建築ジャーナル2024年9月号「図書館の自由」は、巻頭鼎談や歴史、制度、具体的な図書館建築事例、映画・小説に描かれた図書館までを一冊に束ねたかなり厚みのある特集になっている。ここでは単に本を並べる建物としてではなく、「知のインフラ」としての図書館を、建築の形態と運営の両面から見直している点が特徴的だ。
目次を見ると、「図書館の自由と図書館建築」「公共図書館の軌跡を辿る」といった論考に続き、指定管理者制度や神奈川県立図書館、多摩美術大学図書館など具体的な建物が取り上げられている。さらに、映画『パブリック 図書館の奇跡』や小説に描かれる図書館像の検討が含まれている点からも、「建物」と「物語」の両面から図書館の自由を考えようとする編集方針がうかがえる。
参考)2024年9月号 >>図書館の自由/No.1358|建築ジャ…
図書館研究の側からは、公共図書館が地域コミュニティ形成や生涯学習の場として重要であることが繰り返し示されており、農業や農村の情報を扱う「知の拠点」としてのポテンシャルも無視できない。たとえば、地域農業の歴史資料や農地台帳、土地利用計画の図面をアーカイブし、ワークショップや講演会を通じて共有する場としての図書館は、生産者と市民の間をつなぐ「情報の中間支援組織」に近い役割を果たしうる。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/toshokankai/75/6/75_320/_pdf/-char/en
近年は、まちづくりや地域コミュニティの拠点形成を意図した図書館整備の動きも強く、国レベルの調査でも「地域の拠点形成を意図した図書館の施設と機能」がテーマとして取り上げられている。この文脈に、都市農業やコミュニティガーデンに関する情報発信や実践と結びつけていくことで、「知」と「土」の両方を耕す拠点としての図書館像が、農業サイドにも具体的な形で見えてくる。
参考)No.18 地域の拠点形成を意図した図書館の施設と機能
図書館建築と農業を組み合わせた実践例はまだ多くないが、都市型農園の研究では公共用地や空き地を活用したコミュニティガーデンが、地域の交流と環境教育の拠点になっていると報告されている。建築ジャーナルの図書館特集で示される「開かれた建築」と、コミュニティ農園の実践を重ね合わせれば、図書館の屋上や隣接地を「知の庭」として耕すような計画も、十分現実味を帯びてくる。
参考)農が都市にある風景があたりまえの社会へ——都市型農園の研究者…
図書館建築とコミュニティ機能に関する詳しい調査報告はこちら。
国立国会図書館レファレンス「地域の拠点形成を意図した図書館の施設と機能」
2023年9月号「津波被災地12年後の検証」は、津波被災地のまちや集落の「その後」に焦点をあて、座談会と事例報告で復興事業の成果と課題を検証している。大船渡市泊地区や釜石市唐丹町、大槌町赤浜など具体的な地域名を挙げながら、事後アンケート調査や現地での聞き取りをもとに、復興計画でつくられた空間がどのように使われているかを追跡している点が特徴だ。
特集の中盤では、「復興事業でつくられた空間を、愛し、使いこなし、震災の記憶をつなぐ」という視点から、住民が新しいまちをどのように自分たちの場所として引き受けているかが語られている。ここで問われているのは、ハードとしての建築や土木施設の整備だけでなく、それを支える生活や生業、記憶の継承を含めた「地域のレジリエンス」そのものだ。
参考)2023年9月号 >>津波被災地12年後の検証/No.134…
農業や漁業を基盤とする地域においては、復興計画の中で農地や漁港がどう位置付けられたかが、その後の営農・操業の継続性に大きく影響する。都市農地や農村の防災機能に関する研究では、農地が避難場所や仮設住宅用地、物資供給拠点として活用できることが指摘されており、被災地の復興計画においても農地を単なる「余白」ではなく、多機能な防災空間として評価し直す必要があるとされる。
参考)防災機能
| 復興計画の視点 | 農地・農業が果たしうる役割 |
|---|---|
| 防災・減災 | 避難場所、仮設住宅用地、資材置き場、火災延焼防止、洪水緩和など、防災協力農地として機能しうる。 |
| 生活再建 | 地元農産物の生産・販売による現金収入の確保、コミュニティガーデンによる自給的な食料供給。 |
| コミュニティ形成 | 共同作業や体験農園を通じた住民同士の交流、外部ボランティアとの協働による新たなつながりの創出。 |
都市農地の多面的機能を整理した研究では、防災、景観形成、環境保全、農業体験・学習などの機能が都市住民から高く評価されていることが示されている。被災地の復興を長期的に捉え直すとき、これらの機能を計画段階から織り込んだ「農地を含むまちづくり」が、ハード整備中心の復興とは異なるレジリエンスの形を提示しうる。
参考)田園住居地域指定による都市農地の活用可能性
津波被災地のまちづくりと多主体協働についての研究では、行政と住民組織、専門家が協力して除染や防災対策に取り組んだ事例が報告されており、こうした協働の枠組みは、農地・漁場・市街地を一体で考えるランドスケープレベルの復興計画にも応用できる。建築ジャーナルの特集が示す「復興を問い直す視点」を、農地計画や営農再建の議論に引き込むことで、農の現場から復興を組み立て直す余地はまだ大きく残されている。
参考)柏市の放射線対策における行政と住民組織の協働に関する研究
津波被災地特集の概要はこちらから確認できる。
建築ジャーナルのバックナンバー一覧をたどると、「農地ある都市デザインをつくれ」という9月号特集タイトルが目に留まる。短い一行ながら、「農地があること」を前提に都市デザインを発想し直そうという強いメッセージが込められており、後年の都市農業振興基本法や田園住居地域の創設といった政策動向とも響き合う内容だったと推測できる。
都市農地の位置付けは、2015年の都市農業振興基本法制定以降、「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと大きく変化し、都市計画のなかで保全・活用を図る方向に舵が切られた。新設された田園住居地域では、農地と低層住宅が一体となって良好な居住環境と営農環境を形成することが目的とされ、開発・建築規制や税制優遇を通じて農地を含んだ市街地像を描こうとしている。
参考)https://www.sanoukai.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/%E2%91%A2%E8%BE%B2%E5%B1%B1%E6%BC%81%E6%9D%91%E6%8C%AF%E8%88%88%E4%BA%A4%E4%BB%98%E9%87%91%EF%BC%88%E9%83%BD%E5%B8%82%E8%BE%B2%E6%A5%AD%E5%85%B1%E7%94%9F%E6%8E%A8%E9%80%B2%E7%AD%89%E5%9C%B0%E5%9F%9F%E6%94%AF%E6%8F%B4%E4%BA%8B%E6%A5%AD%EF%BC%89%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88.pdf
こうした制度や政策は、まさに「農地ある都市デザイン」を具体化するためのツールと言える。都市農地の多面的機能に関する研究では、農作物供給だけでなく、防災、景観形成、環境保全、教育・体験、農業理解の醸成といった多様な価値が定量・定性的に示されており、農地を削って道路や宅地を広げる旧来型の都市像とは異なる未来像が浮かび上がる。
参考)https://www.mlit.go.jp/common/001237725.pdf
とくにコミュニティガーデンの研究では、公園内の未利用地や公共施設の余白を農園として活用し、環境教育や地域イベントの場として機能している事例が報告されている。建築ジャーナルの特集タイトルが先取りした「農地ある都市デザイン」は、こうした動きを背景に、農地を点ではなく面としてまちの構造に組み込むデザイン指針として読み直すことができる。
参考)https://lfc-compost.jp/archives/7124
都市農業の多面的機能をわかりやすく整理した資料はこちら。
バックナンバー一覧には、「スマートハウスがもたらす大きな代償」や「エコ住宅で大丈夫?」といった挑発的な9月号特集タイトルも並ぶ。ここには、省エネや高性能設備を売りにする住宅・建材業界の潮流に対し、「本当に持続可能なのか」「暮らしや地域にどんな影響を与えるのか」という疑問符を投げかける建築ジャーナルらしい批評性がにじんでいる。
エネルギー効率やスマート技術の導入自体は、農業分野でもビニールハウスの環境制御やスマート農機などで進んでいるが、建築ジャーナルが問題にしてきたのは、そうした技術導入が「コスト」「メンテナンス」「リスクの局在」といった形で弱い立場の人々に跳ね返っていないかという点だと読み取れる。農村部の高齢者世帯や小規模農家にとって、高度なスマートハウスが本当に適合するのかという問いは、スマート農業の導入議論とも重なってくる。
参考)建築ジャーナル一覧|建築ジャーナル
一方で、都市農業や都市防災の研究では、農地や緑地そのものがパッシブな防災・環境インフラとして機能しうることが示されている。たとえば、都市農地は火災時の延焼防止や豪雨時の洪水緩和、避難場所や仮設住宅用地としての役割を期待されており、高価な設備を入れなくても「土地そのものの性能」でレジリエンスを高められることがわかってきている。
参考)防災農地の取組み/大阪府(おおさかふ)ホームページ [Osa…
住宅と農地を一体で考える視点からすると、スマートハウス単体ではなく、「農地と連携した住まい方」をどう設計するかが重要になる。たとえば、平時は家庭菜園・コミュニティガーデンとして機能し、災害時には防災協力農地として避難と食料供給の拠点となる空間を、住宅地の中に計画的に組み込むようなモデルである。
参考)京都市:2(2)2 農林業の有する防災機能を生かしたまちづく…
| スマートハウス偏重の課題 | 農地と連携した住まい方の可能性 |
|---|---|
| 高コスト・高メンテナンス、技術更新への追随負担、停電時の脆弱性などが指摘される。 | 平時の環境・景観向上に加え、災害時の避難・食料供給・仮設住宅用地としての機能を土地自体が提供できる。 |
| 設備メーカーやエネルギー企業への依存度が高まり、地域内循環が弱まる懸念がある。 | 地元農家や市民、行政が連携して運営することで、地域経済・コミュニティの再構築にもつながる。 |
建築ジャーナルのエコ住宅・スマートハウス特集は、こうした議論を先回りする形で「設備偏重のサステナビリティ」への疑問を提示していたと考えられる。農業分野の読者にとっても、ハウスの高度化やICT投資一辺倒ではなく、土地利用とコミュニティデザインを含めた「ローテク+ミドルテク」の組み合わせを検討する視点を与えてくれる特集だと言える。
ここからは、検索上位にはほとんど出てこないが、建築ジャーナルの9月号特集群を農業者の視点から読み替えたときに見えてくる「図書館×農地」という組み合わせを考えてみたい。図書館の役割に関する研究では、地域情報の提供や交流・学び合いの場としての機能が強調されており、コミュニティガーデンの研究では、都市型農園が環境教育や地域イベントの拠点になっていることが指摘されている。
この二つを掛け合わせると、図書館を核にした「コミュニティ農業拠点」という発想が見えてくる。たとえば、図書館の屋外スペースや隣接する公共用地をコミュニティガーデンとして整備し、館内では農業・食・環境に関する図書や資料を充実させることで、「学ぶ」と「育てる」が地続きになった場所をつくることができる。
都市農業の研究では、ウォーカブルな近隣での小規模な農地利用が、パンデミック時のフードシステムのレジリエンスや住民のウェルビーイング向上に寄与した事例も報告されている。こうした知見と、建築ジャーナルが積み重ねてきた図書館・農地・防災・コミュニティに関する特集を組み合わせると、「図書館を核にした農的まちづくり」は、決して奇抜なアイデアではなく、既存の資源を束ね直す現実的な選択肢として浮かび上がる。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9890428/
大阪府では、防災農地推進連絡会を設置し、農地等の防災機能に着目した保全・活用を進めているが、同じ自治体内で図書館網も再編・強化されつつある。農業者・図書館・行政が早い段階から協議の場を持ち、「農地ある都市デザイン」と「図書館の自由」を同じテーブルで議論できれば、建築ジャーナルの9月号がそれぞれ単発で扱ってきたテーマが、一つの具体的なローカルプロジェクトとして結実していくだろう。
参考)都市農地の防災機能活用の取組みと今後の課題
図書館のコミュニティ機能について詳しく知りたい場合はこちら。
「まちづくりや地域コミュニティの中心としての図書館」土木学会誌特集