イタリアの農業について特徴と現状や課題の海外事情

イタリアの農業について、有機栽培の普及率やDOP制度、労働問題や社会的農業まで徹底解説。日本の農業にも活かせるヒントとは?

イタリアの農業 について

イタリアの農業について
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有機農業大国

農地面積の約19%が有機栽培。EU内でもトップクラスの普及率を誇る。

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ブランド戦略

DOP/IGP制度により、小規模農家でも高付加価値な農産物を販売可能。

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社会的農業

法整備が進み、福祉と農業が連携した「ソーシャル・ファーミング」が定着。

イタリアの農業について特徴的な有機栽培とスローフード


イタリアの農業について語る上で、最も際立った特徴の一つが「有機農業(Biologico)」の圧倒的な普及率です。イタリアは欧州連合(EU)の中でも屈指の「オーガニック大国」として知られています。最新の統計データによると、イタリアの全農地面積に占める有機栽培農地の割合は約19%に達しており、これはEU平均を大きく上回る数字です。政府はさらに野心的な目標を掲げており、2030年までにこの数値を25%まで引き上げる計画「Farm to Fork戦略」を強力に推進しています。


なぜこれほどまでに有機農業が根付いたのか、その背景には「スローフード運動」の発祥地としての歴史的文脈があります。1980年代、ファストフードの台頭に対抗してピエモンテ州で始まったこの運動は、「おいしい、きれい、正しい(Buono, Pulito, Giusto)」をスローガンに、地域の伝統食や生物多様性を守ることを提唱しました。この思想が農業生産者だけでなく消費者の意識にも深く浸透しており、国内市場においても「BIO(ビオ)」と表示された製品は、多少価格が高くても安全で高品質なものとして積極的に選ばれる土壌があります。


また、イタリアの有機農業は単に化学肥料や農薬を使わないという技術的な側面だけでなく、アグリツーリズム(Agriturismo)との親和性が非常に高い点も特徴です。有機農場に宿泊し、そこで採れた作物を食べる観光形態は、農家にとって重要な収入源となっています。トスカーナ州やウンブリア州では、こうした「体験型農業」が地域経済を支える柱となっており、日本のグリーンツーリズムのお手本ともなっています。


EUへの農林水産物・食品の輸出に関するカントリーレポート|JETRO(2023年の有機食品市場規模や農地面積に関する詳細な統計データが掲載されています)

イタリアの農業について主要作物であるオリーブとワインの生産

地中海性気候の恵みを受けるイタリアの農業について、その代名詞とも言えるのがオリーブとワイン(ブドウ)の生産です。これらは単なる農産物以上の存在であり、イタリアの食文化そのものを形成する核心的要素です。


オリーブ栽培に関しては、イタリアはスペインに次ぐ世界第2位のオリーブオイル生産国です。しかし、近年深刻な問題となっているのが「ピアス病(Xylella fastidiosa)」という植物の病気です。特に南部のプーリア州では、樹齢数百年を超える古木を含む数百万本のオリーブの木が枯死するという壊滅的な被害を受けました。これに対し、抵抗性品種への植え替えや、ドローンを用いた早期発見システムの導入など、官民一体となった対策が進められています。伝統的な景観を守りながら、いかに病害に強い近代的な栽培体系へ移行するかが、現在の大きな焦点となっています。


一方、ワイン生産においては、イタリアは生産量で世界トップクラスを維持しています。特筆すべきは、その品種の多様性です。フランスがカベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネといった国際品種を主体とするのに対し、イタリアには「サンジョヴェーゼ」や「ネッビオーロ」など、数千種類とも言われる土着品種(Autoctono)が存在します。この多様性が、気候変動リスクの分散にも役立っています。近年では、ブドウ畑に設置したセンサーで土壌水分量や日射量を管理し、必要な場所にピンポイントで灌漑を行う「精密農業(Smart Viticulture)」の導入が進んでおり、水資源の節約と品質の安定化を両立させています。また、ソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)においても、ブドウの果実への直射日光をコントロールするために追尾式のパネルを導入するなど、先進的な取り組みが見られます。


Food for Thoughts: The District Approach to Rural Areas Development|MDPI(カンパニア州の食料生産地区における地域開発と戦略に関する学術論文です)

イタリアの農業について小規模経営を守る地理的表示保護制度の戦略

イタリアの農業について分析すると、農家の平均経営面積は比較的小さいことがわかります。大規模化が進むアメリカやオーストラリアとは異なり、イタリアの農業は多くの中小規模農家によって支えられています。こうした小規模農家がグローバル市場で生き残るための最強の武器となっているのが、EUの地理的表示保護制度である「DOP(保護原産地呼称)」と「IGP(保護地理的表示)」です。


  • DOP (Denominazione di Origine Protetta): 生産、加工、調整のすべての工程が、指定された地域内で行われる必要があります。非常に厳しい基準があり、伝統的な製法が義務付けられます。例:パルミジャーノ・レッジャーノ、サン・ダニエーレの生ハムなど。
  • IGP (Indicazione Geografica Protetta): 生産工程の少なくとも一つが、指定された地域内で行われている必要があります。DOPよりは柔軟ですが、地域の評判と品質が結びついていることが条件です。例:トスカーナのオリーブオイル(IGP)など。

この制度の優れた点は、単なるブランド認証にとどまらず、「コンソルツィオ(生産者組合)」による強力な管理体制があることです。組合は品質の監視だけでなく、模倣品の摘発やマーケティングを一元的に行います。個々の農家はマーケティングに過度なリソースを割くことなく、高品質なものづくりに専念できます。


また、これらの認証は「地域(テリトーリオ)」と不可分であるため、生産拠点を人件費の安い海外に移転することができません。これにより、農村地域に雇用と経済利益が確実に還元される仕組みになっています。日本の「地理的表示(GI)保護制度」もこれをモデルにしていますが、イタリアの事例は、制度が単なるラベル貼りではなく、地域経済を守るための「知的財産戦略」として機能していることを示しています。


【解説】イタリア食材のマーク「IGP」と「DOP」とは?|ベリッシモ(DOPとIGPの違いや、EUにおける認定基準について分かりやすく解説されています)

イタリアの農業について抱える労働力不足と気候変動の課題

華やかに見えるイタリアの農業について、その裏側には深刻な「労働力不足」と「気候変動」という二つの大きな闇が存在します。これらは現在のイタリア農業が直面する最大の危機と言っても過言ではありません。


まず労働問題ですが、イタリアの農業現場、特に収穫時期のトマトや果樹栽培は、アフリカや東欧からの季節労働者(移民)に大きく依存しています。ここで問題となっているのが「カポララート(Caporalato)」と呼ばれる違法な労働斡旋システムです。「カポラーレ」と呼ばれる手配師が、不法滞在者を含む移民たちを極めて低賃金かつ劣悪な環境で働かせ、中間搾取を行う構造が長年続いてきました。政府は2016年に罰則を強化する新法を制定しましたが、完全な撲滅には至っていません。人権意識の高まりとともに、スーパーマーケットなどの流通側も「倫理的なサプライチェーン」を求めるようになり、適正な労働環境の証明が農産物の取引条件になりつつあります。


次に気候変動の影響です。特に2022年から2023年にかけて、イタリア北部のポー川流域を襲った記録的な干ばつは、同国の農業に衝撃を与えました。この地域はイタリアの食料庫とも呼ばれ、リゾット用の米や家畜飼料用のトウモロコシの主要産地ですが、水不足により収穫量が激減しました。海水が河口から遡上する塩害も発生しており、これまでの「水は豊富にある」という前提が崩れ去っています。これに対し、従来の冠水灌漑から、より水利用効率の高い点滴灌漑への転換や、乾燥に強い品種の開発、さらには廃水を浄化して農業用水として再利用するインフラ整備が急ピッチで進められています。


Adaptation and sustainability of water management for rice agriculture|Wiley(イタリアの水稲栽培における水管理の持続可能性と気候変動適応に関する研究です)

イタリアの農業について社会的農業という新たな取り組み

イタリアの農業について、まだ日本ではあまり知られていないものの、非常に革新的で独自性の高い取り組みが「社会的農業(Agricoltura Sociale)」です。これは単に障害者を雇用するというレベルを超え、農業活動そのものを「リハビリテーション」「教育」「社会的包摂」の手段として位置づけ、法的に体系化したものです。


イタリアでは2015年に国レベルで法律(法律141/2015号)が制定され、社会的農業が正式に定義されました。この法律により、農業生産活動を通じて以下のようなサービスを提供することが認められ、公的な支援を受けやすくなりました。


  • 治療・リハビリテーション: 精神障害者や薬物依存症の回復期にある人々の社会復帰支援。
  • 教育・保育: 農場幼稚園(アグリニーディ)のように、子供たちへの自然教育や高齢者のデイサービス。
  • 就労支援: 刑務所出所者や難民など、労働市場で不利な立場にある人々への職業訓練。

例えば、ローマ近郊の協同組合「Agricoltura Capodarco」や「Ponteverde」などの事例では、精神的なハンディキャップを持つ人々が、苗植えや収穫、直売所での販売などの役割を担い、対価を得ながら地域社会と交流しています。これは農業が持つ「植物を育てる過程での癒やし」や「単純作業の反復による精神安定」といった機能を最大限に活用したモデルです。


この「社会的農業」のポイントは、農家が単なる食料生産者でなく、「福祉サービスの提供者」としての新たな社会的地位と収入源を獲得できる点にあります。福祉予算が削減傾向にある中で、民間の活力を利用したこのシステムは「イタリア・モデル」として欧州全体から注目されており、日本の農福連携(農業×福祉)にとっても、法整備や制度設計の面で非常に参考になる先進事例と言えるでしょう。


イタリア社会的農業の研究|J-Stage(イタリアにおける社会的農業の法整備の経緯と、具体的な実践事例に関する研究論文です)




おとな旅プレミアム イタリア ['25-'26年版](TAC出版)