニアなどの根が深く張る緑肥作物を栽培すると、その根が硬盤を貫通し、枯れた後に有機物として残ることで、縦方向の「水みち」と「空気穴」が形成されます。これを「バイオティラージ(植物による耕うん)」と呼び、機械による破砕効果を持続させるために非常に有効です。
新潟県:物理性の改善(心土破砕や有機物施用による土壌改良技術)
近年、農業現場で無視できなくなっているのが、極端な気象現象(ゲリラ豪雨や長期間の干ばつ)への対応です。実は、有効土層を深く確保することは、気候変動適応策として非常に強力な効果を発揮します。
検索上位の情報ではあまり触れられませんが、有効土層の深さは「土壌の緩衝能力(バッファー)」と直結しています。
逆に有効土層が浅い圃場では、少雨が続くとすぐに水不足に陥り、灌水作業の負担が激増します。将来的な気候リスクを低減するためには、単年度の収量だけでなく、「根が深くまで潜れる土作り」という長期的な視点での物理性改善が保険となります。
J-STAGE:気候変動に対応した作物育種と深根性による乾燥回避