ピロリジジンアルカロイド(PA)は、キク科・ムラサキ科など一部の植物が作る天然毒素で、600種類以上あるとされています。
農業の現場で問題になりやすいのは「作物そのものがPAを作る」ケースよりも、PAを含む植物(雑草や混生植物)が、作物の収穫物に“意図せず混ざる”ケースです。
食品安全委員会のQ&Aでも、ハーブティー等の茶類やサラダミックスでPAが検出される理由として、PA含有植物が雑草として農地・園地に侵入し、食用植物と間違って収穫されたり、混じって収穫されたりする点が明確に書かれています。
混入が起きる状況を、現場の言葉に落とすと次の通りです。
参考)https://www.fsc.go.jp/hazard/ha_hazard7_s1.data/Pyrrolizidine_Alkaloids_QA.pdf
さらに見落とされがちですが、PAの“入り口”は複数あります。大阪健康安全基盤研究所の解説では、収穫時の非意図的混入(ハーブや茶)だけでなく、ミツバチを媒介とした混入(はちみつ)、飼料から畜産物への移行(乳や肉)も原因として整理されています。
つまり「作物に混入」だけを見ていると、同じ地域の養蜂・畜産のクレームや風評とつながってしまうこともあるため、地域全体のリスクコミュニケーションも重要になります。
PAが検出されやすい食品として、ハチミツや茶類が挙げられています。
また食品安全委員会のQ&Aでは、茶類(ハーブティー等)、サラダミックス、はちみつ、花粉荷(ビーポーレン)などが具体例として示されています。
同Q&Aはさらに、飼料がPAで汚染されている場合に乳や卵から極めて低濃度で検出される可能性があることにも触れており、畜産側の飼料管理が“作物由来の混入”と同じ話題に入ってくる点が要注意です。
ここで、農業従事者として押さえるべきポイントは「検出されやすい=作物が悪い」ではない、という点です。
農林水産省も、PA含有植物の葉・茎・種子・花びらなどが、食用植物と間違われて収穫されたり、食用植物に混じって収穫されたりすることで食品が汚染される、と整理しています。
このため、作目が同じでも、ほ場周辺の植生・雑草相、収穫方法、選別の強さ、乾燥・調製の手順でリスクは大きく変わります。
意外に見落としやすい事例として「蜜源表示のあるハチミツでもPAが検出されることがある」点があります。大阪健康安全基盤研究所の調査では、アカシアやクローバーを蜜源とするハチミツからもPA類が検出され、ミツバチが表示対象以外の花からも一部採蜜する可能性が示唆されています。
“表示”や“想定”だけでは混入を語れないという事実は、作物側でも同じで、「うちはその雑草は見たことがない」という感覚だけに頼るのが危険な理由になります。
農林水産省の解説では、PA含有植物の混入を未然に防ぐために、農地や牧草地における雑草管理の実施規範(コーデックス委員会)に基づく取組が紹介されています。
同ページには、リスク評価のうえで物理的・化学的・生物学的な方法を組み合わせて防除すること、雑草種子の拡散や移動(種子の混入していない種子を使う、農業機械や動物による移動を管理する等)を抑えることが推奨事項として挙げられています。
要するに「除草剤で一発」ではなく、侵入・拡散・定着を止める“総合戦”が前提です。
現場で組み立てやすいように、工程別のチェック観点に落とします。
表層だけでなく、周辺地(畦畔・農道・用排水路)の雑草が“種子供給源”になり得るため、境界部の草管理をルール化します。
「見つけた株は開花・結実前に処理」を徹底し、発見日時と場所をメモして翌年の発生を予測できるようにします(防除の継続性が上がります)。
機械収穫ほど“混入の瞬間”が短いので、収穫直前の巡回で重点区画を決め、そこだけ手取りや刈り分けなどの追加作業を入れると、費用対効果が高くなりやすいです。
参考リンク(混入の仕組み・雑草管理の推奨事項)。
農林水産省:食品中のピロリジジンアルカロイド類に関する情報(混入経路、雑草管理の推奨事項)
国内では、食品に対するPAの基準が「まだない」とされる一方で、リスク管理は進んでいます。
食品安全委員会のQ&Aでは、農林水産省がPAを優先的にリスク管理を行う有害化学物質の1つに選定し、はちみつ・緑茶・フキ等の実態調査を行っていること、今後も技術的に実行可能な範囲で調査を進める方針が示されています。
また日本では、PAを含む植物(例:コンフリー)の流通・販売を禁止する対応や、PA含有植物を飼料・飼料原料として使用することを禁止する対応が取られている、という整理が公的機関から示されています。
輸出や取引の観点では、EUの動きも無視できません。大阪健康安全基盤研究所の解説によると、EUでは2022年から茶、ハーブ、ハーブティー、花粉製品、スパイスなどの特定食品に対してPAの基準値が設定されています。
国内基準がないからといって「要求されない」とは限らず、取引先がEU基準や海外の社内規格を参照して、産地・工場に管理状況の説明を求めてくる可能性があります。
現場での備えとしては、次の“説明できる材料”を持つのが実務的です。
参考リンク(食品中PAの基礎Q&A、混入理由と予防の考え方)。
食品安全委員会:食品中のピロリジジンアルカロイド類に関するQ&A(混入理由、健康影響、予防の考え方)
PA対策は「ほ場で雑草をなくす」が王道ですが、現場では“ゼロにできなかった時の設計”も同じくらい重要です。
農林水産省が示す混入経路には、葉・茎・種子・花びら等の部位が混じって収穫されるケースが含まれており、ここで厄介なのが「乾燥・調製で軽い部位が紛れ込みやすい」「細片化して目視で見つけにくい」という“工程特性”です。
つまり、ほ場での除草が不十分だった場合、後工程で頑張っても取り切れない形でリスクが残ることがあります。
そこで独自視点として提案したいのは、PAを“分析で追いかける”前に、混入の兆候を拾う運用です。
最後に、PAは“特定の作物だけの話”ではなく、周辺地の植生・収穫様式・選別の強さで発生する「混入リスクの設計問題」です。
産地としては、クレームが起きてから「雑草が混じったかもしれない」と言うより、普段から“混じらない仕組み”と“混じった時に止める仕組み”の両方を持っている方が、結果的にコストと信用を守れます。