グロブリンは「一種類の物質」ではなく、血清蛋白を電気泳動で分けたときの総称です。血清蛋白分画では、陽極側からアルブミン(Alb)、α1-グロブリン、α2-グロブリン、β-グロブリン、γ-グロブリン(免疫グロブリン)が基本の5分画として示されます。これは臨床で安価に病態の“手がかり”を得られる検査として位置づけられており、炎症、肝疾患、腎疾患、血液疾患など幅広い推定に使われます。
(広島市医師会だより「蛋白分画の検査と臨床的意義」PDF)
「グロブリンが低い」と言われた場合、まず現場でありがちな誤解は、γ-グロブリン(=抗体)が低いのか、それ以外のαやβが低いのかを区別せずに一括りにしてしまうことです。例えばγ分画はIgG/IgA/IgMなど免疫グロブリンが主成分で、慢性炎症や膠原病などで上がることがある一方、免疫グロブリンが作れない・失われる病態では下がります。逆にβ分画にはトランスフェリンや補体なども関わり、栄養や鉄代謝、炎症の影響も受けます。
(同PDF:分画の説明、各分画の主要蛋白)
農業従事者向けに言い換えると、「土(体)の中の“たんぱく資材”が減っている」という話ではなく、「資材の内訳のどれが不足しているか」を見ないと対策がズレます。採血結果の紙面に「蛋白分画」「γ-グロブリン」「A/G比」などがある場合は、総タンパクやアルブミンだけでなく、分画のパターンも確認してください。蛋白分画は確定診断ではなく補助的に使い、必要に応じて免疫グロブリン検査など追加精査を行うべき、とされています。
(同PDF:補助診断としての位置づけ)
A/G比はアルブミン(A)とグロブリン(G)の比で、血清蛋白のバランスを見る簡便な指標です。基準値は1.2~2.0とされ、A/G比の低下は「アルブミンの減少」「グロブリンの増加」「両方の合併」で起こります。つまり「グロブリンが低い」ケースでは、しばしばA/G比が“高め”になりやすく、ここが読み違えポイントになります。
(福岡県薬剤師会:A/G比の質疑応答)
一方で、健診票や簡易の結果では「A/G比のみ」表示されていることがあり、A/G比が高い=アルブミン過多、とは限りません。実務的には、脱水でアルブミンが相対的に高く見える場合もありますが、むしろ多いのは「グロブリンが低い(免疫グロブリン低下など)」側で比が上がるケースです。A/G比だけで結論を急がず、「アルブミン」「総蛋白」「蛋白分画(可能なら)」を揃えて読みます。
(同ページ:A/G比の定義と低下要因の整理)
農繁期の健康診断の読み方としては、①A/G比、②総タンパク、③アルブミン、④尿蛋白の順に“セット”で眺めるのが現実的です。A/G比の異常は肝臓・腎臓の異常を知る簡便な方法とされているので、一次スクリーニングとして活用しつつ、異常が出たら背景(肝障害、ネフローゼ、蛋白漏出性胃腸症、慢性炎症など)を次の検査で詰める、という流れが安全です。
(同ページ:肝障害、ネフローゼ、蛋白漏出性胃腸症など)
「作れない」よりも見落としやすいのが「失う」タイプです。代表例の一つがネフローゼ症候群で、蛋白分画では総蛋白量の低下とアルブミン分画の著しい低下が目立ち、加えてα2-グロブリン分画が著しく上昇するパターンが特徴として示されています。さらに高脂血症を反映してβ-グロブリン分画が上昇することもある、とされています。
(広島市医師会PDF:ネフローゼの分画パターン)
ここで重要なのは、「ネフローゼ=グロブリンが必ず低い」と単純化できない点です。蛋白は分子量や性質によって漏れやすさが違い、α2-マクログロブリンのように分子量が大きい蛋白は漏出しにくく、結果として分画上は“上がる”こともあります。つまり「尿に漏れているなら全部下がるはず」という直感が外れるので、分画パターンで判断する意義が出てきます。
(同PDF:α2-マクログロブリン、ネフローゼの説明)
農業現場の独自の注意点として、夏場の高温環境や長時間作業では、体液バランスの変動が採血結果の見かけに影響することがあります。脱水で濃縮気味になると、総タンパクやアルブミンが相対的に高く見える一方で、体内で本当に免疫グロブリンが不足しているのかは別問題です。「尿蛋白が陽性」「むくみが出た」「体重が急に増えた」などがある場合は、喪失(腎・腸管)系を疑う入り口として、早めに医療機関での再評価が必要になります。
(同PDF:ネフローゼの診断条件として尿蛋白量が重要)
参考:A/G比の低下に関係する代表的疾患(肝炎、肝硬変、肝がん、ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症、慢性感染症など)の整理
(福岡県薬剤師会:質疑応答)
グロブリンの中でもγ-グロブリン(免疫グロブリン)が低い状態は、感染症への弱さと結びつく可能性があり、日常の「繰り返す感染」を軽視しないことが実務上のポイントです。蛋白分画は多発性骨髄腫などの推定にも使われ、γ分画に鋭いピーク(Mピーク)が出る場合は単クローン性免疫グロブリン増加を示唆し、追加で免疫電気泳動などで同定する重要性が示されています。逆に、γ分画が全体として低い、あるいは免疫グロブリンが十分に作れない状況もあり得ます。
(広島市医師会PDF:M蛋白血症、追加検査の考え方)
農業従事者の独自視点として押さえたいのは、「感染リスクが高い環境要因が多い」ことです。例えば土壌・堆肥・家畜・用水などに触れる機会が多く、皮膚の小さな傷、粉じん、長靴内の蒸れなどが重なると、軽い感染が長引きやすい条件が揃います。もし「風邪が長引く」「副鼻腔炎や気管支炎を繰り返す」「治りが遅い」などがあり、同時にグロブリン(特にγ分画)が低いなら、生活の工夫(手袋・マスク・創傷ケア)だけで済ませず、医療機関で免疫グロブリン(IgG/IgA/IgM)測定の相談をする価値があります。
(同PDF:γ分画=免疫グロブリンの説明)
また意外な落とし穴として、「血中蛋白分画がほぼ正常に見えても、尿中に異常な蛋白ピークが出る」ケースがある点が挙げられます。資料では、血中分画が正常(γ分画が低下していることも多い)でも、ベンスジョーンズ蛋白(BJP)が多量に存在し、尿中蛋白分画のβ―γ位に尖鋭なピークが出る例がある、とされています。つまり、血液だけを見て安心せず、尿検査(尿蛋白、必要なら尿蛋白分画)まで含めて判断するのが安全です。
(広島市医師会PDF:BJPと血中・尿中蛋白分画)
参考:蛋白分画で何が分かり、どんな疾患の目安になるか(ネフローゼ、肝硬変、M蛋白血症など)
(広島市医師会だより:蛋白分画の検査と臨床的意義)