副反応と副作用の違いとは?厚生労働省の定義とワクチン

厚生労働省が定める副反応と副作用の違いを正確に理解していますか?ワクチンの免疫獲得の仕組みや、万が一の健康被害救済制度の申請方法、そして農業従事者が注意すべき作業計画と体調管理のポイントまで徹底解説します。

副反応と副作用の違いと厚生労働省

記事のポイント
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言葉の定義の違い

「副作用」は医薬品全般、「副反応」はワクチンによる免疫反応に伴う反応を指し、厚生労働省での扱いも異なります。

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救済制度の仕組み

健康被害が出た場合、医薬品とワクチンでは申請先や適用される法律(PMDA法か予防接種法か)が全く異なります。

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農業従事者の注意点

接種後の発熱と熱中症の見極めや、重機操作のリスク管理など、農作業特有の対策が必要です。

厚生労働省が定める副反応と副作用の違いと定義

 

私たちが普段何気なく使っている「副作用」という言葉ですが、医療や行政の現場、特に厚生労働省の管轄においては、「副作用」と「副反応」は明確に区別して使用されています。この違いを理解することは、自身の体調変化が薬によるものなのか、ワクチンによるものなのかを判断し、適切な対処や公的支援を受けるための第一歩となります。

 

まず、「副作用(Side Effect)」について解説します。これは、病気の治療や予防のために使用される「医薬品」全般において発生する、本来の治療目的(主作用)以外の好ましくない反応を指します。厚生労働省および医薬品医療機器総合機構(PMDA)では、風邪薬から抗がん剤まで、医薬品の使用に伴って生じた有害な反応を副作用と定義しています。重要なのは、副作用には「眠気」や「口の渇き」といった軽微なものから、アナフィラキシーショックのような重篤なものまで含まれるという点です。また、副作用は必ずしも「有害」なものだけでなく、薬理作用の延長線上で起こる必然的な反応も含まれます。

 

参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/inful_05.html

一方、「副反応(Side Reaction)」は、主にワクチン(予防接種)に対して使われる専門用語です。ワクチンは、病原体の毒性を弱めたり無毒化したりしたものを体内に投与し、免疫システムに「予行演習」をさせることで抗体を作らせるものです。この免疫を獲得する過程で、生体防御反応として発熱や接種部位の腫れなどが起こることがあります。これらは免疫が正しく働いている証拠でもありますが、目的とする「感染症予防」以外の反応であるため、これらを特に区別して「副反応」と呼びます。

 

参考)「副作用」と「副反応」 – 毎日ことばplus

厚生労働省などの公的機関がこの二つを使い分ける最大の理由は、適用される法律と健康被害救済制度の枠組みが異なるためです。以下の表に、それぞれの違いをまとめました。

 

項目 副作用 (Side Effect) 副反応 (Side Reaction)
主な対象 治療薬、検査薬などの医薬品全般 インフルエンザ、新型コロナなどのワクチン
発生メカニズム 薬の化学成分が標的以外の臓器や神経に作用する 免疫系が抗原に反応し、炎症性サイトカインなどが放出される
目的との関係 治療効果(主作用)に対する不要な作用 免疫獲得(主反応)に伴う随伴反応
根拠法 医薬品医療機器等法(薬機法) 予防接種法
管轄・報告 医薬品医療機器総合機構 (PMDA) 厚生労働省・自治体

このように、言葉の違いは単なるニュアンスの問題ではなく、その背後にある医学的なメカニズムや行政的な対応区分に直結しています。特に農業従事者のように、体が資本であり、かつ季節的な作業スケジュールに追われる職業の方にとっては、自分が受けている医療行為がどちらに該当するのかを理解しておくことは、万が一の休業補償や医療費請求の際に非常に重要になります。

 

ワクチンの副反応と薬の副作用が起こる仕組み

なぜ、薬やワクチンを使うと、目的以外の反応が出てしまうのでしょうか。ここでは、それぞれの発生メカニズムを深掘りし、体の内部で何が起きているのかを解説します。

 

薬の副作用が起こるメカニズム
医薬品は、体内の特定の「受容体(レセプター)」や酵素に働きかけることで効果を発揮します。しかし、この受容体は体中の様々な場所に存在していることが多いため、薬が患部だけでなく、意図しない場所にも作用してしまうことがあります。

 

  • 標的臓器以外への作用: 例えば、痛み止めの成分が痛みを抑える神経に作用する一方で、胃の粘膜を保護する成分の働きも阻害してしまい、胃痛を引き起こすケースです。
  • 代謝・排泄の影響: 肝臓や腎臓は薬を分解・排出する工場ですが、薬の量や体質によってはこれらの臓器に過度な負担がかかり、肝機能障害や腎障害を引き起こすことがあります。​
  • アレルギー反応: 薬の成分そのものを体が「異物」と認識し、過剰な攻撃を行うことで、発疹や呼吸困難が生じます。

ワクチンの副反応が起こるメカニズム
ワクチンの副反応は、薬理作用というよりも、人体の免疫システムそのものの働きに起因します。ワクチンを接種すると、体はそれを「侵入者」と認識し、排除しようと戦い始めます。この戦いの過程で、免疫細胞から様々な物質(サイトカインなど)が放出されます。

 

  • 炎症反応(局所): 接種した部位に免疫細胞が集まり、戦場となることで、腫れ、赤み、痛みが発生します。これは体がウイルスと戦う準備をしている物理的な証拠です。
  • 全身反応: 放出されたサイトカインが血液に乗って脳の体温調節中枢などを刺激すると、発熱や倦怠感、頭痛が発生します。これは、体が「体温を上げてウイルスが増えにくい環境を作ろう」としている生理的な防御反応の一種です。

    参考)新型コロナワクチンにおける副反応について - 神奈川県ホーム…

  • 免疫の過剰反応: まれに、免疫システムが暴走し、自分自身の神経などを攻撃してしまうことがあります(ギラン・バレー症候群など)。

このように、副作用は「薬の成分が様々な場所に届いてしまうこと」で起きやすく、副反応は「体が免疫を獲得しようと頑張りすぎること」で起きやすいという性質の違いがあります。農業の現場で例えるなら、副作用は「農薬が目的の害虫以外(益虫や作物自体)にも影響を与えてしまうこと」、副反応は「土壌改良材を入れて微生物が活発になりすぎて、発酵熱で一時的に根が驚いてしまうこと」に近いイメージかもしれません。

 

意外と知られていない厚生労働省への報告基準と期間

多くの人が誤解していますが、副反応や副作用の報告は「すべての症状」に対して行われているわけではありません。厚生労働省は、医師が国に報告すべき症状の基準(報告基準)を厳密に定めており、そこには明確な「時間制限」が設けられています。これは、接種や投薬から時間が経ちすぎている場合、因果関係の特定が科学的に困難になるためです。

 

厚生労働省の資料に基づき、医師が報告を義務付けられている主な基準を具体的に見てみましょう。これを知っておくことで、自分の症状が「医学的に想定されている範囲内」なのか、それとも「直ちに医師に相談すべき異常事態」なのかを判断する材料になります。

主な副反応報告基準と発生までの時間(インフルエンザワクチンの例)
以下の症状が、指定された期間内に現れた場合、医師は厚生労働省への報告を行います。

 

  • 24時間以内:
    • アナフィラキシー: 呼吸困難、血圧低下などを伴う激しいアレルギー反応。
  • 7日以内:
    • 脳炎・脳症: 意識障害や異常言動など。
    • 脊髄炎: 手足の麻痺など。
    • けいれん: いわゆるひきつけ。
  • 21日以内:
    • 急性散在性脳脊髄炎 (ADEM): 発熱後、数日して手足が動かしにくいなどの神経症状が出る難病。
    • ギラン・バレー症候群: 手足の先に力が入らなくなる神経疾患。
  • 28日以内:
    • 血小板減少性紫斑病: 鼻血が止まらない、あざができやすいなど。
    • 血管炎: 血管の炎症による皮膚症状など。

    ここで注目すべきは、「24時間」や「28日」といった具体的な数字です。例えば、「接種から1ヶ月以上経ってから急に熱が出た」という場合、それはワクチンの副反応である可能性は医学的には低いと判断されやすくなります(もちろん例外はあり、専門家の評価に委ねられます)。

     

    また、報告制度はあくまで「安全対策の向上(データ収集)」を目的としており、個人の救済とは別の手続きである点も重要です。「医師が報告してくれたから、自動的に補償金がもらえる」わけではありません。次項で解説する「救済制度」への申請は、被害を受けた本人(または家族)が自ら行動を起こす必要があります。

     

    厚生労働省の救済制度と報告の仕組みの違い

    万が一、重篤な健康被害が生じた場合、日本には手厚い公的な救済制度が存在します。しかし、ここでも「医薬品(副作用)」と「ワクチン(副反応)」で窓口や制度が完全に分かれているため、間違った窓口に相談しても手続きが進まないという事態になりかねません。

     

    1. 医薬品副作用被害救済制度(PMDA)

    • 対象: 病院で処方された薬、ドラッグストアで購入した市販薬などで起きた副作用。

      参考)医薬品副作用被害救済制度の給付対象

    • 運営: 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)。
    • 特徴: 入院が必要な程度の疾病や、障害が残った場合、死亡した場合に給付が行われます。
    • 注意点: 抗がん剤など一部の対象外医薬品があるほか、使用法を誤っていた場合(オーバードーズなど)は対象になりません。
    • 申請先: 直接PMDAに請求書類を送付します。

    2. 予防接種健康被害救済制度

    • 対象: 予防接種法に基づく定期接種(A類・B類)および臨時接種(新型コロナワクチンなど)。

      参考)https://www.city.fukuyama.hiroshima.jp/uploaded/attachment/272004.pdf

    • 根拠法: 予防接種法。
    • 特徴: 「厳密な医学的因果関係」までは求められず、「接種後に症状が出た否定できない事実」があれば、幅広く救済認定される傾向があります。
    • 申請先: 接種を受けたときに住民票があった市区町村の窓口。

    比較表:どちらに申請すべきか?

    制度名 医薬品副作用被害救済制度 予防接種健康被害救済制度
    原因 一般的な医薬品(飲み薬、塗り薬等) 予防接種(ワクチン)
    申請窓口 PMDA(郵送) 市区町村の予防接種担当課
    判定機関 薬事・食品衛生審議会 疾病・障害認定審査会
    給付の種類 医療費、医療手当、障害年金、遺族年金など 医療費・医療手当、障害年金、死亡一時金など
    認定のハードル 比較的厳格(適正使用が前提) 「救済の精神」に基づき比較的柔軟

    特に農業従事者の方へのアドバイスとして、これらの申請には「医師の診断書」「投薬・接種の記録(領収書やお薬手帳、接種済証)」が必須になることを強調しておきます。農繁期で忙しいからと書類を整理せずに捨ててしまうと、後から数百万円単位の給付を受け損ねるリスクがあります。必ず「いつ、どこで、何を接種・服用したか」の記録は、母子手帳や健康管理ノートに確実に残しておきましょう。

     

    【農業従事者向け】副反応と副作用の対策と作業上の注意点

    最後に、農業に従事する方々特有のリスク管理について解説します。一般的なオフィスワークとは異なり、屋外での重労働や危険な機械操作を伴う農業では、副反応や副作用が重大な事故につながる恐れがあります。

     

    1. 熱中症と副反応の発熱の見極め
    夏場のワクチン接種や服薬で最も怖いのが、熱中症との混同です。

     

    • 副反応の発熱: 接種後翌日〜2日目に出やすく、解熱剤が効きやすい。水分をとっても急には下がらないことが多い。
    • 熱中症: 作業中にめまいや頭痛から始まり、水分・塩分補給と冷却で改善が見られる場合があるが、重症化すると意識障害に至る。

      判断に迷う場合は、無理に作業を続けず、直ちに涼しい場所で休息し、体温の変化を記録してください。特に「汗が止まる」「皮膚が乾燥して熱い」場合は熱中症の危険信号であり、副反応とは対応が異なります(即時の冷却が必要)。

       

    2. 重機操作と薬の副作用
    トラクター、コンバイン、刈払機などの操作中に、薬の副作用である「眠気」「めまい」「立ちくらみ」が起きると致命的です。

     

    • 注意すべき薬剤: 風邪薬(抗ヒスタミン成分)、痛み止め(鎮静作用があるもの)、花粉症の薬、一部の降圧剤。
    • 対策: 医師や薬剤師に「農業で重機を運転する」と必ず伝えてください。眠気の出にくい薬への変更を相談するか、服薬中は機械作業を行わないスケジュール調整が必要です。

      参考)https://www.maff.go.jp/j/saigai/n_coronavirus/pdf/gl_dainihonnoukai.pdf

    3. 農作業スケジュールと接種のタイミング
    副反応によるダウンタイム(1〜2日)を計算に入れた接種計画が必須です。

     

    • NGなタイミング:
      • 収穫最盛期の前日(発熱で動けなくなると作物が廃棄になるリスク)。
      • 雨の予報の直前(急いで作業しなければならない時に体調を崩す)。
      • 一人で山間部の圃場に行く日(倒れた際に発見が遅れる)。
    • 推奨: 雨予報で作業が休みになる前日や、家族や従業員が近くにいる日を選びましょう。

    4. 農薬中毒症状との類似
    非常に稀なケースですが、有機リン系などの農薬散布直後にワクチン接種を受けた場合、軽度の農薬中毒症状(吐き気、頭痛、倦怠感)と副反応の症状が重なり、原因が特定しづらくなる可能性があります。

     

    参考)https://www.pref.kanagawa.jp/documents/84819/3020220225_4.pdf

    • 対策: 予防接種の前後3日間程度は、神経毒性のある強い農薬の散布作業は避けるのが賢明です。体への負荷を分散させることで、万が一の体調不良時も原因を特定しやすくなります。

    農業は体が資本です。「自分は体力があるから大丈夫」と過信せず、厚生労働省の情報を正しく理解し、戦略的に健康管理を行うことが、長く農業を続ける秘訣です。

     

    参考リンク。
    厚生労働省:新型インフルエンザ予防接種後副反応報告について(報告基準の詳細)
    PMDA:医薬品副作用被害救済制度の給付対象について
    農林水産省:農業関係者における新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応ガイドライン

     

     


    誰も書かなかった厚生省