プロピコナゾールと農薬の適用と使用方法

プロピコナゾール農薬の作用機構、適用、使用回数、残留や水質までを現場目線で整理します。失敗しない使い方を一緒に確認しませんか?

プロピコナゾールと農薬

プロピコナゾール 農薬の要点
🧪
作用機構

DMI(FRAC 3)でエルゴステロール生合成を阻害し、病原菌の増殖を止めるタイプ。

📋
適用とラベル

作物・病害・希釈倍数・収穫前日数・使用回数は製品ラベルと適用表が絶対基準。

💧
環境・水質

水質の登録保留基準など、周辺水域に配慮した散布設計が重要。

プロピコナゾール 農薬の作用機構とFRAC

プロピコナゾールはトリアゾール系の殺菌剤に分類され、植物体に取り込まれた後、糸状菌の細胞膜成分であるエルゴステロールの生合成を阻害する(いわゆるDMI:脱メチル化阻害)作用で効くと整理されています。
この「細胞膜を作れなくして増殖を止める」仕組みは、同じ系統の薬剤を続けて使うと効きが落ちる(耐性の方向がそろいやすい)という実務上の注意点も抱えます。
実際、FRACコード表(日本版)ではDMI(グループ3)について、複数病害で耐性が発生しており、DMI間では交差耐性が発生しているとみなしたほうがよい、という趣旨の記載があります。
原因が「散布ムラ」なのか「耐性寄り」なのかの切り分けは現場では難しいですが、次のような観点で考えると判断が速くなります。

 

  • 病斑の広がりが“散布ムラの形”になっている(畦間・外周・風下など)なら散布条件の見直しが先。
  • 散布条件が良いのに「同じ圃場で同じ薬が年々効きにくい」なら、系統ローテーションと混用設計を疑う。
  • DMI単独に寄せすぎず、別系統(FRACの異なる薬剤)を組み合わせるのが基本。

参考(FRACの根拠・耐性の考え方の確認に有用)
作用機構とFRACコード(日本版)のPDF:https://www.croplifejapan.org/assets/file/labo/books/FRAC_code_20250603.pdf

プロピコナゾール 農薬の適用と使用方法

農業従事者が最初に押さえるべきは「成分の一般論」よりも、製品ごとの適用表(作物、病害、希釈倍数、散布量、使用時期、使用回数、収穫前日数)です。
たとえばプロピコナゾールを有効成分として含む製剤「チルト乳剤25」の適用表には、作物と病害、希釈倍数、散布液量、収穫前日数、さらに「プロピコナゾールを含む農薬の総使用回数」まで細かく条件が書かれています。
この「総使用回数」は、同一成分を含む別製品も含めた通算の上限なので、手元の在庫や共同防除の履歴がある圃場ほど“思い込み違反”が起きやすいポイントです。
現場での事故(効かない・薬害・残留の指摘)は、突き詰めると次の3つに集約されがちです。

 

  • 希釈倍数は合っているが散布液量が足りない(葉裏・株元が抜ける)。
  • 「病気が見えてから」一発で止める期待をしすぎる(DMIでも初期が基本)。
  • 使用時期(例:収穫前日数、特定生育ステージ)を外す。

適用表を確認するのに有用(ラベル情報の一次資料)
チルト乳剤25の適用表PDF:https://cp-product.syngenta.co.jp/sites/default/files/products/%E9%81%A9%E7%94%A8%E8%A1%A8/pdf/item_id_53_s_sk_tilt_25ec.pdf

プロピコナゾール 農薬の使用回数と耐性管理

プロピコナゾールの「効き」を長く保つコツは、薬剤そのものの強さよりも、圃場全体の“耐性が育ちにくい条件”を作ることです。
FRACの整理ではDMI(グループ3)はグループ内で交差耐性を想定しておくべきとされ、DMIを連用しない、別系統と組み合わせる、といった設計が前提になります。
ここで重要なのは「ローテーション=銘柄を替える」ではなく、「ローテーション=作用機構(FRAC)を替える」ことです。
実務で使いやすい耐性管理の考え方を、作物や病害を問わない形で落とすと次の通りです。

 

  • 連続散布を避ける:同一FRAC(DMI)を続けない。
  • “効く年だけ連用”が最も危険:効いているうちに耐性個体が増えやすい。
  • 予防〜初期で止める:発病が進むほど「耐性っぽい残り方」に見えやすい。
  • 散布ムラの削減が耐性対策になる:薄く当たった場所が“選抜の場”になる。

意外と見落とされがちな観点として、薬剤ローテだけでなく「病害の初発を遅らせる栽培側の調整」が、結果的に薬剤回数を減らし耐性圧を下げることがあります。

 

  • 過繁茂を避ける(風通し改善で葉面の濡れ時間が短くなる)。
  • 施肥設計を見直す(過剰窒素で病害が助長されやすい作型がある)。
  • 圃場内の“初発源”を減らす(罹病残渣・周辺雑草の管理など、可能な範囲で)。

参考(耐性・交差耐性の前提整理に有用)
FRACコード表(日本版):https://www.croplifejapan.org/assets/file/labo/books/FRAC_code_20250603.pdf

プロピコナゾール 農薬の残留と安全性

「残留が怖いから弱く散布する」という判断は、効果不足で再散布を招き、結果的に総使用量が増えることがあるため、適用表どおりに設計して“回数を増やさない”方が合理的です。
食品の安全側の考え方としては、評価機関がADI(一日摂取許容量)などを設定し、残留基準・摂取量を踏まえてリスク評価を行う枠組みが使われます。
プロピコナゾールについては、環境省の資料でもADIが示され、別途、水質の評価(後述)ともつながる形で整理されています。
また、輸入食品でプロピコナゾールが話題になるケースがあるのは事実で、これを「危険だから禁止すべき」という短絡に結びつけるよりも、現場では次のように理解しておくと実務に効きます。

 

  • “検出=ただちに健康被害”ではなく、基準や評価枠組みの中で判断される。
  • 残留の指摘は「収穫前日数」「回数」「希釈・散布量」「ドリフト」など運用由来が多い。
  • 特に共同防除や無人航空機散布では、隣接作物への付着(ドリフト)対策が残留トラブルの主戦場になる。

公的な評価枠組みの確認に有用(ADIや水質評価が同一資料で把握できる)
環境省:プロピコナゾール資料PDF:https://www.env.go.jp/content/900540904.pdf

プロピコナゾール 農薬の水質とドリフト(独自視点)

検索上位の記事は「適用表」「効果」「希釈倍数」に寄りがちですが、農業者にとって実害が大きいのは、むしろ“水と風”が絡む周辺リスクです(用水路、ため池、民家側の家庭菜園、隣の施設栽培など)。
環境省の資料では、プロピコナゾールはトリアゾール系殺菌剤であること、物性(logPowなど)や水質汚濁に係る基準値、さらに水濁PEC(予測環境濃度)と基準値の比較による確認などが示されています。
ここを押さえておくと、単なる「気をつけよう」ではなく、圃場の条件に応じて“どこを優先して守るべきか”が言語化しやすくなります。
現場での具体策は、難しい設備投資を前提にしなくても、運用設計で改善できるものが多いです。

 

  • 風速・風向の基準を事前に決める(散布中に迷わない)。
  • 外周(ドリフトが出やすい側)はノズルや散布圧を抑え、必要なら散布幅を調整する。
  • 用水路・排水口の近傍は“散布しない帯(バッファ)”を作る発想を持つ。
  • 芝など非水田での使用は、降雨直前の散布回避が効きやすい(表面流出のリスクを下げる)。

「意外に効く小技」として、散布記録に風向・風速・ノズル・走行速度(あるいは飛行条件)まで残しておくと、翌年の同作型で“再現性のある改善”ができます。

 

記録は監査対応だけでなく、耐性対策(効きの再現)にも、残留対策(ドリフト原因の切り分け)にも同時に効くので、最も費用対効果が高い管理項目です。

 

水質の基準値やPECなど根拠の確認に有用
環境省:プロピコナゾール資料PDF:https://www.env.go.jp/content/900540904.pdf