農業用ハウスの遮光剤として広く利用されている「ファインシェード」ですが、秋口や天候不順の際に、ハウス内の光量を確保するために除去作業が必要になることがあります。この際、専用の「ファインシェード除去剤」を使用するのが一般的ですが、ただ撒けば落ちるというものではありません。適切な希釈倍率や散布のタイミング、そして物理的な洗浄方法を組み合わせることで、フィルムを傷めずにきれいに除去することが可能になります。本記事では、農業現場で実際に効果を上げている除去剤の使用テクニックについて、詳細に解説していきます。
ファインシェード除去剤を使用する際、最も重要となるのが「希釈倍率」と「攪拌」の工程です。製品の仕様として推奨されている希釈倍率は、通常「3倍」とされています。これは、除去剤の原液「1」に対して、水「2」を加える割合です。
例えば、1缶(約10kg程度の規格が多い)を丸ごと使用する場合、用意する水は約20リットルとなり、合計で約30kgの散布液が出来上がります。現場でよくある失敗として、「濃い方が落ちるだろう」と考えて原液に近い状態で散布してしまうケースや、逆に「節約したい」と考えて水を多めに入れてしまうケースが見られます。
希釈の際は、必ずバケツやタンクに目盛りを使用し、正確に計量してください。また、除去剤は比重の関係で水と混ざりにくい場合があるため、棒などでしっかりと底から攪拌し、均一な溶液を作ることが不可欠です。攪拌が不十分だと、最初に撒いた部分は薄く、最後に撒いた部分が極端に濃くなるといったムラが発生し、除去後のフィルムの透明度にばらつきが生じる原因となります。
散布には、通常の手動噴霧器や動力噴霧器を使用します。ノズルは、霧状に細かく広がるタイプ(扇形ノズルなど)を選ぶと、ハウスの屋根全体にムラなく塗布できます。液だれが激しいと、その筋状の部分だけ除去が進み、見た目が悪くなることがあるため、均一に濡らすようなイメージで散布するのがコツです。
参考リンク:ファインシェード除去剤の製品情報と使用上の注意点(アキレス株式会社)
除去剤の効果を最大限に引き出すためには、作業を行う「天候」と「時間帯」の選定が極めて重要です。化学反応を利用して遮光剤の塗膜をふやかす仕組みであるため、除去剤がフィルム上で「液体の状態」を保っている時間が長いほど、除去効果は高まります。
最も避けるべきなのは、「晴天の昼間」です。
直射日光が当たると、フィルム表面の温度は想像以上に高温になります。この状態で除去剤を散布すると、薬剤が化学反応を起こして塗膜を浮き上がらせる前に水分が蒸発して乾燥してしまいます。一度乾燥してしまうと、除去剤の成分が再固着し、逆に汚れとなって残ってしまう「シミ」の原因にもなりかねません。これを防ぐためには、以下の条件が揃ったタイミングを狙うのがベストです。
散布後は、すぐに洗い流さずに、一定の「放置時間」を設けることが大切です。一般的には10分から20分程度、薬剤が塗膜に浸透するのを待ちます。この間、乾きそうになったら軽く水を霧吹きするなどして、湿潤状態を保つのも一つのテクニックです。ただし、長時間放置しすぎるとフィルムへのダメージが懸念されるため、様子を見ながら作業を進めてください。
「除去剤を使ったのに、全然落ちない」というトラブルは、農業現場で頻繁に耳にします。この「落ちない」現象には、いくつかの明確な原因があります。単純に薬剤の力不足と諦める前に、以下の要因が当てはまっていないか確認してみましょう。
最大の原因は、前述した「薬剤の乾燥」ですが、それ以外にも「塗膜の厚塗り」が挙げられます。
春先や夏場にファインシェードを塗布した際、遮光率を高めようとして規定量以上に厚く吹き付けていたり、何度も重ね塗りしていたりする場合、除去剤が下層まで浸透しきれません。表面の層だけが溶け、根元のバインダーがフィルムに食いついたまま残ってしまうのです。このような場合は、一度の処理で落とそうとせず、二回に分けて除去作業を行う必要があります。一度除去剤を撒いて洗い流した後、乾かしてから再度同じ工程を繰り返すことで、頑固な塗膜を徐々に剥がしていくことができます。
また、「経年劣化による固着」も大きな要因です。
ファインシェードは本来、ワンシーズンで自然に剥がれ落ちるように設計されているもの(短期タイプなど)もありますが、長期タイプを使用していたり、異常気象で強烈な紫外線に長期間さらされたりすると、樹脂成分が変質してフィルムと強固に結合してしまうことがあります(焼き付き現象)。こうなると、化学的な分解だけでは限界があります。
対処法としては、除去剤を散布して放置した後、スポンジや柔らかいブラシ(洗車ブラシなど)を使って、物理的に「擦る」作業を追加することです。広大な面積のハウスでこれを行うのは重労働ですが、軒先や谷部など、特に汚れが目立つ部分だけでも手作業を加えることで、仕上がりが劇的に改善します。硬いブラシやタワシを使うとフィルムに傷がつき、光線透過率が下がったり、強度が落ちて破れやすくなったりするため、必ず柔らかい道具を使用してください。
さらに、除去剤の種類が合っていない可能性もゼロではありません。アキレス社のファインシェードには専用の除去剤が最適化されていますが、他社製の遮光剤に対して使用している場合や、逆に他社製の除去剤を使っている場合は、成分の相性が悪く、効果が発揮されないことがあります。必ず同一メーカーの製品同士を組み合わせることが、トラブル回避の鉄則です。
参考リンク:遮光剤・除去剤の使用上の注意と天候による除去性の違い(アキレス株式会社)
検索上位の記事ではあまり詳しく触れられていませんが、ファインシェード除去において「高圧洗浄機」の活用は、作業効率と仕上がりを左右する最強の武器となります。単にホースの水で洗い流すだけでは、水圧が足りず、ふやけた塗膜がダラダラと垂れるだけで完全に剥離しないことが多いからです。
高圧洗浄機を使用する際のポイントは、「圧力設定」と「ノズルの選択」、そして「距離感」の3点です。
一点集中型の「直射ノズル」は絶対に使用しないでください。水圧が強すぎて、古いビニールやPOフィルムなら一瞬で貫通して穴を開けてしまいます。必ず「扇型(フラット)ノズル」または「拡散ノズル」を使用し、水流が帯状に当たるようにします。さらに、回転しながら噴射する「ターボノズル(サイクロンノズル)」は洗浄力が高いですが、フィルムへの負担も大きいため、使用する場合は圧力を下げて慎重に行う必要があります。
業務用のエンジン式高圧洗浄機などは非常にパワーがあります。まずは手元で圧力を弱めに設定し、フィルムから50cm~1メートル程度離して噴射してみてください。除去剤が効いていれば、面白いように塗膜が剥がれていくはずです。近づけすぎるとフィルムが伸びたり破れたりする原因になります。「汚れを削り取る」のではなく、「浮いた汚れを水圧で剥がし飛ばす」イメージで作業するのがコツです。
洗浄は必ず「高いところから低いところ(棟から軒へ)」に向かって行います。逆に行うと、せっかく剥がれ落ちた汚れを含んだ水が、きれいになった部分に流れ落ちて再付着してしまいます。屋根の頂点から妻面や軒先に向かって、汚水を押し流すようにガンを操作しましょう。
また、高圧洗浄機を使うメリットとして、除去剤の成分を完全に洗い流せるという点があります。薬剤成分がフィルム上に残留すると、アルカリ成分によってフィルムの劣化を早めたり、次に遮光剤を塗布する際の定着を阻害したりする恐れがあります。高圧の水流で微細な隙間に入り込んだ薬剤まで徹底的にリンスすることで、フィルムをクリーンな状態に戻し、翌シーズンの使用に備えることができるのです。
参考リンク:農業用資材の洗浄に関する一般的な機材と除去剤の選び方(モノタロウ)
最後に、除去剤を使用する際の安全管理と保管方法について触れておきます。ファインシェード除去剤は、主成分が界面活性剤であるとはいえ、液性は「アルカリ性(pH10前後)」を示します。これは、家庭用の洗剤よりも強力で、皮膚や粘膜に対して刺激性があることを意味します。
作業時は、たとえ暑くても以下の保護具を必ず着用してください。
また、除去剤の保管についても注意点があります。
シーズンオフに残った除去剤を倉庫に保管する場合、「凍結」だけは絶対に避けてください。一度凍結してしまうと、成分が分離してしまい、解凍しても元の性能に戻らないことがあります。冬場の倉庫は氷点下になることも多いため、保管場所は温度変化の少ない冷暗所を選び、必要であれば毛布でくるむなどの保温対策を行ってください。また、誤飲を防ぐため、飲料の空きペットボトルなどに小分けして保管するのは厳禁です。必ず元の容器で、しっかりと蓋を閉めて管理しましょう。
排水に関しては、除去剤自体は環境に配慮された成分が使われていることが多いですが、大量の遮光剤(樹脂)を含んだ排水が一度に河川や用水路に流れ込むのは好ましくありません。可能な限り、ハウス周辺の土壌に浸透させるか、沈殿槽を通して固形物を沈めてから排水するなど、地域の環境基準に配慮した処理を心がけてください。適切な処理を行うことは、地域農業の持続可能性を守ることにもつながります。