通信機器一覧と農業IoT導入の比較と種類の選び方

農業の効率化に通信機器一覧の確認は必須ですか?IoTセンサーやLPWAの種類、導入コストや現場での選び方を徹底解説し、電波干渉の意外な対策まで網羅します。最適な機器は見つかりますか?

通信機器一覧と農業IoT

通信機器一覧と導入のポイント
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通信規格の選定

LPWAやLTEなど、農地の広さと電源有無で決定

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コストの最適化

本体価格だけでなく月額通信費と電池交換の手間を計算

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障害物対策

ビニールハウスの鉄骨や作物の水分による電波減衰を考慮

通信機器一覧の通信規格と種類の特徴

農業におけるICT活用(スマート農業)が進む中で、現場に導入される通信機器は多岐にわたります。適切な機器を選定するためには、まず通信規格の特性を深く理解する必要があります。ここでは、農業現場で主流となっている通信機器と規格を一覧化し、それぞれの技術的な特徴を詳細に解説します。

 

  • LPWA(Low Power Wide Area)

    農業IoTの主役とも言える通信規格です。「低消費電力」で「長距離通信」が可能という特性は、電源確保が難しく、広大な面積を持つ農地に最適化されています。

     

    • LoRaWAN(ローラワン): アンライセンスバンド(免許不要帯域)を使用するため、自営で基地局(ゲートウェイ)を設置すれば通信費が無料になります。山間部や携帯電話の電波が届かないエリアでも、自分でネットワークを構築できる点が最大の強みです。ただし、ゲートウェイの初期導入費用がかかります 。

      参考)https://www.soumu.go.jp/main_content/000937351.pdf

    • Sigfox(シグフォックス): 基地局の設置・運営を事業者が行うため、ユーザーはデバイスを用意して契約するだけで利用可能です。非常に低消費電力で電池が長持ちしますが、1回に送信できるデータ量が極めて少なく(12バイトなど)、送信回数にも制限があるため、温度や水位などの単純な数値データの監視に向いています 。

      参考)Sales Portal Site - BP Platinu…

    • NB-IoT / LTE-M: 携帯電話キャリアのLTE回線を利用したLPWAです。携帯電話がつながる場所であればどこでも安定して通信でき、基地局設置の手間が不要です。通信速度は他のLPWAより速く、画像データの送信も一部可能です。ただし、SIMカードの契約が必要で、月額のランニングコストが発生します 。

      参考)LPWAとは? Wi-Fiや5Gとの違いから、IoT時代の新…

  • セルラー通信(3G/4G/LTE/5G)

    スマートフォンと同じ回線を使用する通信機器です。

     

    • 4G/LTEルーター: 高速通信が可能で、高画質の監視カメラ映像の送信や、ドローンの遠隔操作、自動走行トラクターの制御など、大容量データのやり取りが必要な場面で必須となります。電源消費が激しいため、商用電源(コンセント)があるビニールハウスや、大型のソーラーパネルとの併用が前提となります 。

      参考)IoT機器に最適なルーターは?失敗しない選び方とおすすめを紹…

    • 5G(ローカル5G): まだ導入コストは非常に高いですが、超低遅延・多数同時接続の特性を活かし、農機具の完全自動化やAIによるリアルタイム画像解析など、未来の農業の中核技術として注目されています。
  • Wi-Fi / Wi-Fi HaLow(IEEE 802.11ah)
    • 従来のWi-Fi(2.4GHz/5GHz): 母屋や事務所から近い場所での利用に限られます。通信速度は速いですが、飛距離は短く、障害物に弱い弱点があります。中継機(リピーター)を多用することでエリアを広げることも可能ですが、電源確保が課題となります 。

      参考)屋外のタブレット接続や低コストで拠点間ネットワークが構築でき…

    • Wi-Fi HaLow(ワイファイヘイロー): 新しい規格で、920MHz帯を使用します。従来のWi-Fiよりも飛距離が長く(1km程度)、障害物への回折性も高いため、農業用カメラやセンサーの通信として急速に注目されています。画像を送れる速度と、長距離通信を両立している稀有な規格です 。​
  • Bluetooth (BLE) / Mesh

    スマートフォンと直接通信できる手軽さが魅力です。通信距離は数メートル〜数十メートルと短いですが、メッシュネットワーク(機器同士がバケツリレーのようにデータを送る方式)を構築することで、ハウス内の温湿度センサー網などを低コストで構築できます 。

     

    参考)IoTゲートウェイとは?活用例、選び方、おすすめ製品をご紹介…

通信機器一覧の導入コストと選び方の基準

通信機器一覧を見て「どれが一番良いのか」と迷う場合、正解は「圃場の環境」と「何を監視したいか」によって変わります。導入に失敗しないための選び方と、見落としがちなコスト構造について深掘りします。

 

参考リンク:総務省 - スマート農業に利用される無線システムの特徴と動向(各通信規格の距離と速度の比較図が詳細に記載されています)
導入コストとランニングコストのバランス表

通信規格 初期導入コスト (機器代) ランニングコスト (月額) メンテナンス性 (電池/設置) 向いている用途
LoRaWAN (ゲートウェイ約5~20万円 + センサー) (基本0円、クラウド利用料のみ) 中 (ゲートウェイの電源・設置場所確保が必要) 山間部、携帯圏外、大規模農園の一括管理
Sigfox (センサー数千円〜) (回線契約料、年額数千円/台) (超低消費電力で電池交換頻度が低い) 水位センサー、獣害罠検知、環境モニタリング
LTE-M / NB-IoT (通信モジュール内蔵センサー) (SIM契約料、数百円/月) (エリア内なら置くだけで完了) 分散した圃場の管理、設置の手間を省きたい場合
4G / LTE 中〜高 (ルーター数万円) (数千円/月、データ量による) 低 (常時電源が必要、ソーラーは大掛かりになる) 監視カメラ、ロボット制御、Web会議

選び方の重要ポイント:

  1. 電源確保の有無で絞り込む
    • AC100V電源がある: 4G/LTEルーター + Wi-Fiカメラの構成が最も汎用的で高機能です。Amazonなどで市販されている安価なネットワークカメラも利用できます。
    • 電源がない(ソーラー/電池のみ): LPWA一択です。カメラを使いたい場合は、低解像度の静止画を送れるWi-Fi HaLowか、大型バッテリーを積んだLTE通信対応の専用カメラを選定する必要があります。
  2. 「見えないコスト」を計算に入れる
    • 電池交換の人件費: 「電池寿命1年」のセンサーを100個設置した場合、毎年100個の電池交換作業が発生します。広大な畑を歩き回る人件費は、通信費以上のコストになることがあります。Sigfoxなどの超低消費電力デバイス(電池寿命5〜10年)を選ぶことで、この「見えないコスト」を削減できます 。

      参考)「LPWA(LPWAN)」とは?特徴や種類ごとの比較、活用事…

    • SIM管理の手間: SIMカードを利用するLTE機器は、契約更新や解約の手続き、プラン見直しの事務作業が発生します。数百台規模になると、通信キャリアの管理画面(コンソール)の使いやすさも選定基準になります。
  3. 拡張性と互換性
    • 特定のメーカー独自の通信規格を採用した「クローズドなシステム」を導入すると、後から他社の安価なセンサーを追加したくてもできない「ベンダーロックイン」の状態に陥ります。可能な限り、LoRaWANなどの標準化されたオープンな規格を採用している機器を選ぶことが、将来的なコスト削減につながります 。​

通信機器一覧のLPWAとLTEの比較とメリット

「LPWA」と「LTE」は、農業IoTにおいて最も比較される二大巨頭です。それぞれのメリットとデメリットを対比させることで、具体的な利用シーンをイメージしやすくします。

 

  • LPWA(Low Power Wide Area)の深掘り
    • 最大のメリット:圧倒的な「省電力」と「カバレッジ」

      LPWAは、ボタン電池1個で数年間稼働するように設計されています。これは、送信するデータ量を極限まで削ぎ落とし、通信速度を犠牲にしているからです。また、通信速度を遅くすることで、微弱な電波でもノイズの中から信号を拾いやすくしており、結果として数km〜数十kmという長距離通信を実現しています 。

       

      参考)LPWAとは?通信の種類やメリット・デメリット、活用事例を徹…

    • 意外なデメリット:ファームウェア更新が困難

      通信速度が遅すぎるため、センサー本体のソフトウェア(ファームウェア)を遠隔でアップデートすることが事実上不可能です。バグがあった場合や機能追加をしたい場合、現地で有線接続して書き換える必要が出てくる点は、運用上のリスクとして知っておく必要があります。

       

  • LTE(セルラー通信)の深掘り
    • 最大のメリット:「即時性」と「信頼性」

      通信キャリアが維持管理するインフラを使うため、通信品質が非常に安定しています。台風や豪雨の際も、自営のアンテナ(LoRaWANゲートウェイなど)は倒壊や停電のリスクがありますが、キャリアの基地局は災害対策が施されていることが多く、有事の際も通信が維持されやすいです(ただし、大規模停電時は除く)。

       

    • 意外なデメリット:3G停波とVoLTE対応

      古い農業用ルーターの中には3G回線専用のものがまだ中古市場に出回っていますが、3Gサービスは順次終了(停波)しています。安価だからといって古い機器を購入すると、「通信できない」トラブルに直面します。必ず「4G/LTE対応」「VoLTE対応」と明記された現行機種を選ぶ必要があります 。

       

      参考)LPWA(LPWAN)とは?特徴や種類ごとの比較、周波数、メ…

    参考リンク:NTT Com - LPWAと他通信規格の比較(速度、距離、消費電力の定量的な比較データがあります)

    • ハイブリッド運用のすすめ

      現実的な解として推奨されるのが、両者の「いいとこ取り」です。

       

      • 構成例: 畑の各所にばら撒く土壌センサーや水位センサーには「LPWA(LoRa)」を採用し、それらのデータを集約する親機(ゲートウェイ)には「LTEルーター」を使用する構成です。これなら、SIMカードの契約は親機1台分で済み、センサー側は電池で長期間放置できます。この「LPWAで集めて、LTEでクラウドへ送る」という構成が、現在のスマート農業のデファクトスタンダードとなっています 。

        参考)IoT ゲートウェイ・ルーター - IoTデバイス通販 - …

      通信機器一覧の設置場所と障害物の対策

      これはカタログスペックや一般的な比較記事にはあまり載っていない、しかし現場では致命的な問題となりうる「独自視点」のトピックです。農業現場特有の「障害物」は、ビルの壁とは全く異なる挙動をします。

       

      • 「緑の壁」問題(作物の水分による電波減衰)

        農業現場において、最大の電波障害物は「植物そのもの」です。植物の葉や茎には水分が多く含まれています。水は電波、特に2.4GHz帯(Wi-FiやBluetooth、ZigBeeなど)のマイクロ波を非常によく吸収します(電子レンジが水を温めるのと同じ原理です)。

         

        • 具体的な失敗例: 定植直後の苗が小さい時期にはWi-Fiセンサーが快調に通信していたのに、作物が成長して繁茂した夏場になると、突然通信が途切れるという現象が多発します。これは生い茂った葉が「水の壁」となり、電波を遮断してしまうからです。
        • 対策: 920MHz帯(Sub-GHz帯)を使用するLPWAやWi-Fi HaLowは、2.4GHz帯に比べて波長が長く、水分による減衰を受けにくい特性があります。また、アンテナ位置を「作物の群落高(キャノピー)」よりも高い位置、あるいは通路の天井付近に設置することで、植物体を回避する物理的な工夫が必要です。
      • ビニールハウスとパイプの「ファラデーケージ」効果

        ビニールハウスは金属製のパイプ(骨組み)で構成されています。金属は電波を反射します。

         

        • 干渉のメカニズム: 密に組まれた金属パイプの中にWi-Fiルーターを設置すると、電波が内部で乱反射(マルチパス)し、通信品質が著しく低下することがあります。また、外からの電波(LTEなど)が金属パイプによって遮蔽され、ハウス内だけ「圏外」になることもあります。
        • 対策: LTEルーターなどのアンテナは、可能な限り外部アンテナを使用し、ハウスの外に出すか、パイプの影響を受けにくい妻面(ハウスの入口付近)の高い位置に設置します。また、防虫ネット(特に金属繊維が含まれるもの)も電波を遮断するため、アンテナ周辺だけネットを切り抜くなどの処置が必要な場合があります。
      • 地形によるフレネルゾーンの確保

        山間部の棚田や果樹園では、見通しが良くても通信できないことがあります。これは「フレネルゾーン」という電波の通り道が地面に接触しているためです。

         

        • 対策: 「見えているから繋がる」とは限りません。谷間を越えて通信する場合、送信側と受信側の両方のアンテナを高く上げ、地面(あるいは中間の樹木)との間に十分な空間(クリアランス)を確保する必要があります。設置前に、長いポールを用意して高さを変えながら電波強度を測定する「サイトサーベイ」が不可欠です 。​

        通信機器一覧と将来の自動化に向けた展望

        最後に、これからの農業経営において通信機器一覧をどのように見据えるべきか、未来の技術動向を含めて解説します。

         

        • 衛星通信(Starlinkなど)の活用

          これまでの農業IoTは、「携帯電話の電波が届く範囲」に限定されがちでした。しかし、低軌道衛星インターネット(Starlinkなど)の普及により、山奥の放牧地や、携帯圏外の林業現場でも高速通信が可能になりつつあります。

           

          • 活用シーン: 圏外エリアに「衛星アンテナ」と「LoRaゲートウェイ」をセットで設置し、半径数キロメートルのセンサーデータを衛星経由でクラウドに飛ばすシステムが実用化されています。これにより、日本の国土のどこでもスマート農業が可能になります。
        • 画像解析とAIのエッジ処理

          通信機器の進化により、全てのデータをクラウドに送るのではなく、現場のカメラやゲートウェイ内でAIが「病害虫の有無」や「収穫適期」を判定し、必要な結果だけを通信で送る「エッジコンピューティング」が普及します。これにより、通信データ量を劇的に削減しつつ、リアルタイムな判断が可能になります 。

        • まとめ:機器選定は「拡張性」が鍵

          通信機器一覧を見て選ぶ際は、単に「今の機能」だけでなく、「将来的にセンサーを増やせるか」「他のメーカーの機器と連携できるか」という拡張性(インターオペラビリティ)を最優先に考えてください。安価でも閉鎖的なシステムより、多少高価でも標準規格に準拠したシステムを選ぶことが、長く使える「強い農業経営」への投資となります。