トランスアミネーション(アミノ基転移)は、アミノ酸の「アミノ基」を別の有機酸(α-ケト酸)へ移し替え、別のアミノ酸を作る反応です。
現場目線で言い換えると、窒素を「そのままの形で運ぶ」のではなく、必要な炭素骨格に“付け替えて”再利用できるようにする操作で、植物でも微生物でも広く起きます。
この反応の鍵になるのがビタミンB6由来の補酵素であるPLP(ピリドキサール5′-リン酸)で、PLPは酵素活性中心のリシン残基と結合(シッフ塩基)した状態から反応が始まります。
参考)https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/05/83-02-04.pdf
基質アミノ酸が入ると結合相手が入れ替わり、いったんPMP(ピリドキサミンリン酸)側へ移ったアミノ基が、別のα-ケト酸へ渡されてPLPが再生する、という循環で回ります。
農業従事者にとって重要なのは、「トランスアミネーションは単独で完結せず、相手のα-ケト酸(例:α-ケトグルタル酸)が十分にあるほど回りやすい」という点です。
つまり、炭素代謝(呼吸・TCAサイクル)と窒素代謝は切り離せず、日照不足や低温で炭素供給が詰まると、窒素の“使いこなし”まで鈍りやすい、という読み方ができます。
参考:PLPがアミノ基転移でどう循環するか(反応機構の要点)
Chem-Station「多才な補酵素:PLP」
トランスアミネーションの“交通整理役”として頻出するのがグルタミン酸です。
多くのアミノ基転移反応では、グルタミン酸がアミノ基の受け手・渡し手になりやすく、相方としてα-ケトグルタル酸(2-オキソグルタル酸)が登場します。
稲作などの現場で窒素の動きをイメージする時、根で取り込んだアンモニウム態窒素は速やかに有機化され、グルタミンやアスパラギンとして地上部へ運ばれる、という整理ができます。
そして運ばれてきたグルタミン・アスパラギンは、シンク器官(穂など)で代謝に使うために、グルタミン酸やアスパラギン酸へ変換されてから利用される、という流れが示されています。
この「運ぶ形」と「使う形」を切り替える場面で、アミノ基転移(トランスアミネーション)に関わる酵素群が必要になり、グルタミン酸/α-ケトグルタル酸の組が炭素—窒素の接点になります。
そのため、追肥の効きが思ったほど出ないときは、窒素の量だけでなく、炭素同化(光合成)や根の呼吸条件が落ちていないかも併せて疑う価値があります。
イネでは、土壌が還元的になりやすい水田条件でアンモニウムイオンを主に利用し、吸収後は根で直ちに有機化される、という考え方が示されています。
また、地上部への窒素輸送形態は主にグルタミンとアスパラギンで、アンモニウムイオン自体は道管液でごく僅かしか検出されない、という点が整理されています。
さらに収量に直結する視点として、穂を構成する窒素の大部分は老化器官からの転流に依存し、その転流窒素もグルタミンとアスパラギンが中心であることが述べられています。
ここでの実務的な示唆は、「葉で作った窒素化合物を、穂で作り替えて使う」ため、登熟期に窒素が“運ばれる能力”と“作り替える能力”の両方が必要になる、ということです。
現場で観察しやすい事象に落とすと、窒素欠乏は分げつ抑制などの形で表れやすく、根での初期同化(GS/GOGATなど)と、その後段のアミノ酸プールの維持が生育とつながります。
トランスアミネーションはこの「後段」を静かに支える反応なので、葉色や生育量だけでなく、気象(低温・寡照)で炭素代謝が落ちた週に“窒素が滞る”感覚を持つと診断が立てやすくなります。
参考:イネでのアンモニウム初期同化〜転流(根・道管液・篩管液の話)
日本農芸化学会「イネの窒素飢餓応答戦略」
土壌中でも、微生物はアミノ酸を分解・同化しながら、アミノ基転移を含む反応で窒素を別の炭素骨格へ付け替え、代謝をつないでいます。
このとき重要なのは、微生物は「無機態窒素だけ」を食べているわけではなく、環境条件によっては有機態窒素(アミノ酸等)も利用され得る、という発想です。
無菌条件で育てたイネ幼苗がグルタミン・アスパラギンを直接吸収し、吸収量が無機態窒素と同等以上になり得る、という紹介もあり、有機態窒素が“完全に例外”とは言い切れないことが分かります。
参考)植物のアミノ酸吸収について | コラム | セイコーエコロジ…
つまり、根圏では「作物が無機態窒素を吸う→作物がアミノ酸を作る」だけでなく、「土壌側でアミノ酸が動く→作物側がそれを取り込む」可能性も、条件次第で視野に入ってきます。
ここが“管理の要点”で、堆肥・有機質資材で根圏の炭素が増えると、微生物が増えて窒素を一時的に抱え込む(固定化)局面が出やすく、逆に分解が進むと放出(無機化)が進みます。
トランスアミネーションはその内部で働く基本反応の一つなので、土壌診断では見えにくいものの、根圏の温度・酸素・炭素供給が変わると“窒素の見え方”まで変わる、という理解につながります。
低温・寡照条件では、植物がアミノ酸(例:グルタミン、アスパラギン、アルギニン)を利用した方が、アンモニアや硝酸より良い生育を示す場合がある、という指摘があります。
この話をトランスアミネーションとつなげると、ストレス条件では「硝酸還元→アンモニウム同化」のような無機態窒素の処理だけでなく、すでに有機化された窒素を“受け取って作り替える”戦略が相対的に効きやすい、と読むことができます。
もう一段踏み込むと、トランスアミネーションは相手のα-ケト酸が要るため、光合成低下で炭素骨格供給が細ると、窒素が“材料はあるのに回らない”状態になり得ます。
このとき現場では「肥料を増やす」より先に、根の活性(地温・過湿・通気)や光環境の改善(被覆資材の管理、密植の見直し)を優先すると、窒素が“使われる側”に戻りやすい、という判断が成り立ちます。
実務チェックとしては、次のように観察項目を整理すると原因分離が進みます。
参考:低温・寡照でアミノ酸利用が有利になり得る話(現場のストレス対策の観点)
日本植物生理学会Q&A「植物体へのアミノ酸の吸収について」
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