バイオファミゲーション(文献では「バイオフューミゲーション」表記が一般的)は、アブラナ科植物などを鋤き込み、灌水・被覆・密閉によって土壌病害虫を抑制する「土壌消毒」の一手法です。特にカラシナ等では、植物体に含まれるカラシ油配糖体(グルコシノレート)が分解し、アリルイソチオシアネート(AITC)が生成され、揮発・拡散して病原菌を抑える、という説明が整理されています。
この「植物由来の揮発性成分」と、灌水・被覆で土壌を還元状態に寄せる「土壌還元消毒」の要素を組み合わせて効かせる発想が現場的には重要です。
少し意外なのは、「バイオファミゲーション=アブラナ科だけ」と思われがちでも、同資料ではエンバク等を鋤き込んで同様に処理しても効果が得られる、と整理されている点です(ただし狙う病害虫や圃場条件で得手不得手は出ます)。
土壌で何が起きているかを、農業者目線で噛み砕くと次の3層です。
現場で一番気になるのは「結局、どれくらい効くのか」ですが、ダイコン残渣を用いた事例では、ホウレンソウ萎凋病に対して、無処理比で「50%以上の発病抑制効果」が示されています。
一方で、同資料は化学農薬(クロルピクリン油剤)と比べると防除効果はやや劣るとも明記しており、「薬剤同等」を前提にすると期待値がズレるので注意が必要です。
ただし“効き方”は単純な殺菌だけではなく、作型全体の安定化(雑草発生の減少や、連年実施での抑制など)も絡むため、圃場の課題が「病害だけ」なのか「病害+雑草+施肥+残渣処理」なのかで評価軸が変わります。
ホウレンソウの有機栽培の文脈では、土壌還元消毒の連年実施で雑草発生が減少する、萎凋病などの土壌病害の防除効果が期待できる、と整理されています。
つまりバイオファミゲーションを「単発の必殺技」にせず、輪作や土壌還元消毒と一体で“体系”にするほど、投資回収が見えやすくなります。
また、カラシナ鋤き込みでは、還元状態になった場合に地温30℃以上の積算時間が約280~300時間に達すると高い殺菌効果が認められる、という“運用の目安”が示されており、温度ログを取れる圃場ほど再現性を上げられます。
資材選びは「入手性」と「作業性」と「狙う対象」で決まりますが、現場で使われやすい代表例はカラシナ、ブロッコリー残渣、ダイコン残渣です。
ダイコン残渣の技術資料では、ハウスホウレンソウを対象に、ダイコン残渣を未利用資源として土壌消毒に活用する提案になっており、「地域で出る残渣を資源化する」方向性が明確です。
さらに、同資料はダイコン残渣の分解による窒素肥効が処理後1作分程度ある、としており、病害対策と施肥設計が連動する点が“地味に効く”メリットになります。
運用のイメージを掴むために、ダイコン残渣の例を“数値だけ”抜き出します。
参考)バイオステーション
また、有機農業の手引き側では、ダイコン残渣を1.5~2t/a程度投入し、被覆・密閉して3週間放置、被覆除去後1週間程度おいて播種、といった実務手順が詳細に示されています。
“残渣が手に入る産地かどうか”で採用可否が決まるため、選果場が近い地域では特に相性が良いです。
成功率を上げるコツは、やること自体は単純でも「順番とタイミングを崩さない」ことです。ダイコン残渣の手順は、持ち込み→破砕・耕耘→灌水→被覆→密閉→待機→被覆除去→乾燥後に播種、という流れで整理されています。
地温については、土壌還元消毒でもバイオファミゲーションでも「地温30℃以上」が繰り返し出てくる条件で、安定確保のため5月末~9月下旬(平均気温20℃以上の時期)を目安にする、と手引きで具体化されています。
また、同手引きでは、ホウレンソウ萎凋病を対象とする場合に「地温40℃以上の状態が72時間以上継続」など、対象病害によって“さらに厳しい温度条件”が出てくる点も重要です(熱の寄与が大きい条件では、期間設計が変わります)。
現場で事故りやすいのは「水」と「密閉」です。手引きでは、排水良好すぎる圃場や傾斜地で湛水状態を維持できないと効果が期待できない、出入り口周辺や外縁部は効果が劣りやすい、といった“失敗事例”まで明記されています。
さらに、ダイコン残渣の手引き記述では、処理時の灌水が不足すると防除効果が望めない、灌水の目安は10t/a以上、と踏み込んで書かれているため、「散水設備の能力」が採用判断の入口になります。
やり切る自信がない場合は、まず小面積で地温・水分・臭気(還元化の目安)を確認し、翌作の発病・収量・雑草を記録してから面積拡大するのが安全です(臭気の確認は手引きに具体例があります)。
検索上位の多くは「効く・効かない」や「やり方」中心になりがちですが、現場の意思決定は“コストの内訳”で逆転します。ダイコン残渣の技術資料では、10a当たりの経費が約40,000円、現地慣行比で防除費40%減、という試算が提示されています(残渣が無償提供され、労賃単価を置いた条件付き)。
ここでの独自視点は、「薬剤費削減=コスト削減」ではなく、“労働の質”がコストを決める点です。同資料では慣行の労働時間11.8h/10aに対し、実証区は43.1h/10aと大きく増えており、忙しい時期の労働競合(定植・収穫・防除・選果)に負けると続きません。
つまり、経費が下がっても、繁忙期の人員確保ができない経営では「継続不可能な技術」になり得ますし、逆に残渣搬送や被覆作業を段取り化できる組織(JA・法人・近隣連携)では“強い武器”になります。
もう一つ見落とされやすいのが「施肥設計のズレ」です。ダイコン残渣の分解で窒素肥効が処理後1作分程度ある、という情報は、裏を返すと“いつもの基肥を入れると過剰になり得る”ということでもあります。
手引きでも、処理直後の栽培では施肥の必要がない場合がある、2作目以降は土壌診断に基づく肥培管理が基本、といった注意が書かれており、ここを外すと品質低下や病害虫リスク増(徒長・軟弱化など)につながりかねません。
バイオファミゲーションを「土壌消毒の置き換え」だけでなく、「残渣処理・施肥・病害管理をまとめて最適化する手段」として設計すると、費用対効果が読みやすくなります。
有機栽培技術(カラシナ鋤き込み+還元化の手順・留意点が詳しい):https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/narc_man_yuuki04.pdf
ダイコン残渣を用いたBFの効果・コスト試算(50%以上の発病抑制、40%減の試算など):https://www.affrc.maff.go.jp/docs/project/genba/pdf/140211.pdf