グルコシノレート毒性とアブラナ科飼料

グルコシノレートの毒性は「植物の防御成分」ゆえに一律ではなく、分解物・摂取量・家畜種でリスクが変わります。アブラナ科作物と飼料利用の現場で、どこを見て何を避ければよいのでしょうか?

グルコシノレート毒性

この記事でわかること
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毒性の正体は「分解物」

グルコシノレート自体より、ミロシナーゼで生じる分解物(イソチオシアネート等)が影響を左右します。

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家畜で問題になりやすい場面

菜種粕など飼料由来で、甲状腺・繁殖・生産性に影響が出うるポイントを整理します。

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栽培・加工で下げられるリスク

「低グルコシノレート化」「加工」「給与設計」で現場対応できる領域を深掘りします。

グルコシノレート毒性のミロシナーゼ分解物

グルコシノレートはアブラナ科(菜種や蕪など)に含まれ、組織が損傷(咀嚼・破砕など)を受けると分解が進み、多様な分解物が生成します。具体的には、イソチアネート(イソチオシアネート)、オキサゾリジンチオン、チオシアン酸、ニトリル類、エピチオニトリル類、インドール-3-イルメチル誘導体などが挙げられます。
農業現場の感覚では「辛味=危ない成分」と短絡されがちですが、重要なのは“どの分解物へ寄るか”です。分解が「イソチオシアネート側」に寄る条件では刺激性・反応性が強い化合物が増えやすく、逆に「ニトリル側」に寄れば毒性が弱い方向へ振れる場合があります(植物—昆虫の相互作用研究でも、イソチオシアネート生成が阻害されニトリルへ変換される例が示されています)。
つまり、同じ作物・同じ「総グルコシノレート量」でも、破砕の仕方、発酵や加熱、微生物、pHなどで“実際の毒性プロファイル”が変わり得ます。ここを押さえると「毒性がある/ない」ではなく「どんな条件で、どの家畜に、どの影響が出るか」という実務的な見方に切り替えられます。

グルコシノレート毒性と甲状腺ホルモン阻害

グルコシノレート由来物質は、ヨウ素摂取や甲状腺ホルモン合成を阻害し、甲状腺機能低下や甲状腺肥大(いわゆる甲状腺腫)につながり得ることが指摘されています。
この影響は「人の野菜摂取」よりも、飼料として同じ原料が継続的に入る畜産の方が論点になりやすいのが実態です。理由は単純で、給与設計によって“毎日・一定量以上”の摂取が成立しやすく、しかも若齢個体や繁殖期など、ホルモンバランスの影響が生産性に直結する局面があるためです。
現場では甲状腺だけでなく、増体や乳量・採卵の伸びが鈍い、繁殖が揺らぐ、といった「結果」から疑われることが多いので、原因を“飼料由来のグルコシノレート分解物”まで遡れるように、原料(菜種粕等)と給与量のログを残しておくのが予防策として効きます。

グルコシノレート毒性と飼料中mmol/kg目安

飼料中グルコシノレートについては、食料用動物での毒性データが限られるとしつつも、菜種飼料や圧縮ケーク状総合飼料を用いた知見から、単胃動物では飼料中グルコシノレート含有量を1~1.5 mmol/kg飼料に制限し、若い動物ではさらに低くすることが望ましい、という結論が示されています。
ここで重要なのは「安全な原料かどうか」より、「配合後の飼料として何 mmol/kg になっているか」という設計発想です。農家側でできる実務としては、菜種粕など“リスクの軸になる原料”を固定せずロット差を把握すること、導入時に給与割合を急に上げないこと、若齢期は特に保守的に組むことが挙げられます。
また、高濃度の悪影響が分かって以降、低グルコシノレートの品種を飼料に使う流れが普及してきた点も押さえるべき背景です。つまり、品種・原料の選択と、給与設計の両輪でリスクを下げるのが基本線になります。

グルコシノレート毒性と搾乳採卵パフォーマンス

グルコシノレートを含む飼料を与えた家畜では、搾乳や採卵などのパフォーマンス低下、繁殖活動の弱まり、肝機能・腎機能低下が起こり得ることがまとめられています。
さらに、移行に関しては、グルコシノレートや分解物が可食部位・乳・卵に移行する報告はあるものの、移行割合は極めて低いとされ、摂取したグルコシノレートの約0.1%が牛乳に残留する一方、筋肉や器官への残留はそれより低いとされています。
ここが誤解されやすい点で、「人に移るから危険」というより、まず一次的に“家畜側の生産性・健康”が問題化しやすいリスクです。したがって畜産経営では、家畜の成績指標(乳量・採卵率・増体・繁殖)と、菜種粕などの給与条件を同じ表で見える化すると、早期に変化へ気づきやすくなります。

グルコシノレート毒性の独自視点:害虫適応から逆算する栽培防除

少し意外ですが、グルコシノレートは「作物の防御」でもあり、食害を受けるとミロシナーゼで毒性のあるイソチオシアネートへ変換されるという“化学防御のスイッチ”を持ちます。
ところが、シロチョウ類は解毒タンパク質(NSPやMA)を使い分け、イソチオシアネート生成を阻害して“ほぼ無毒なニトリル”へ変換することで、アブラナ科に適応することが示されています。
この知見を現場に翻訳すると、「アブラナ科=辛いから虫が来ない」と決め打ちするのは危険で、むしろ“アブラナ科に強い害虫”は化学防御を迂回する可能性がある、ということです。
さらに、食害・破砕が分解物生成のきっかけになる以上、飼料利用の観点では「収穫後の破砕・発酵・乾燥」などの工程が、グルコシノレート毒性の出方を左右する“介入点”になり得ます。害虫適応の研究は一見遠い話ですが、毒性が“固定値ではなく変換の結果”であることを強く示す材料として、栽培(食害)と飼料化(加工)を同じ線で考えるヒントになります。
飼料中グルコシノレート(EFSA意見書の要点:分解物・甲状腺影響・目安量)がまとまっている(家畜の生産性や移行の話も含む)。
食品安全委員会 食品安全関係情報(EFSA:飼料中グルコシノレート)
植物防御(ミロシナーゼでイソチオシアネート生成)と、昆虫がニトリルに変換して無毒化する仕組みが読める(独自視点セクションの根拠)。
東京大学 理学系研究科 プレスリリース(シロチョウ幼虫の解毒)