フォトインヒビションと光阻害と修復と遮光

フォトインヒビションを「光損傷」と「修復阻害」に分けて整理し、現場での見分け方と対策を具体化します。遮光の考え方も含めて、明日からの栽培管理にどう落とし込みますか?

フォトインヒビションと光阻害と修復

この記事の要点(現場で迷いがちな所だけ)
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原因は「強光」だけではない

フォトインヒビションは、強光そのものの「光損傷」に加え、活性酸素が「修復(D1タンパク質再合成)」を止めることで長引くケースがある。

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見分けは「回復の速さ」で考える

一時的に落ちても夕方〜翌朝で戻るなら防御反応寄り、数日引きずるなら修復が詰まっている可能性が高い。

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遮光は「暗くする」ではなく「熱線を減らす」

近赤外線を抑えつつ光合成に必要な光を通す考え方が、高温・強光が重なる条件で効く。

フォトインヒビションの定義と光合成の低下の整理

フォトインヒビション(光阻害)は、可視光によって光合成能力が低下する現象として整理される。
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/photoinhibition.html
現場で重要なのは「葉が光を受けた=そのまま光合成が上がる」ではなく、あるラインを超えると光が“資源”から“負担”へ切り替わる点である。特に夏場のハウスや露地の西日条件では、光の量そのものに加えて、温度上昇と蒸散の限界が同時に来るため、光合成が飽和した状態で余剰エネルギーを抱えやすい。
用語が混ざりやすいので、ここでは次のように割り切ると現場判断が速い。

  • 葉が受ける光が過剰になり、光化学系II(PSII)を中心に機能が落ちる=フォトインヒビション(光阻害)
  • 葉が「自分を守るために」熱として捨てる(熱放散・NPQなど)=防御反応(=必ずしも障害ではない)
  • 壊れたPSIIを作り直す工程が回らず、低下が長引く=修復阻害(栽培上のダメージに直結しやすい)

この区別ができると、「遮光すべきか」「換気や冷却を優先すべきか」「水管理でまず詰まりを取るべきか」の順番が決めやすくなる。


フォトインヒビションの原因:PSIIとD1タンパク質と活性酸素

フォトインヒビションは、光化学系IIの“壊れ方”と“直し方”をセットで見ると理解が進む。埼玉大学の西山佳孝氏の解説では、光阻害を「光損傷」と「修復」のバランスとして捉え、強光下では損傷と修復が同時進行し、損傷が修復を上回ると見かけの活性低下として現れる、という整理が示されている。
https://www.photosyn.jp/journal/sections/kaiho67-3.pdf
ここで意外に重要なのが「活性酸素=壊す犯人」だけではなく、「修復(D1タンパク質の新規合成など)を止める側に強く効く」という見方である。上の解説では、活性酸素は光損傷そのものよりも修復過程を阻害しやすいことが示唆され、D1タンパク質再合成に関わるタンパク質合成系が標的になり得る、という話が展開されている。
https://www.photosyn.jp/journal/sections/kaiho67-3.pdf
農業の現場に翻訳すると、次のようになる。

  • 「昼に落ちる」だけなら、防御反応が強く出ている可能性がある(夕方や翌朝で戻ることが多い)
  • 「落ちたまま戻らない」なら、葉の中で“直す工程”が止まり、結果として光合成の低下が固定化している可能性がある
  • 高温・乾燥・根傷みなどが重なると、活性酸素が増えやすく、修復側が止まりやすい方向に振れる

つまり、強光対策だけでは足りない日があり、その日の“詰まり”がどこか(熱・水・CO2・根・葉齢)を見て対処する必要がある。


フォトインヒビションの回復:修復と光損傷の分かれ目

フォトインヒビションは「光を弱めれば勝手に戻る」と思われがちだが、実際は“修復の回転”が回るかどうかで回復速度が変わる。光化学系IIは損傷を受けると修復されるが、その修復はD1タンパク質の分解と新規合成・挿入などの工程を含み、これらが進むことで再活性化する。
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/photoinhibition.html
ここで現場的に効く見分け方は「回復の時間軸」を持つことだ。例えば、強い日射で午後にしおれ気味になっても、夜間の温度が下がり、水が回り、翌朝に張りが戻りやすいなら、葉は“守りながらやり過ごしている”可能性がある。一方で、翌朝も葉色が冴えず、先端から焼けや黄化が進み、数日間生育が停滞するなら、修復が追いつかず慢性的な光阻害(長引く低下)に移っている可能性が高い。
対策の優先順位は、次の順で考えると判断がぶれにくい。

  • 温度(ハウスのこもり熱、葉温)を下げる:換気・遮熱・散水など
  • 水(根から葉までの流れ)を詰まらせない:潅水タイミング、EC、根域温度
  • 光(量と質)を整える:遮光率より“熱線カット”や時間帯制御
  • 回復の時間を確保:夕方の過度な蒸散負荷を避け、夜間回復を邪魔しない

「光が強いから遮光」だけで固定化すると、必要な光まで削ってしまい、修復のための同化産物(エネルギー)を逆に不足させることも起こり得るため、回復を“助ける環境”を先に整えるのが基本になる。


フォトインヒビションの対策:遮光と遮熱とハウスの高温

遮光は有効だが、目的は「暗くする」ではなく「危険な負荷(熱と過剰エネルギー)を減らす」に置くと失敗しにくい。実務的には、外部遮光資材・屋根散水・遮熱資材塗布など、複数の手段を組み合わせてハウス内の昇温を抑える整理が紹介されている。
https://www.zero-agri.jp/guide/heat-countermeasures-for-greenhouses2/
特に押さえたいのは、「光合成に必要な領域はできるだけ通し、熱源になりやすい近赤外線を抑える」という考え方で、遮熱資材の中には近赤外線の透過を抑制しつつ光合成有効放射領域はなるべく透過させる性質を狙ったものがある、と述べられている。
https://www.zero-agri.jp/guide/heat-countermeasures-for-greenhouses2/
現場での対策を、判断基準ごとにまとめる。

  • 葉焼け・先端枯れが出る:遮光(時間帯限定)+葉温低下(換気・細霧・散水)をセットで考える
  • しおれが先に出る:潅水設計・根域温度・ECを点検し、「水が回らない」原因を先に除く
  • 色が抜けて生育が止まる:数日単位の修復不全の可能性があるため、遮光を上げすぎず“回復できる夜間環境”を作る

また、遮光ネットは「遮光率」だけでなく、作物が感じる“明るさ”や熱のこもり方が違うため、数字だけで決めないことが大切である。現場の最適解は、午前中の立ち上がり(光合成を稼ぐ時間)を残しつつ、午後のピーク(壊れやすい時間帯)を削る設計になりやすい。


フォトインヒビションの独自視点:青色光とUVとTwo-step説の使い方

検索上位の一般向け記事では「強光=光阻害」という説明で止まることが多いが、実は“光の色(波長)”で損傷の起こり方が変わり得る、という視点がある。西山氏の解説では、光損傷の作用スペクトルがクロロフィルの吸収スペクトルと一致しない点から議論が進み、酸素発生系が主にUVや青色光で損傷し、その後に可視光で反応中心が損傷するというTwo-step説が紹介されている。
https://www.photosyn.jp/journal/sections/kaiho67-3.pdf
この話を農業に落とすと、「単純に遮光率を上げる」以外に、“どの波長をどう扱うか”という管理余地が見えてくる。例えば、遮熱資材の議論で近赤外線を抑える話がよく出る一方、Two-step説の観点ではUV・青色光側の扱いも、作物や時期によっては重要になり得る(特に夏の高日射時は、UVも含めた負荷が上がりやすい)。
ここでの実務ポイントは、派手な機材投資ではなく「観察と仮説」の型を持つことだ。

  • 同じ遮光率でも、資材の種類で葉焼けの出方が変わるなら、波長寄りの要因が疑える
  • 午前は問題ないが午後だけ急に症状が出るなら、温度・蒸散限界とセットで“修復阻害側”が起きている可能性が高い
  • 「遮光=正義」にせず、光合成を稼ぐ時間帯を確保して回復の材料(同化産物)を切らさない

少し意外だが、光阻害は“光が強すぎる”という一言よりも、「光・温度・水・修復」が噛み合わない時に固定化して問題化しやすい。だからこそ、遮光の前に、ハウスの高温と水の流れを詰まらせない設計が、結果としてフォトインヒビションを軽くする近道になる。
修復阻害(D1タンパク質再合成)とTwo-step説の根拠(専門解説)。
https://www.photosyn.jp/journal/sections/kaiho67-3.pdf
光阻害の定義・光防御(熱放散、キサントフィルサイクル等)を含む日本語解説。
http://www.biology.tohoku.ac.jp/lab-www/hikosaka_lab/hikosaka/photoinhibition.html
遮光・遮熱・屋根散水などハウス高温対策の具体例(現場寄り)。
https://www.zero-agri.jp/guide/heat-countermeasures-for-greenhouses2/