バイオミメティクス農業の害虫防除と水管理

バイオミメティクスを農業に取り入れると、害虫防除や水管理のやり方が「薬剤や設備の足し算」から「生物の仕組みを借りる設計」へ変わります。現場で使える発想と導入手順を整理すると、次に試す一手は何になるでしょうか?

バイオミメティクス農業

この記事でわかること
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形だけでなく行動も真似る

撥水などの「構造」だけでなく、昆虫の交信や回避行動など「行動」を利用した防除が実用段階にあります。

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現場導入の判断軸

効果の出方、設備コスト、作業負担、周辺環境への影響を同時に見て、無理なく試験導入する手順を紹介します。

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意外な独自視点

「虫の環世界」を前提に圃場を設計すると、IPMの組み立てが変わり、結果として農薬の出番を減らせます。

バイオミメティクス農業の定義と構造と行動

バイオミメティクスは、生物の「形・構造」だけでなく「行動」や「システム」もヒントにして技術化する考え方です。たとえばハスの葉の微細構造に由来する撥水の考え方は有名ですが、農業では昆虫の回避行動や交信を逆手に取るような“行動模倣”が注目されています。
現場目線で重要なのは、「すごい自然の話」を知ることではなく、①対象(害虫・病原菌・雑草・水・土)を決め、②生物が何で困っているか(乾燥、捕食、衝突、過熱、病原体)を見立て、③それを圃場の資材や運用に落とし込む、という順番で考えることです。
そして“模倣”はコピペではありません。生物は長い時間の中で「省エネ」「省資源」「壊れても回復しやすい」方向に最適化されていることが多く、そこを借りると、資材の追加よりも「設計の置き換え」で改善できる余地が出ます。
農業で結果が出やすい領域は、(1)害虫防除(交信・探索・産卵の阻害)、(2)表面機能(汚れ・水・病原菌付着の抑制)、(3)水管理(流れ・貯留・蒸散)です。ここから先は、作物・施設・地域条件に合わせて「小さく試して当てる」ことが成功率を上げます。


バイオミメティクス農業の害虫防除と振動と超音波

化学農薬に依存しない防除技術の文脈で、バイオミメティクス的アプローチが面白いのは、害虫を“殺す”よりも“行動を変える”方向へ設計できる点です。昆虫は視覚・匂いだけでなく、植物体を介した振動や音も情報として使っています。そこへ介入すると、交尾・産卵・摂食が乱れ、結果として密度が下がります。
実例として、科研費プロジェクトの公開情報では、振動を用いたオンシツコナジラミの行動制御をトマト栽培施設で検証し、振動処理区で密度が無処理区より66%減少したと報告されています。これは「農薬を強くする」話ではなく、虫の情報チャネル(界面の情報伝達)に働きかける設計で、まさに行動模倣・相互作用理解の応用です。参考にすべきは“66%”そのものより、「施設で検証できる形に落ちた」点で、導入の現実味が一気に上がります。
また一般向け解説として、天敵(コウモリ)の超音波を避けるヤガ類の習性を利用し、人工超音波で産卵数を減らして食害を抑える研究が紹介されています。つまり、害虫が自然界で身につけた“危険回避アルゴリズム”を、人間側が装置で再現し、圃場のリスク認知を上書きするイメージです。
導入検討のポイントは次の通りです(現場で揉めやすい順に並べます)。
・効果の対象:飛来抑制か、産卵抑制か、個体数抑制か(どれが利益に直結するか)
・作業負担:毎日設定が必要か、設置後は放置できるか
・副作用:受粉昆虫や天敵、作業者への影響(特に施設内)
・運用設計:IPMのどこに組み込むか(薬剤散布の回数を減らすのか、ピーク時だけ補助するのか)
「完全に農薬ゼロ」を最初から狙うより、まずは“散布回数の削減”や“抵抗性リスクの分散”として位置づける方が、経営上の意思決定がしやすく、試験導入もしやすいです。
研究や技術の方向性を掴むための一次情報(日本語)として、科研費データベースの該当プロジェクトは、狙いワードの周辺知識を短時間で押さえるのに向いています。
植物保護・振動による行動制御の根拠(密度66%減)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18KT0042/

バイオミメティクス農業の水管理と温室と精密灌漑

水管理は「設備更新で改善」しやすい一方で、コストが重く、運用が複雑化しがちです。ここでバイオミメティクスの視点が効くのは、自然界の“水の移動のさせ方”が、少ないエネルギーで成立している点にあります。生物はポンプを持たなくても、表面構造・毛細管現象・蒸散・流路の形で水の挙動を作り込みます。
温室栽培では、天候と植物の成長状況に基づいて精密灌漑を行い、肥料と水のサンプルを定期的に検査して管理している事例が紹介されています。これは厳密にはスマート農業の話ですが、「植物(生体)の状態に合わせて入力(水・肥料)を変える」という意味で、生体のフィードバックを前提にした“生物規範”の運用設計になっています。
現場で応用するときは、次の二段構えが現実的です。
1) まず“観察”の型を作る:葉色・萎れ・根域の湿り・排液ECなど、見える指標を固定し、同じ基準で記録する。
2) 次に“水の通り道”を設計する:畝形状、マルチ、点滴位置、排水経路、施設内の結露水の回収など、水が勝手に偏らない形に整える。
「センサーを増やす前に、流れを整える」。この順番を守ると、計測値が安定し、機器導入の費用対効果も上がります。
水管理の最新事例を掴む一次情報として、JST系の海外動向紹介でも、温室での精密灌漑や検査運用が具体的に書かれており、現場のイメージが湧きやすいです。
温室の精密灌漑とサンプル検査の運用イメージ
https://spc.jst.go.jp/news/240604/topic_2_03.html

バイオミメティクス農業の植物保護と生物間相互作用

農業でのバイオミメティクスを「新素材」「新資材」と捉えると、導入ハードルが上がります。むしろ本質は、圃場を“生物間相互作用の場”として再設計することです。害虫・天敵・作物・微生物は、互いに情報を出し合い、境界(葉面、表皮、土壌粒子の表面、根圏)で勝負しています。ここを理解すると、対策が「散布」一択から、「情報の遮断・誤誘導・居場所の消失」へ広がります。
科研費プロジェクトの説明では、生物間相互作用に注目し、界面での情報伝達を司る化学特性・物理特性を解析して、農業に応用できるバイオミメティクス的植物保護技術のシーズ開発を目指す、とされています。つまり「虫の弱点を探す」ではなく、「虫が世界をどう認識しているか」を測って設計する方向です。
この視点はIPMを組むときに効きます。たとえば、同じ“防虫ネット”でも、目的を「侵入遮断」だけに置くのか、「匂いの拡散を変える」「振動の伝達を変える」といった情報チャネルまで含めて設計するのかで、資材選定と張り方が変わります。
また、薬剤抵抗性が問題になる害虫ほど、行動・交信・探索の“ルール”は急に変えにくいことが多い(変えると生存が難しくなる)ため、行動制御は抵抗性リスクを分散する一手になり得ます。もちろん万能ではないので、気象や作型で効きがブレる前提で、試験区→小面積→全体の順に段階導入するのが安全です。
研究の背景にある考え方(「蟲の環世界」理解を前提に環境をデザインする)も同ページに示されており、単なる技術紹介より一段深い設計思想として読めます。
植物保護を“相互作用の設計”として捉える一次情報(環世界の記述もあり)
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18KT0042/

バイオミメティクス農業の独自視点と環世界と現場設計

検索上位の記事は「撥水」「素材」「有名な生物」になりやすいのですが、農業従事者にとっての独自視点は、“圃場を誰のために最適化するか”の再定義です。多くの現場改善は、人間の作業性(通路、散布、収穫)を中心に設計されています。ここに「害虫が感じる世界(環世界)」を追加すると、同じ圃場でも“虫にとっての居心地”を下げる方向へ設計でき、結果として防除コストの構造が変わります。
たとえば、害虫が頼る情報は「匂い」「光」「風」「振動」「足跡(接触痕)」など複数あり、どれか一つを断つだけでなく、複数を“薄く邪魔する”方が現場では効くことがあります。これは、強い薬剤で一発を狙うより、弱い圧力を複数かけて適応余地を減らす発想で、経営としてもリスク分散になります。
実際、一般向け解説でも、農業分野では天敵の振動を避ける習性や、振動で雌雄間の交信を阻害して繁殖を抑えるといった方向性が紹介されています。ここから得られる教訓は「殺虫の代替」ではなく、「繁殖・定着・探索のどこを止めるか」を先に決めると、技術選定がブレにくいということです。
現場で試すなら、次の“環世界チェックリスト”が実務的です(やることは単純ですが、効きます)。
・匂い:誘引源(残渣、周辺雑草、堆肥置き場)が風下にないか
・光:夜間照明、反射資材、遮光のムラで虫の行動が変わっていないか
・風:換気扇・サイド換気で匂いの流れ道が固定されていないか
・振動:施設の送風機・作業車・潅水配管で、意図しない振動が常時出ていないか
・足跡:通路や資材表面に“残る情報”が増えていないか(清掃・更新の頻度)
このチェックをやると、「新技術を買う前に」できる改善が見つかり、しかも改善が積み上がるほど新技術の効果も安定します。
行動・システム模倣としてのバイオミメティクス、農業での害虫防除の方向性(振動・超音波などの紹介)
https://lab-brains.as-1.co.jp/enjoy-learn/2023/04/46531/