ローリングストックを成功させるための第一歩は、自分たちの生活スタイルに合った「日常の食品リスト」を作成することです。多くの人が陥りがちなミスは、災害時だからといって、普段食べ慣れていない乾パンや特別な保存食ばかりを買い込んでしまうことです。しかし、被災時という極限のストレス下において、未知の味やパサパサした食感のものは喉を通らないという実例が数多く報告されています。
まず、主食の確保です。私たち農家にとってお米は身近な存在ですが、電気が止まった場合を想定した実例を準備する必要があります。カセットコンロで炊飯する技術を習得しておくことはもちろんですが、水や燃料を節約できる「パックご飯」や「アルファ化米」もリストに加えるべきです。特にパックご飯は、賞味期限が1年近いものも増えており、農作業が忙しい時期の昼食として消費しながら循環させることが可能です。
次に、タンパク質源となる主菜です。ここでは、常温保存可能な魚や肉の加工品が活躍します。焼き鳥の缶詰やサバ缶は定番ですが、最近の実例として注目されているのが「サラダチキンの常温保存タイプ」や「大豆ミートを使用したレトルト惣菜」です。これらはそのまま食べても美味しく、貴重なタンパク源となります。また、私たちのように体力を使う職業の場合、カロリー摂取も重要です。エネルギー効率の良い、油漬けのツナ缶なども多めにリストアップしましょう。
そして、意外と忘れがちなのが「汁物」と「甘味」です。温かい味噌汁やスープは、不安な夜に精神的な安定をもたらします。フリーズドライの味噌汁は軽量で場所を取らず、野菜不足も補えます。また、羊羹(ようかん)は「和製エナジーバー」とも呼ばれるほど優秀なローリングストック食品です。賞味期限が長く、糖分補給として即効性があり、さらに常温で溶けないため、夏場の備蓄にも適しています。
最後に、水の備蓄実例についてです。大人1人あたり1日3リットルが必要とされますが、これは飲料用だけでなく、調理や最低限の衛生用を含んだ量です。4人家族であれば、3日分で36リットル、1週間分なら84リットルが必要です。これをすべて2リットルのペットボトルで賄うのは収納スペース的に困難な場合があります。そこで推奨される実例が、500mlボトルの箱買いと、ウォーターサーバー(ボトル交換式)の併用、そしてポリタンクへの水道水の汲み置き(3日おきに入れ替え)を組み合わせるハイブリッド方式です。
農林水産省の「災害時に備えた食品ストックガイド」には、より詳細な備蓄量の目安や栄養バランスの考え方が掲載されています。
ローリングストックにおける最大の課題は、「気づいたら賞味期限が切れていた」という失敗です。これを防ぐためには、収納方法そのものをシステム化し、自然と循環(ローリング)が起きる仕組みを作ることが不可欠です。精神論で「定期的にチェックしよう」と決意しても、繁忙期の農家にはそのような余裕はありません。
最も効果的な実例の一つが「先入れ先出し(FIFO: First-In First-Out)」を物理的に強制する収納レーンを作ることです。例えば、本棚やカラーボックスを使用し、新しい缶詰やレトルト食品は必ず「奥」から補充し、使うときは「手前」から取るというルールを徹底します。これを実現するために、100円ショップで売られている細長いトレーやファイルボックスを活用し、奥から手前へ商品が滑ってくるような傾斜をつけるDIYも有効です。
また、「ローリングストック専用エリア」と「日常使いエリア」を完全に分けないことも重要なコツです。かつては防災リュックに全て詰め込むのが主流でしたが、ローリングストックの実例では、キッチンのパントリー(食品庫)そのものを備蓄倉庫とみなします。普段の料理で使う棚に備蓄品が並んでいることで、在庫の増減が可視化されます。私が実践しているコツは、パントリーの「ゴールデンゾーン(目線の高さ)」に、賞味期限が半年を切った食品を集めるコーナーを作ることです。ここにあるものは「今月中に食べるべきもの」として、昼食や夕食のメニューに積極的に組み込んでいきます。
さらに、収納場所の分散もリスク管理の観点から重要です。自宅が浸水被害に遭った際、1階のパントリーが全滅する可能性があります。実例として、水や重い缶詰の一部は2階の納戸や、離れの倉庫など、垂直方向に分散して収納することが推奨されています。私たち農家の場合、頑丈な農業用倉庫があることが多いですが、夏場の庫内温度には注意が必要です。高温になりやすい場所は避け、断熱性のある保管庫を選ぶか、家の中の涼しい場所(床下収納など)を活用しましょう。
食品だけでなく、カセットボンベの収納実例も触れておきます。カセットボンベにも約7年という使用期限があります。内部のゴム部品が劣化し、ガス漏れの原因となるためです。これを循環させるコツは、冬場の鍋料理だけで消費しようとしないことです。あぶり料理に使ったり、お湯を沸かす際に意図的にカセットコンロを使ったりして、日常的にガスを消費し、常に新しいボンベが3本×3セット(9本)程度ある状態をキープするのが理想的です。
缶詰とレトルト食品はローリングストックの主役ですが、選び方には「飽き」対策という視点が必要です。災害時やライフラインが止まった際、毎日同じ味のサバ缶や白飯だけでは、食事が苦痛になりかねません。ここでは、バリエーションと栄養価、そして「心の栄養」を考慮したおすすめの実例を紹介します。
まず缶詰ですが、「味付けのバリエーション」を意識して揃えましょう。例えばサバ缶一つとっても、「水煮」「味噌煮」「醤油煮」だけでなく、「カレー味」「バジルオイル漬け」「トマト煮」など、洋風の味付けを含めるのがポイントです。これにより、そのまま食べるだけでなく、パスタソースに転用したり、パンに挟んだりと、メニューの幅が劇的に広がります。また、野菜不足を補うための「コーン缶」「トマト缶」「マッシュルーム缶」などの素材缶も必須です。これらは常温で3年程度持ち、加熱調理なしでも食べられるものが多いため、貴重なビタミン・ミネラル源となります。
意外な実例として強くおすすめしたいのが「フルーツの缶詰」です。みかん、桃、パイナップルなどの甘いフルーツは、被災時の殺伐とした空気の中で、驚くほどの精神的リフレッシュ効果をもたらします。シロップも含めてカロリー源となりますし、水分補給の一助にもなります。特に子供や高齢者がいる家庭では、好きなフルーツ缶を多めにストックしておくことが安心材料となります。
レトルト食品に関しては、「高単価なもの」を少し混ぜておくのがおすすめです。普段は100円のレトルトカレーを食べているとしても、ローリングストック用には有名店監修の500円前後のカレーや、具材がゴロゴロ入ったシチューなどを数個混ぜておきます。これは、消費期限が近づいて食べる際(平時)の楽しみになるだけでなく、被災時において「少し贅沢な食事」が明日への活力になるからです。
また、最近の技術進化により「無水調理ができるレトルトソース」も増えています。これらはパスタを茹でるための大量の水を必要とせず、少量の水で蒸し煮にするタイプや、和えるだけのタイプです。水が貴重な災害時において、こうした調理工程を省略できるレトルト食品は非常に重宝します。
さらに、栄養バランスを整えるための「サプリメント」的な要素を持つ食品もおすすめです。例えば、野菜ジュースの缶詰タイプ(長期保存用)や、栄養調整食品(バランス栄養食)です。これらは調理不要で、封を開ければすぐに特定の栄養素を摂取できます。特にビタミン類は、保存食中心の生活では不足しがちです。
NHKの「そなえる 防災」特集ページでは、こうした食品の具体的な活用レシピや、日常での消費アイデアが豊富に紹介されています。
ここからは、農家である私たちだからこそ実践できる、独自視点のローリングストック実例について深掘りします。一般的な家庭では「購入して備蓄」が基本ですが、農家は「生産して加工して備蓄」という強力なオプションを持っています。これはコストを抑えるだけでなく、廃棄野菜の有効活用(SDGs)にも繋がります。
最強の実例は「自家製ドライ野菜(干し野菜)」です。規格外で出荷できない大根、人参、きのこ類、ナス、そして果物などを、天日干しや食品乾燥機(フードドライヤー)で乾燥させます。完全に水分を抜けば、密閉容器に入れて常温で半年〜1年以上の保存が可能です。水で戻せば煮物や味噌汁の具になりますし、トマトやズッキーニなどはそのままオリーブオイルに漬け込んで、イタリアンな保存食にすることもできます。市販のフリーズドライ野菜は高価ですが、自家製ならほぼコストゼロで、大量のビタミン・食物繊維ストックを作ることができます。
次に、「お米の真空パック保存」です。農家であれば真空パック機を持っている家庭も多いでしょう。精米した白米は通常、夏場で1ヶ月程度しか味が持ちませんが、脱酸素剤を入れて真空パックにすれば、冷暗所で1年以上、新米に近い美味しさを保つことができます。これを30kg分(5kg×6袋)ほど作成し、古いものから順に自家消費していけば、常に最高品質の主食を備蓄できます。玄米のまま保管するよりも、緊急時に精米の手間がいらない白米の状態での長期保存は、水や電力が限られる災害時に大きなアドバンテージとなります。
また、「漬物」も立派なローリングストックです。梅干し、沢庵、ラッキョウなどは、塩分補給と保存性の観点から非常に優秀です。特に梅干しは、クエン酸による疲労回復効果と、殺菌作用による食中毒予防が期待できます。昔ながらの塩分濃度20%程度の梅干しなら、常温で数十年持ちます。最近は減塩がブームですが、防災という観点では、あえて高塩分の「昔ながらの保存食」を数瓶ストックしておくことを推奨します。
さらに、種や苗の知識がある農家ならではの「再生野菜(リボベジ)」の知識も、広義の備蓄技術と言えます。例えば、豆苗やネギの根元を残して水につけておくだけで再収穫できる技術は、新鮮な野菜が手に入らない避難生活において、わずかながらも緑黄色野菜を確保する手段となります。
このように、農家のローリングストックは、単に店で買ってきたものを並べるだけでなく、日々の農作業の延長線上にある「加工・保存」の技術を組み込むことで、より強固で豊かな食料保障システムを構築できるのです。
最後に、多くの人がローリングストックを実践する中で経験した「失敗」の実例から学び、挫折しないためのポイントを押さえましょう。成功事例だけでなく、失敗事例を知ることが、継続可能なシステム構築への近道です。
最も多い失敗実例は「家族の好みを無視した備蓄」です。例えば、特売で安かったからといって、誰も好きではない種類のカップ麺を箱買いしてしまうケースです。ローリングストックは「日常的に消費する」ことが前提です。家族が食べたがらないものは、平時において消費されず、結果としてパントリーの奥で賞味期限切れを迎えます。これを防ぐには、備蓄品を買う前に「試食会」を開くことです。家族全員で味見をし、「これなら普段の昼ごはんに出ても嬉しい」と合格が出たものだけをリストに加えましょう。
次に多いのが「収納場所のブラックボックス化」です。深い収納ケースや、中身が見えない段ボール箱に詰め込んで積み重ねてしまうと、下の箱に入っているものの存在を完全に忘れてしまいます。数年後に発掘された時には、すべて廃棄処分という悲しい結末になります。これを防ぐ実例として、収納ケースは「透明または半透明」のものを選ぶ、あるいは箱の外側に大きく「賞味期限:202X年〇月」とマジックで書く、というアナログですが確実な方法があります。スマホのリマインダーアプリを活用し、期限の1ヶ月前に通知が来るように設定するのも現代的な解決策です。
また、「調理器具の欠如」による失敗もあります。食材は完璧に揃えたのに、カセットコンロのガスがない、缶切りが必要な缶詰ばかりなのに缶切りが見当たらない、といったケースです。最近の缶詰はプルトップ式が多いですが、輸入食品や一部の業務用缶詰は缶切りが必要です。実例として、キッチンバサミや缶切り、ラップ、耐熱ポリ袋(湯煎調理用)は、食品と一緒に同じ場所にセットで収納しておく「グルーピング収納」が推奨されます。
さらに、農家ならではの失敗として「玄米保冷庫への過信」があります。玄米保冷庫は温度と湿度が管理されており保存に適していますが、停電した瞬間にただの「断熱された密閉箱」になります。夏場に長期間停電すると、庫内の温度が上昇し、高湿度と相まってカビの温床になるリスクがあります。保冷庫に入れているから安心、ではなく、電気が止まった場合に備えて、一部は常温保存可能な加工米や真空パック米に分散しておくなどのリスクヘッジが必要です。
日本赤十字社では、こうした備蓄の失敗を防ぐための知恵や、災害時の心理ケアも含めた総合的な情報を提供しています。