マツダは現在、国産メーカーの中で最も豊富なディーゼル乗用車のラインナップを揃えています。「SKYACTIV-D」と呼ばれるクリーンディーゼル技術は、農業従事者にとっても非常に魅力的な選択肢となります。特に注目すべきは、他のメーカーが商用車やクロカン四駆にディーゼルを限定している中で、マツダは都会的なSUVやコンパクトカーにもディーゼルを設定している点です。
まず、農業用として「使える」SUVの筆頭がCX-5とCX-60です。
CX-5に搭載される2.2リッター直列4気筒ディーゼルターボは、最大トルク450Nmを発揮します。これは4リッタークラスのガソリンエンジンに匹敵する力強さです。農道には未舗装の坂道や、ぬかるんだ場所がつきものですが、この太いトルクがあればアクセルを深く踏み込むことなく、アイドリングに近い回転数でグイグイと進んでいきます。繊細なアクセルワークが求められる雪道や泥道でも、タイヤの空転を抑えながら確実に路面を捉えることができるのです。
さらに、最新モデルのCX-60には、国産乗用車としては極めて珍しい3.3リッター直列6気筒ディーゼルターボエンジンが搭載されています。このエンジンの最大トルクは550Nmにも達し、農機具を載せた小型トレーラーを牽引する場合でも、後ろに荷物があることを忘れるほどの余裕を見せます。直列6気筒ならではの振動の少なさは、長時間の運転による疲労を大幅に軽減してくれるため、遠方の畑への移動や、出荷作業で都市部へ向かう際にも大きなアドバンテージとなります。
また、マツダのディーゼル車には「アドブルー(尿素水)」が不要なモデルが多いという、維持管理上の大きなメリットがあります(後述のメンテナンスの項目で詳述)。コンパクトなMazda2やCX-3もディーゼルモデルを用意しており、あぜ道のパトロール用や、ちょっとした資材の買い出し用として、燃費の良いセカンドカーを探している農家の方にも推奨できる一覧に含まれています。
トヨタのディーゼル車ラインナップは、マツダとは対照的に「働く車」としての実用性と圧倒的な耐久性に重きを置いています。農業の現場で最も信頼されているブランドと言っても過言ではなく、過酷な環境で酷使されることを前提に設計されています。その中心にあるのが、世界中の悪路を走り抜けてきたランドクルーザーシリーズと、商用バンの王者ハイエースです。
ランドクルーザー250(旧プラドの実質的後継)やランドクルーザー300、そして再販が話題となったランドクルーザー70には、極めて信頼性の高いディーゼルエンジンが搭載されています。特に主力となる2.8リッター直列4気筒ディーゼルエンジン「1GD-FTV」は、耐久性が桁違いです。畑の中の激しい凹凸を乗り越える際のフレーム剛性は言うまでもなく、低速域から湧き上がる500Nm級のトルクは、スタックした軽トラを救助するときなど、農作業の「いざという時」に頼りになります。ランクル70などは、電子制御を極力排した構造ゆえに、泥まみれの長靴で乗り込んでも気兼ねなく使えるタフな相棒として、多くの専業農家に愛用されています。
そして、農家の納屋に必ずと言っていいほどあるのがハイエースです。
ハイエースのディーゼルモデルも、ランクルと同じ1GD系エンジン(出力特性は異なります)を搭載しています。ハイエースの真価は、その積載量とエンジンの耐久性のバランスにあります。ガソリン車の場合、最大積載量まで米袋や肥料を積むと坂道でパワー不足を感じることがありますが、ディーゼル車ならば満載状態でも涼しい顔をして坂を登ります。走行距離が20万キロ、30万キロを超えても大きなトラブルが少ないため、リセールバリュー(下取り価格)が異常に高いのも特徴です。10年落ちのボロボロのハイエースでも、ディーゼルならば驚くような高値で売れることがあり、結果としてトータルの所有コストが安く済むという経済的なメリットも、多くの農家に選ばれる理由です。
三菱自動車もまた、農業従事者にとって無視できないユニークかつ強力な国産ディーゼル車の一覧を提供しています。三菱の強みは「四駆技術」と「実用性」の融合にあり、他メーカーにはない独自ジャンルの車両を持っています。
まず筆頭に挙がるのが、ミニバンとSUVを融合させた唯一無二の存在、デリカD:5です。
家族送迎用のミニバンが必要だが、畑や雪道も走るという農家にとって、デリカD:5以外の選択肢はないと言っても過言ではありません。デリカの特筆すべき点は、「リブボーンフレーム」と呼ばれる強固な骨格構造です。一般的なミニバンはボディ剛性が低く、激しい悪路を走ると車体が歪んでスライドドアの開閉が渋くなることがありますが、デリカD:5はクロカン四駆並みの剛性を持っています。2.2リッターのクリーンディーゼルエンジンは低速トルクが厚く、フル乗車+荷物満載の状態でも急な農道を力強く登ります。汚れに強い内装や、泥のついた靴でも操作しやすいペダル配置など、現場を知り尽くした作り込みが魅力です。
また、農業に直結する車種として外せないのがピックアップトラックのトライトンです。
長らく国内市場では不在だったピックアップトラック市場に新型が投入されました。軽トラックでは積載量やパワーが足りず、かといって2トン・ダンプでは大きすぎて普段使いができないという農家にとって、トライトンは救世主となります。汚れた農機具や収穫コンテナを気兼ねなく荷台に放り込める利便性はそのままに、乗用車同等の快適なキャビンと最新の安全装備を備えています。フレーム構造(ラダーフレーム)を採用しているため、田んぼのあぜ道で腹下を擦るようなラフな使い方をしてもビクともしません。スーパーセレクト4WD-IIという高度な四輪駆動システムにより、後輪駆動(2WD)で燃費を稼ぎつつ、ぬかるみでは直結四駆にするなど、路面状況に応じた最適な駆動配分が可能です。
国産ディーゼル車は燃料代が安くトルクフルで魅力的ですが、導入前に必ず知っておくべき特有の維持費とメンテナンスの注意点があります。特に農業特有の「ちょい乗り」は、ディーゼルエンジンの寿命を縮める最大のリスク要因です。
「5分の移動」が車を壊す?DPF再生の罠
最近のディーゼル車には、排ガス中のスス(PM)を捕集する「DPF(ディーゼル・パティキュレート・フィルター)」という装置が必ず付いています。このフィルターに溜まったススを焼き払う作業を「DPF再生」と呼びます。通常は走行中に自動で行われますが、これには一定時間、エンジンが高温状態にある必要があります。
農作業では、「自宅から畑まで5分」「田んぼAから田んぼBまで3分」といった極短距離の移動を繰り返すことが多々あります。エンジンが暖まる前にエンジンを切る、このサイクルを繰り返すと、DPF再生が完了せず、フィルターが目詰まりを起こします。最悪の場合、出力制限がかかったり、高額なフィルター交換が必要になったりします。これを防ぐためには、週に一度は「意味もなく20~30分ほど連続走行する」という儀式が必要です。マツダ車の場合は、吸気マニホールドへの煤の蓄積(カーボン堆積)も持病として知られており、5万キロ~10万キロ程度で専門業者によるドライアイス洗浄などのメンテナンスが必要になるケースもあります。
アドブルー(尿素水)のコストと管理
トヨタの1GDエンジン(ランクル、ハイエース、ハイラックス)や三菱のデリカD:5(2019年以降)は、排ガス浄化のために「アドブルー(AdBlue)」という尿素水が必要です。これは燃料と同じように走行距離に応じて減っていき、空になるとエンジンがかからなくなります。
農業利用で注意したいのは、ハイエースのアドブルータンク容量の小ささです。わずか7.4リットルしか入らず、約1000km走行で1リットル消費するため、頻繁な補充が必要になります。農繁期にアドブルー切れの警告灯がつくと非常にストレスになります。
一方で、マツダのディーゼル車(SKYACTIV-D 2.2など)の多くは、特殊な燃焼技術により、このアドブルーを不要(※CX-60など一部車種を除く場合や年式による)としている点が大きな独自メリットです。「尿素水の補充や在庫管理をしたくない」というズボラな管理を望むなら、マツダ車の方が農家向きと言える側面があります。
トヨタ アフターサービス|AdBlue®(尿素水)の補充について
最後に、国産ディーゼル車一覧の中から自分に合った一台を選ぶための燃費比較と、スペック表には現れない選び方のポイントを解説します。
実燃費とカタログ燃費のギャップ
ディーゼル車のカタログ燃費(WLTCモード)は優秀ですが、農業利用では「積載量」と「地形」が燃費を大きく左右します。
トルクか、馬力か?
カタログの「馬力(ps)」を見て車を選びがちですが、農家が見るべきは「トルク(Nm)」です。
例えば、マツダCX-60のトルク550Nmは、スポーツカー顔負けの数値です。トヨタのランクル250も500Nmあります。これに対し、一般的な2000ccガソリンSUVのトルクは200Nm程度しかありません。倍以上の力があるため、アクセルを少し踏むだけで車体が前に出る感覚があり、これが疲労軽減につながります。
結論:あなたにおすすめの国産ディーゼルは?
ご自身の農作業のスタイル、特に「1回の走行距離」や「積載するものの重さ」を考慮して、最適な相棒を選んでください。ディーゼル車は初期費用(車両価格)が高くなりがちですが、長く乗れば乗るほど、そのタフさと燃料代の安さで元が取れる、農家にとって最高のツールとなるはずです。