臍帯血で自閉症は治らない?臨床研究と改善の可能性

臍帯血で自閉症は治らないのか?最新の臨床研究での改善例や、自家臍帯血保管の重要性、根本治療の可能性について詳しく解説します。あなたは子供の将来のために、今どのような選択をしますか?

臍帯血で自閉症は治らない?

臍帯血と自閉症治療の現在地
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臨床研究の段階

現在はまだ研究段階であり、確立された治療法ではありませんが、一部で改善が報告されています。

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期待される効果

対人コミュニケーション能力や発語において、有意な改善が見られたケースが存在します。

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保管の重要性

自身の臍帯血を使用する「自家移植」が主流のため、出産時の保管が鍵となります。

臍帯血の臨床研究で示された改善と限界

 

自閉症スペクトラム障害(ASD)に対する治療法として、臍帯血を用いたアプローチが世界中で注目を集めていますが、現時点では「魔法の治療薬」として確立されたわけではありません。多くの親御さんが期待する「完治」や「治る」という言葉と、医学的な「症状の改善」の間には、慎重に理解すべきギャップが存在します。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6216432/

現在行われている主要な臨床研究の多くは、第I相または第II相試験という初期から中期の段階にあります。これらの研究は、主に治療の安全性と有効性の兆候を確認することを目的としています。例えば、アメリカや日本で行われている試験では、自身の臍帯血(自家臍帯血)を点滴投与することで、脳内の神経炎症を抑え、神経ネットワークの修復を促す可能性が探られています。

 

参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5442708/

具体的に報告されている「改善」の内容は、劇的なものではなく、日常生活における質の向上に関連するものです。

 

  • 視線が合う回数が増えた
  • 指差しの頻度が向上した
  • パニック(癇癪)の頻度や強度が減少した
  • 単語数が増え、簡単な会話が成立するようになった

このような変化は、家族にとっては非常に大きな意味を持ちますが、医学的には「自閉症が治った」とは表現されません。また、全ての被験者に効果があるわけではなく、特定の条件下(例えば、非言語性IQが高い子供など)でより良い反応が見られる傾向があることも分かっています。
限界として理解しておくべきなのは、これが「対症療法」の延長線上にある可能性があるという点です。現在の医学では、自閉症の根本的な原因が完全に解明されていないため、臍帯血が具体的にどのメカニズムで効いているのかについては、仮説の域を出ない部分も多く残されています。特に「プラセボ効果(思い込みによる改善)」の影響を排除するための比較試験では、親の観察評価においてプラセボ群でも高い改善報告がなされることがあり、客観的な効果測定の難しさが課題となっています。

 

参考)Results from the Duke ACT Stud…

臍帯血に関するデューク大学の研究データ詳細

この分野で世界をリードしているのが、アメリカのデューク大学による研究チームです。彼らが実施した臨床試験のデータは、現在の自閉症治療研究における重要なベンチマークとなっています。特に注目すべきは、ジェラルディン・ドーソン博士らが主導した試験の結果です。

 

参考)さい帯血は自閉症スペクトラム障害(ASD)に有効?研究結果や…

デューク大学で行われた第I相試験では、2歳から6歳の自閉症児25名を対象に、自身の臍帯血を静脈内投与しました。この研究で用いられた評価指標の一つが「VABS-II(Vineland Adaptive Behavior Scales-II)」という、適応行動を測定するスコアです。

 

研究結果として、投与から6ヶ月後には以下の領域でスコアの有意な向上が確認されました。

 

評価項目 変化の内容
社会性(Socialization) 平均スコアが約2ポイント上昇し、対人関係の改善が見られた。
コミュニケーション(Communication) 平均スコアが約4.5ポイント上昇し、言語理解や発語に変化があった。
脳の接続性 MRI検査において、脳内の神経ネットワークの接続性に変化が確認された。

特に重要な発見は、「非言語性IQが70以上の子供」において、より顕著な改善が見られたという点です。これは、ある程度の認知能力が保たれている子供の方が、幹細胞治療による神経修復や抗炎症作用の恩恵を受けやすい可能性を示唆しています。一方で、知的障害を伴う重度の自閉症児においては、統計的に有意な差が出にくいという厳しい現実も突きつけられました。

 

参考)Results from the Duke ACT Stud…

また、その後の「ACT試験」と呼ばれる大規模な二重盲検比較試験(プラセボ対照試験)では、全体としての主要評価項目ではプラセボ群との間に明確な差が出なかったという結果も報告されています。しかし、解析を詳細に行うと、やはり特定のサブグループ(年齢やIQで絞った層)では有意な改善が維持されており、治療適応の見極めが今後の課題であることが浮き彫りになりました。デューク大学の研究は、「誰にでも効くわけではないが、確実に恩恵を受ける層が存在する」という現実的な希望を提示しています。

臍帯血の中でも自家臍帯血を使う安全性

自閉症治療において自家臍帯血(自分自身のへその緒の血液)を使用する最大のメリットは、その圧倒的な「安全性」にあります。他人の細胞を移植する場合、拒絶反応(GVHD:移植片対宿主病)のリスクが常に伴いますが、自分の細胞であればその心配は理論上ありません。

 

参考)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000049.000026419.html

実際の治療手順は非常にシンプルで、多くの場合は入院を必要とせず、外来での点滴投与のみで完了します。

 

  • 保管されていた臍帯血を解凍・洗浄処理する
  • 静脈から点滴でゆっくりと体内に戻す(所要時間は数十分程度)
  • 投与後の経過観察(数時間)を経て帰宅

これまでの臨床研究において、重篤な副作用はほとんど報告されていません。稀に見られる反応としては、軽度のアレルギー反応や一時的な発熱程度であり、これらは通常の輸血や点滴治療でも起こりうる範囲内のものです。この安全性の高さこそが、幼い子供を持つ親御さんがこの実験的な治療法を選択する際の大きな安心材料となっています。
しかし、「自家」であることには制約もあります。それは「出産時に保管していなければ、二度と手に入らない」という点です。自閉症の診断がつくのは通常2歳〜3歳頃ですが、臍帯血は出産直後のわずかな瞬間にしか採取できません。つまり、診断が出てから「自家臍帯血治療を受けたい」と思っても、保管していなければその選択肢は存在しないのです。これが、現在日本国内で実施されている大阪公立大学などの臨床研究においても、参加条件として「民間バンクに自身の臍帯血を保管していること」が必須となっている理由です。

 

参考)臨床研究への参加者募集(大阪公立大学医学部附属病院における自…

また、臍帯血に含まれる細胞の数(総有核細胞数)も重要です。治療効果を期待するためには、体重あたり一定数以上の細胞が必要とされます。体が大きくなってからでは、保管していた細胞数が相対的に不足し、十分な治療効果が得られない可能性もあります。そのため、治療の対象年齢が「2歳から6歳」といった低年齢層に限定されることが多いのも、この細胞数と体重のバランスが関係しています。

 

臍帯血は根本治療ではないが期待できる変化

根本治療」という言葉は、病気の原因そのものを取り除き、完全に元の状態に戻すことを意味します。その定義に照らし合わせると、現時点での臍帯血治療は自閉症の根本治療とは言えません。自閉症は脳の機能的な特性であり、生まれ持った神経回路の配線図そのものを、臍帯血が書き換えるわけではないからです。

 

参考)自閉症スペクトラム・臍帯血と臍帯血保管法について解説

では、なぜ効果が期待されているのでしょうか?現在の有力な仮説は「パラクリン効果(Paracrine Effect)」と呼ばれるメカニズムです。

 

参考)Perspectives on the use of ste…

臍帯血に含まれる幹細胞や免疫細胞が体内に入ると、それ自体が脳神経に変化するのではなく、周囲の細胞に対して「修復命令」となるシグナル伝達物質(サイトカインや成長因子)を放出します。

 

  1. 抗炎症作用:自閉症児の脳内で起きているとされる慢性的な微細炎症(ニューロインフラammation)を鎮める。
  2. 血管新生・血流改善:脳内の血流を改善し、酸素や栄養の供給を助ける。
  3. 神経保護作用:既存の神経細胞を守り、ネットワークの活性化を促す。

この働きにより、脳の「環境」が整えられ、結果として子供が本来持っていた発達のポテンシャルが引き出されると考えられています。

 

実際に治療を受けた家族からは、「霧が晴れたように表情が明るくなった」「言葉の理解力が上がり、指示が通るようになった」という声が聞かれます。これは、脳の炎症という「ノイズ」が減ったことで、外界からの情報を正しく処理できるようになった結果と解釈できます。つまり、自閉症という特性そのものが消えるわけではありませんが、その特性によって生じていた生活上の困難さ(パニックやコミュニケーション不全)が緩和され、子供自身が生きやすくなるという点で、非常に大きな意義があるのです。「治る」のではなく、「成長の壁を取り除く」というイメージが、この治療の本質に近いかもしれません。

 

臍帯血の保管コストと将来への投資価値

最後に、独自視点として保管にかかるコストと、その「投資」としての価値について考えます。臍帯血保管は、決して安い買い物ではありません。民間バンクでの保管費用は、初期費用と保管料を合わせて10年〜20年で数十万円のオーダーになります。最近では月額制のプラン(月々3,000円程度〜)も登場していますが、総額で見れば大きな出費であることに変わりはありません。

 

参考)臍帯血保存はした方がいい?メリット・デメリットと費用を徹底解…

一般的に、白血病などの治療で自身の臍帯血を使用する確率は「0.04%(約2,000人に1人)」程度と言われており、確率論だけで言えば「割に合わない保険」と見なされることもあります。しかし、自閉症治療という新たな可能性が浮上したことで、この費用の持つ意味合いが変わってきています。

もしお子さんが自閉症と診断された場合、現在利用可能な標準的な療育(ABA療法など)に加え、再生医療という「切り札」を一枚持っていることになります。アメリカなど海外へ渡航して治療を受ける場合、数百万〜一千万円規模の費用がかかることも珍しくありませんが、国内で保管してあれば、国内の臨床研究の枠組みに乗れる可能性や、将来的に承認された治療法として比較的安価にアクセスできる可能性が残ります。

 

選択肢 費用感 メリット デメリット
国内民間バンク保管 総額20〜30万円 国内臨床研究への参加資格が得られる可能性がある。自家移植なので安全。 必ず治療に使える保証はない。診断がつかなければ「掛け捨て」になる。
海外渡航治療 数百万円〜 保管していなくても、他人の臍帯血(他家)で治療できる施設がある。 非常に高額。医療制度の違いや渡航負担、安全性の確認が個人責任になる。

「保管」という行為は、単なる細胞の保存ではなく、「未来の治療選択肢を買う」という行為です。自閉症のリスクは事前に予測することが難しいため、出産時というたった一度のチャンスに、この「可能性」に対して数十万円を投じるかどうか。これは医学的な判断というよりは、各家庭の価値観やリスク管理の考え方に委ねられる決断と言えるでしょう。しかし、診断後に「あの時保管しておけば」と後悔する親御さんが後を絶たないのもまた、紛れもない事実なのです。

 

参考リンク。
大阪公立大学:自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血臨床研究の開始について
参考)「自閉症スペクトラム障害に対する自家臍帯血有核細胞を用いた治…

ステムセル研究所:さい帯血は自閉症スペクトラム障害に有効?研究結果の解説
Parent's Guide to Cord Blood:デューク大学の臨床試験結果の要約と解説
参考)神経発達障害に対する臍帯血療法に関するデューク大学の研究およ…

 

 


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