マイコトキシン症状とは?カビ毒の種類と対策

家畜や農作物に深刻な被害をもたらすマイコトキシン(カビ毒)。その症状や種類、効果的な対策について詳しく解説します。あなたの農場は本当に安全だと言い切れますか?

マイコトキシン症状

マイコトキシン(カビ毒)の要点
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多様な健康被害

消化器障害から繁殖成績の低下まで、家畜に幅広い悪影響を及ぼします。

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見えない汚染

カビそのものが見えなくても毒素が残留しているケースが多く、注意が必要です。

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予防と吸着

飼料管理の徹底と吸着剤の活用が、被害を最小限に抑える鍵となります。

マイコトキシン(カビ毒)の問題は、現代の農業、特に畜産経営において避けては通れない重大なリスクです。目に見えるカビが生えていなくても、目に見えない毒素が飼料中に潜んでいることがあり、それが家畜の健康を蝕み、生産性を著しく低下させます。「なんとなく牛の食欲がない」「繁殖成績が落ちてきた」といった漠然とした不調の裏に、このマイコトキシンの影が潜んでいることは珍しくありません。

 

農林水産省の指針でも、飼料の安全確保におけるカビ毒の管理は最重要項目の一つとされています。

 

農林水産省:かび毒に関する情報
マイコトキシンによる症状は、急性の中毒症状から、慢性的で気づきにくい生産性低下まで多岐にわたります。特に恐ろしいのは、複数のマイコトキシンが同時に存在することで相乗効果が生まれ、被害が拡大することです。ここでは、農業従事者が知っておくべき具体的な症状とメカニズムについて深掘りしていきます。

 

  • 消化器系への影響: 下痢、軟便、食欲不振、第四胃変位などのリスク増加。
  • 免疫力の低下: ワクチン効果の減少、乳房炎や蹄病などの感染症にかかりやすくなる。
  • 繁殖への悪影響: 受胎率の低下、流産、発情回帰の遅れなど、経営に直結するダメージ。
  • 肝機能・腎機能障害: 毒素の代謝による臓器への負担増大。

マイコトキシン症状とカビ毒の種類

マイコトキシンには数百種類が存在すると言われていますが、日本の農業現場で特に問題となる主要なカビ毒とその特有の症状を理解することが、対策の第一歩です。それぞれの毒素がターゲットとする臓器や生理機能が異なるため、現れる症状も様々です。

 

1. アフラトキシン(Aflatoxin)
最も発がん性が高く、知名度も高いカビ毒です。主に温帯から熱帯の地域で産出されるトウモロコシなどの飼料原料に含まれることがあります。

 

  • 主な症状: 肝臓障害が顕著です。肝細胞の壊死、脂肪肝、胆管増生などを引き起こします。乳牛においては、乳汁中にアフラトキシンM1として代謝産物が移行するため、食品衛生法(牛乳の規制値0.5μg/kg)の観点からも極めて厳格な管理が求められます。
  • 影響: 採食量の低下、成長阻害、免疫抑制による感染症の増加。

2. デオキシニバレノール(Deoxynivalenol: DON)
別名「ボミトキシン(嘔吐毒)」とも呼ばれます。小麦や大麦などの穀類に寄生する赤カビ(フザリウム属)によって産生されます。日本国内でも麦類の赤カビ病として馴染み深く、発生頻度が高い毒素です。

 

  • 主な症状: 名前が示す通り、嘔吐や拒食が特徴的ですが、家畜(特に豚)では採食量の低下や体重増加の抑制が顕著に見られます。牛では、第一胃の微生物叢(ルーメン菌叢)に悪影響を与え、消化機能全体を低下させます。
  • 影響: 飼料摂取拒否、免疫機能の低下、腸管粘膜の損傷による栄養吸収阻害。

3. ゼアラレノン(Zearalenone: ZEN)
これもフザリウム属のカビが産生する毒素で、女性ホルモン(エストロゲン)に似た作用を持つため、「発情毒」とも呼ばれます。

 

  • 主な症状: 繁殖機能への障害が主です。未経産牛や豚において、外陰部の腫脹、乳腺の発達、不規則な発情、卵巣嚢腫、流産、死産などを引き起こします。
  • 影響: 繁殖成績の著しい低下、空胎日数の延長、更新率の上昇など、経営コストを圧迫します。

4. フモニシン(Fumonisin)
トウモロコシに寄生するフザリウム属菌が産生します。

 

  • 主な症状: 馬では大脳白質軟化症、豚では肺水腫といった特異的で致死的な症状を引き起こすことがあります。牛では比較的耐性がありますが、高濃度摂取により肝障害や免疫抑制が見られます。

5. オクラトキシンA(Ochratoxin A)
貯蔵中の穀物に発生するアスペルギルス属やペニシリウム属のカビが産生します。

 

  • 主な症状: 腎臓への毒性が強く、多飲多尿、腎機能不全を引き起こします。豚や家禽で特に問題となります。

これらの毒素は単独で出現することは稀で、汚染された飼料には複数のカビ毒が含まれている「複合汚染」が一般的です。複合汚染では、個々の毒素濃度が基準値以下であっても、相加・相乗作用によって重篤な症状が現れることがあるため、現場での診断を難しくしています。

 

マイコトキシン症状と飼料摂取低下

「飼料の食いつきが悪い」という現象は、マイコトキシン汚染の初期サインとして最も一般的であり、かつ見逃されやすい症状です。家畜は本能的に毒素を含んだエサを避ける傾向がありますが、配合飼料やTMR(完全混合飼料)に混ざっている場合、完全に避けることは不可能です。結果として、全体の摂取量が落ち込みます。

 

飼料摂取量の低下は、単なる「食欲不振」以上の意味を持ちます。これは、栄養バランスの崩壊とエネルギー不足の連鎖の始まりです。

 

  • 味覚・嗅覚の変化: カビ毒による直接的な不快感や、飼料の変質(カビ臭)により、家畜の嗜好性が低下します。特にデオキシニバレノール(DON)は、脳の食欲中枢に作用して摂食行動を抑制することが知られています。
  • 消化管ホルモンへの影響: マイコトキシンは消化管の細胞を刺激し、満腹感を伝えるホルモン(コレシストキニンなど)の分泌を異常に促進させ、空腹を感じにくくさせる可能性があります。
  • 口腔・食道の炎症: T-2トキシンなどの一部の強力なカビ毒は、接触した粘膜に直接炎症や壊死を引き起こします。口の中や喉が痛ければ、当然エサを食べたがりません。口腔内のびらんや潰瘍が見られた場合は要注意です。

家畜衛生の専門機関による研究データも参考になります。

 

農研機構:自給飼料のカビ毒汚染と対策
飼料摂取量が低下すると、以下のような負の連鎖が起こります。

 

  1. エネルギー不足(NEB): 泌乳最盛期の乳牛などでは、必要なエネルギーを賄えず、体脂肪を動員します。
  2. ケトーシスの発症: 急激な脂肪動員によりケトン体が増加し、代謝病であるケトーシスを引き起こします。
  3. さらなる食欲減退: ケトーシス自体が食欲を減退させるため、悪循環に陥ります。
  4. 乳量・増体量の減少: 直接的な生産性の損失が発生します。

現場の農家として注意すべきは、サイロやバンカーの「隅」や「表面」です。空気(酸素)に触れやすい場所や、結露で水分が高くなりやすい場所はカビの温床です。「少しカビている部分を取り除けば大丈夫」と考えがちですが、目に見えるカビ(菌糸)は氷山の一角であり、毒素(マイコトキシン)はすでに周囲のきれいな部分にも浸透している可能性が高いです。変敗したサイレージを給与しないことは、飼料摂取低下を防ぐための鉄則です。

 

マイコトキシン症状と免疫抑制の影響

マイコトキシンの恐ろしさは、直接的な中毒症状だけでなく、「免疫抑制」という形で静かに家畜を弱らせる点にあります。これは「サイレントキラー」とも呼ばれる所以であり、農場全体の病気発生率を底上げしてしまいます。

 

免疫抑制とは、細菌やウイルスなどの外敵から体を守る防御システムが機能しなくなる状態です。マイコトキシンが免疫系に与える影響は、以下のメカニズムで説明されます。

 

  • 白血球機能の低下: 免疫の主役である白血球(好中球やマクロファージなど)の貪食能力(菌を食べる力)や殺菌能力を低下させます。アフラトキシンやフモニシンは特にこの作用が強いとされています。
  • 抗体産生の阻害: ワクチンを接種しても、体内で十分な抗体が作られなくなります。これは「ワクチンブレイク」の原因となり、きちんと予防接種をしているのに感染症が流行するという事態を招きます。
  • サイトカインの撹乱: 免疫細胞間の情報を伝達する物質(サイトカイン)のバランスを崩し、炎症反応を過剰にしたり、逆に抑えすぎたりします。

具体的な現場での影響:

  • 乳房炎の治りが悪い: 通常なら抗生物質で治るはずの乳房炎が慢性化したり、再発を繰り返したりします。環境中の常在菌(大腸菌など)による重篤な乳房炎が増える傾向があります。
  • 呼吸器病の多発: 子牛や育成牛において、肺炎などの呼吸器疾患が蔓延しやすくなります。
  • 体細胞数の増加: バルク乳の体細胞数が高止まりし、乳質の低下を招きます。これは出荷ペナルティに直結する問題です。
  • 日和見感染の増加: 健康な状態なら感染しないような弱い病原体にも感染しやすくなります。

「最近、風邪を引きやすい牛が多い」「治療反応が悪い」と感じた場合、個々の病気の治療だけでなく、飼料中のマイコトキシン対策を見直す必要があります。免疫賦活剤の投与などもありますが、根本原因である毒素の摂取を絶たなければ、効果は限定的です。

 

マイコトキシン症状の意外なサイン

一般的な症状(下痢、食欲不振、繁殖障害)は広く知られていますが、実はあまり知られていない「意外なサイン」がマイコトキシン汚染を示唆していることがあります。検索上位の記事にはあまり出てこない、現場レベルでの観察ポイントを紹介します。これらは早期発見の手がかりとなります。

 

1. 被毛と皮膚の状態変化
栄養状態が悪化する前段階として、毛ヅヤに変化が現れることがあります。

 

  • 逆毛(ラフコート): 毛がパサつき、逆立っている状態。微量なマイコトキシンによる慢性的な肝機能の負担や、ビタミン・ミネラルの吸収阻害が原因となることがあります。
  • 皮膚の紅潮・壊死: 豚において顕著ですが、尾や耳の先端が壊死したり、皮膚が赤くなることがあります。これは麦角アルカロイド(エルゴット)による末梢血管の収縮作用などが関係しています。

2. 便の状態の微妙な変化
明らかな下痢だけでなく、便性状の微妙な変化も見逃せません。

 

  • 未消化穀物の増加: 消化酵素の活性阻害や腸管絨毛の萎縮により、飼料中のコーンや大麦が未消化のまま排泄される量が増えます。
  • 粘液の混入: 腸管粘膜の脱落や炎症により、便に粘液が混じることがあります。

3. 行動の変化
神経系に作用する毒素の影響です。

 

  • 過敏反応: わずかな音や光に過敏に反応したり、興奮しやすくなったりします。
  • ふらつき・起立困難: 特に高濃度の汚染がある場合、神経伝達に異常をきたし、歩行が不安定になることがあります。

4. 初乳の質の低下
母牛がマイコトキシンを摂取していると、初乳の免疫グロブリン(IgG)濃度が低下するという報告があります。これにより、生まれたばかりの子牛の受動免疫獲得が不十分になり、子牛の下痢や肺炎が増加するという、次世代への影響が出ます。「今年は子牛が弱い」と感じたら、親牛の飼料(特に乾乳期の飼料)を疑う視点は独自ですが非常に重要です。

 

5. ルーメン発酵の異常
カビ毒そのものには抗菌作用を持つものがあり(ペニシリンも元はカビから発見されています)、ルーメン内の有用なバクテリアやプロトゾアを死滅させてしまうことがあります。

 

  • ルーメンアシドーシスの助長: 繊維分解菌が減少し、ルーメン環境が悪化しやすくなります。

これらのサインは、一つ一つは別の原因でも起こりうるものですが、複数のサインが群全体で散見される場合は、マイコトキシンが「隠れた主犯」である可能性が高いと言えます。

 

マイコトキシン症状対策と吸着剤

マイコトキシン対策の基本は「カビさせないこと(飼料管理)」ですが、購入飼料や天候不順による自家産飼料の汚染など、完全にゼロにすることは困難です。そこで「体内に入っても吸収させない」というアプローチ、すなわち吸着剤の利用が現実的かつ効果的な対策となります。

 

吸着剤のメカニズム
吸着剤(トキシンバインダー)は、消化管内でマイコトキシンと結合し、毒素が腸管から吸収されるのを防ぎます。結合した毒素はそのまま便として体外に排出されます。スポンジが水を吸うように、あるいは磁石が鉄を引き寄せるように毒素を捕まえます。

 

主な吸着剤の種類と特徴

種類 主な成分 特徴 対象毒素
無機系 アルミノケイ酸塩、ゼオライト、ベントナイト 多孔質構造を持ち、物理的に毒素を取り込む。安価で広く流通している。 アフラトキシンに高い効果。他の毒素(DONなど)への効果は限定的な場合がある。
有機系 酵母細胞壁(グルコマンナンなど) 酵母の細胞壁成分を利用。表面積が大きく、特定の毒素と特異的に結合する。 アフラトキシンに加え、ゼアラレノンやDONなど幅広い毒素に効果が期待できる。
酵素分解系 特定の微生物や酵素 毒素を吸着するのではなく、化学構造を分解して無毒化する。 従来の吸着剤では対応しにくい毒素にも有効だが、コストが高め。

吸着剤選びのポイント
「とりあえず何か入れておけば安心」ではありません。農場で発生している症状や、飼料分析の結果に基づいて最適な製剤を選ぶ必要があります。

 

  1. 広域スペクトルを持つものを選ぶ: 現場では複合汚染がほとんどであるため、アフラトキシンだけでなく、DONやゼアラレノンなど複数の毒素に対応できる(あるいは無機と有機をミックスした)製品が推奨されます。
  2. 栄養素を吸着しないこと: 質の悪い吸着剤は、毒素だけでなく、ビタミンやミネラルなどの必要な栄養素まで吸着して排出してしまいます。信頼できるメーカーの製品を選びましょう。
  3. コスト対効果の検証: 吸着剤は安くありません。しかし、乳量低下や繁殖障害による損失額と、吸着剤の投与コストを天秤にかければ、予防的に投与する方が経済的メリットが大きいケースが多いです。

飼料管理との併用が不可欠
吸着剤はあくまで「最後の砦」です。以下の飼料管理を徹底した上で活用しましょう。

 

  • サイレージの変敗部分の廃棄: 目に見えるカビは必ず捨てる。
  • 飼槽(エサ箱)の清掃: 食べ残しが腐敗し、そこが新たなカビの発生源になります。毎日の掃除は基本です。
  • 水分管理: 飼料保管庫の雨漏り防止や、TMRの水分調整に気を配ることでカビの増殖を抑えます。

家畜の健康を守ることは、農場の利益を守ることです。「マイコトキシン症状」という見えにくいリスクに対し、正しい知識と対策を持って向き合うことが、安定した農業経営への近道となります。