植物プランクトンの種類と特徴!農業利用やアオコ対策と顕微鏡

植物プランクトンは農業にどんな影響を与えるの?代表的な種類や特徴、アオコ被害への対策、顕微鏡での観察方法を解説。さらに肥料としての利用やスーパー珪藻など、未来の農業技術についても深掘りします。

植物プランクトンの種類

植物プランクトンの重要ポイント
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農業利用

珪藻土としての土壌改良や、肥料成分(栄養塩)の循環に寄与します。

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アオコ被害

藍藻類の異常増殖は、農業用水の取水障害や水質悪化を招きます。

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観察と分類

顕微鏡を使えば、珪藻や緑藻など多様な種類の美しい形状を観察可能です。

珪藻や緑藻など代表的な種類と特徴

植物プランクトンは、水中に浮遊して光合成を行う微細な生物の総称であり、その種類は多岐にわたります。農業用水やため池、水田などで日常的に見られる代表的なグループには、大きく分けて「珪藻類」「緑藻類」「藍藻類」「鞭毛藻類」などが存在します。それぞれの特徴を知ることで、水質の状態や農業への影響を予測する手がかりとなります。

 

  • 珪藻類(けいそうるい)
    • 特徴: ガラス質(シリカ)の硬い殻を持つのが最大の特徴です。色は黄褐色や茶色に見えることが多く、形は円盤状、棒状、三日月状など幾何学的で美しい形状をしています。
    • 代表種: コバンケイソウ、ハネケイソウなど。
    • 役割: 水中の生態系を支える基礎生産者として極めて重要です。死滅して堆積した殻は「珪藻土」となり、後述するように農業資材として広く利用されています。

      参考)https://www.thr.mlit.go.jp/bumon/b00037/k00290/river-hp/kasen/study/umi/umi04-2.html

  • 緑藻類(りょくそうるい)
    • 特徴: 葉緑体を持ち、鮮やかな緑色をしています。陸上植物に近い性質を持ち、光合成を活発に行います。
    • 代表種:
      • アオミドロ: 髪の毛のような糸状の藻類で、水面を覆うように増殖します。手で触るとぬるぬるしています。
      • ミカヅキモ: 名前通り三日月のような形をした美しいプランクトンです。
      • ボルボックス: 多数の細胞が集まって球体を形成し、クルクルと回るように動きます。

        参考)水の中の小さな生き物(プランクトン)の解説 - 彩湖自然学習…

      • イカダモ: 複数の細胞が横に並んでイカダのような形を作ります。
    • 藍藻類(らんそうるい)
      • 特徴: 「シアノバクテリア」とも呼ばれ、細菌に近い原核生物です。青緑色をしており、富栄養化した水域で爆発的に増殖すると「アオコ」を形成します。
      • 代表種: ミクロキスティス、アナベナなど。
      • 注意点: 一部の種はカビ臭のような異臭を放ったり、ミクロシスチンという毒素を産生したりするため、農業用水として利用する際には警戒が必要です。

        参考)https://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/eikyou_hyouka/attach/pdf/damu_suisitu-4.pdf

    • 鞭毛藻類(べんもうそうるい)
      • 特徴: 鞭毛(べんもう)という毛のような器官を持ち、水中を遊泳することができます。
      • 代表種: ミドリムシ(ユーグレナ)は植物と動物の両方の性質を持つユニークな存在です。赤潮の原因となる渦鞭毛藻類もこのグループに含まれます。

        参考)https://mbrij.co.jp/wp-content/uploads/2024/04/2009_k6.pdf

      国土交通省 東北地方整備局:植物プランクトンの種類と形の特徴についての解説
      ※上記リンクは、珪藻類や鞭毛藻類の基本的な形状や特徴について、図解を交えて分かりやすく解説している国土交通省のページです。

       

      農業における植物プランクトンの利用と栄養塩

      植物プランクトンと農業の関係は、単なる「水中の生き物」という枠を超え、肥料や土壌改良材としての積極的な利用が進んでいます。特に注目されているのが、珪藻類に関連する資材と、栄養塩の循環プロセスです。

       

      • 珪藻土による土壌改良
        • 太古の珪藻が堆積してできた「珪藻土」は、多孔質(無数の小さな穴が開いている構造)であるため、保水性と通気性に優れています。これを畑に混ぜることで、土がふかふかになり、作物の根張りが良くなる効果があります。また、肥料成分を保持する力も高いため、肥料の流亡を防ぐ役割も果たします。

          参考)産業材料としての珪藻土とは、わかりやすく解説 - ものづくり…

        • さらに、珪藻土の主成分であるケイ酸(シリカ)は、イネ科の作物にとって必須の成分です。水稲栽培においてケイ酸肥料を施用すると、稲の茎葉が硬く丈夫になり、台風などで倒れるのを防ぐ(耐倒伏性)ほか、いもち病などの病害虫に対する抵抗力も向上します。

          参考)https://www.semanticscholar.org/paper/7cf3d2b48ecbb8e8ad4ad3502761d55b11150e8c

      • 栄養塩の吸収と水質浄化
        • 植物プランクトンは、水中の窒素(N)やリン(P)といった「栄養塩」を吸収して成長します。これらの成分は、まさに農作物の肥料そのものです。
        • 農業排水に含まれる余分な肥料分を植物プランクトンが吸収することで、自然界への負荷を減らす「水質浄化作用」が期待できます。吸収された栄養分はプランクトンの体内に蓄積され、それを動物プランクトンや魚が食べることで生態系の中を循環していきます。

          参考)https://cir.nii.ac.jp/crid/1390282680574635136

      • バイオ肥料(Biofertilizers)としての可能性
        • 近年では、特定の微細藻類や植物に関連する原生生物(プロティスト)を「バイオ肥料」として活用する研究も進んでいます。これらは土壌中の微生物環境を改善し、作物の栄養吸収を助ける働きがあるとされ、化学肥料の削減につながるエコな農業技術として期待されています。

          参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8724949/

        AGRI SWITCH:ケイ酸肥料の効果と使い方について
        ※上記リンクは、珪藻土の成分であるケイ酸が、稲の倒伏防止や病害虫対策にどのように役立つかを農家向けに詳しく解説している記事です。

         

        アオコの発生原因と水質への影響対策

        農業用ため池や貯水池において、植物プランクトン、特に藍藻類が異常増殖して水面が緑色のペンキを流したようになる現象が「アオコ」です。アオコの発生は農業現場において深刻なトラブルを引き起こすことがあります。

         

        アオコの発生原因
        主な原因は「富栄養化」です。畑から流出した肥料成分(窒素やリン)が池に蓄積し、夏場の高水温と強い日差しが加わることで、藍藻類が爆発的に増殖します。水温が25℃〜30℃になると発生リスクが最大化します。

         

        参考)池のアオコ対策!安全なバイオの力でアオコをなくす方法をご紹介…

        農業への悪影響

        1. 取水設備の閉塞: アオコが取水口やポンプ、スプリンクラーのノズルに詰まり、灌漑(かんがい)作業がストップしてしまうことがあります。
        2. 水質の変化(pH上昇): 植物プランクトンが活発に光合成を行うと、水中の二酸化炭素が消費され、pHがアルカリ性に傾きます。pHが高すぎる水(pH9以上など)を散水すると、作物の生育障害を引き起こす可能性があります。
        3. 酸素欠乏: アオコが大量に死滅して分解される際、水中の酸素が大量に消費され、酸欠状態になります。これにより魚が死んだり、硫化水素などの有害ガスが発生したりして、用水の質が著しく低下します。

        具体的な対策

        • 水の流動化: アオコの原因となる藍藻類は、静止した水面を好みます。ポンプや水車を使って池の水を動かしたり(曝気)、深層の水を汲み上げたりして水を循環させることで、増殖を抑制できます。

          参考)https://www.abios.gifu-u.ac.jp/education-member/ltdunion/file/8e4b9859e0acc4f21c09064de9673d47.pdf

        • 栄養塩の流入防止: ほ場からの過剰な肥料流出を防ぐことが根本的な対策です。緩効性肥料(ゆっくり効く肥料)の使用や、適切な施肥設計を行うことが重要です。
        • 物理的除去: 発生してしまったアオコをフェンスで囲い込んでポンプで吸い出したり、ネットですくい取ったりする方法もありますが、労力がかかります。

        農林水産省:農業用貯水施設におけるアオコ対応参考図書
        ※上記リンクは、農林水産省がまとめたアオコ対策のガイドラインで、発生メカニズムから具体的な防除技術まで網羅されています。

         

        顕微鏡を使った植物プランクトンの観察方法

        農業用水の状態を知るために、簡易的な顕微鏡観察を行うことは非常に有効です。水の色がおかしいと感じた時、それが泥の濁りなのか、特定のプランクトンの増殖なのかを見分けることができます。高価な研究用顕微鏡でなくても、倍率200倍〜400倍程度が見られる学習用顕微鏡で十分観察が可能です。

         

        参考)藻類 Q & A

        観察の手順

        1. 採水: 池や田んぼの水をペットボトルなどに採取します。アオコが発生している場合は、緑色の濃い部分を採ります。プランクトンが少ない場合は、プランクトンネット(ストッキングでも代用可)を使って濃縮すると見つけやすくなります。
        2. プレパラート作成: スライドガラスにスポイトで水を1滴垂らし、カバーガラスを静かに乗せます。気泡が入らないように注意しましょう。
        3. 観察: まずは低倍率(40倍〜100倍)で全体を見渡し、動くものや目立つ形状を探します。気になるものが見つかったら、高倍率(200倍〜400倍)に切り替えて詳細を観察します。

        観察のポイント

        • 色: 緑色なら緑藻類、茶色なら珪藻類、青緑色なら藍藻類の可能性が高いです。
        • 動き: クルクル回る(ボルボックス)、素早く泳ぎ回る(ミジンコなどの動物プランクトンや一部の鞭毛藻)、滑るように動く(一部の珪藻)など、動き方に特徴があります。
        • 形: 幾何学的な模様があるか、トゲがあるか、細胞がつながっているかなどをチェックします。

        自分の田んぼの水にどのような生物がいるかを知ることは、環境への理解を深め、より良い水管理につながる第一歩です。

         

        理科のクエスト:プランクトンの観察方法を徹底解説
        ※上記リンクは、顕微鏡の使い方の基礎から、プレパラートの作り方、動くプランクトンを観察するコツまで初心者向けに丁寧に解説されています。

         

        植物プランクトンの増殖技術と農業への応用

        近年、植物プランクトンの「増殖」能力を積極的に農業や産業に利用しようとする研究が進んでいます。これは従来の「発生して困るもの」という視点から、「育てて利用する資源」という視点への転換です。特に注目されているのが、増殖スピードが極めて速い「スーパー珪藻」や、家畜排せつ物を利用した循環型農業システムです。

         

        スーパー珪藻の活用
        通常の珪藻よりも数倍速く増殖する「スーパー珪藻」と呼ばれる株が発見・育種されています。これらを培養することで、以下の用途が期待されています。

         

        1. 水産養殖の餌(初期餌料): 魚の稚魚や貝類にとって、珪藻は最高の栄養源です。大量かつ安価に培養できれば、養殖コストを大幅に下げることができます。
        2. バイオ燃料の生産: 珪藻は体内に油分(脂質)を蓄える性質があります。これを抽出してバイオ燃料として利用する研究が進められています。

          参考)海の植物プランクトンから”最強”プロモーターを獲得:高知大学…

        家畜排せつ物を利用した循環システム
        農業分野で特にユニークな取り組みとして、家畜の尿や排水に含まれる高濃度の窒素やリンを、植物プランクトンの「肥料」として利用する研究があります。

         

        通常、処理にコストがかかる家畜排水を使って有用な微細藻類(珪藻など)を培養します。育った藻類は、そのまま肥料として畑に戻したり、飼料として家畜に与えたりすることができます。これにより、廃棄物を資源に変え、肥料代や飼料代を削減する「資源循環型農業」が実現します。

         

        参考)スーパー珪藻を速く、大量に、エコに増殖させる

        この技術はまだ実用化に向けた実証段階のものが多いですが、将来的には農家が自分の敷地内でプランクトンを培養し、それを肥料や燃料として利用する時代が来るかもしれません。植物プランクトンは、単なる水中の微生物ではなく、未来の農業を支える「小さな巨人」としての可能性を秘めています。

         

        香川大学:スーパー珪藻の増殖生態解明と活用手法の開発
        ※上記リンクは、スーパー珪藻の特性や、家畜排水を利用した培養試験など、最先端の農学連携研究について詳しく紹介されています。