アロフェンは、火山灰由来の黒ボク土に多い非晶質の粘土鉱物で、土が「軽くてふかふか」になりやすい要因の一つです。黒ボク土の大きな長所は、すき間(気相)が多く、通気性・排水性がよいのに、同時に保水性も確保しやすいことです。つまり「根が呼吸しやすい土」を作りやすい一方、肥料が効きにくい局面が出やすいのが特徴になります。
栽培で躓きやすいポイントはリン酸です。黒ボク土に多い活性アルミニウムやアロフェンはリン酸との結合力が非常に強く、いったん結合するとリン酸を容易に放しにくい性質があります。そのため、見かけ上は施肥しているのに、作物体のリン酸不足(初期生育の停滞、根張り不足、着果・肥大の遅れなど)として現れやすくなります。
さらに現場で厄介なのが、「土壌分析の数値が低く見える」ケースです。黒ボク土(特にアロフェン質)では、酸性の抽出液で可給態リン酸を測ると、抽出中に溶けたリン酸が再吸着してしまい、過小評価の可能性があると指摘されています。つまり、数字だけを見て一律にリン酸を増やすと、コストだけが膨らむ危険があります。
参考リンク(黒ボク土におけるアロフェンと活性アルミニウムがリン酸と強く結合し、リン酸欠乏を招く仕組みの解説)
https://www.naro.affrc.go.jp/archive/niaes/magazine/103/mgzn10306.html
アロフェン質の圃場では、施肥設計の前に「診断の見方」を整えるのが近道です。黒ボク土はリン酸吸着が強いので、可給態リン酸の数値が低い=即増肥、という単純な判断は危険になり得ます。特に、酸性抽出液を使う評価法では再吸着で低く出る可能性があるため、圃場の種類(アロフェン質か、非アロフェン質か)と、採用している分析法の特徴を意識して読み解く必要があります。
pHについても「黒ボク土=石灰で一気に矯正」が正解とは限りません。研究報告では、非アロフェン質黒ボク土で交換性Alが安定して存在する条件では、過リン酸石灰を使う場合に酸性矯正が必須だった一方、アロフェン質黒ボク土では必ずしも酸性矯正を必要としない場合があるとされています。現場では、pH矯正を急ぐより、まずリン酸の“作物への渡し方”を変える(局所施肥など)ほうが効率的な場面がある、という整理ができます。
また、黒ボク土は長期的に見ると腐植が多く集積しやすい土でもあります。腐植は土の団粒化や保肥にも関わりますが、アロフェンや活性Alが腐植と結合して分解されにくい形に変えることがある、とも説明されています。堆肥を入れているのに土が「良くなる実感が遅い」圃場は、こうした土の成り立ちも背景にあるかもしれません。
アロフェン質黒ボク土での施肥は、「全面に多投入」より「作物の近くに確実に届ける」発想が効きます。リン酸が土に捕まりやすいなら、根圏に近い場所へ条施・側条・局所施肥で濃淡を作り、根がまずそこへ到達できるように設計する方が合理的です。とくに定植直後〜初期生育でリン酸が足りないと、その後の追肥(窒素)を増やしても挽回しにくいことがあるため、「初期の根づくり」を最優先に置きます。
リン酸資材の選び方も、実は“思い込み”が入りやすいポイントです。黒ボク土ではリン酸が固定されやすいので、速効性だけでなく、土壌条件との相性も重要になります。たとえば、リン酸資材として炭化物(低温炭・高温炭)を施用する場合、黒ボク土の種類にかかわらず酸性矯正をしない方がP肥効を高めた、という報告もあります。つまり「石灰でpHを上げてからリン酸」は万能ではなく、資材の性質によって最適解が変わり得ます。
ここで、現場向けに“やりがちな失敗”を明文化しておきます。
✅やること(優先度順)
❌避けたいこと
黒ボク土の強みは、団粒構造や粘土鉱物の性質によって、通気・排水・保水を両立しやすいことです。実際、黒ボク土はすき間が非常に多いことがあり、耕しやすく、根が伸びやすい土になりやすいと説明されています。ここを活かすと、肥料の効率も上がります(根が伸びれば、固定されやすいリン酸にも“出会う確率”が上がるためです)。
一方、アロフェン質は「水はけが良いから乾く」と短絡しやすいのも落とし穴です。黒ボク土は透水性が高いだけでなく保水性にも優れるため、表面が乾いて見えても根域に水が残っていることがあります。灌水を増やしすぎると、根の呼吸が落ちて生育停滞が起き、リン酸不足の症状と見分けがつきにくくなる場合があります。
排水・保水の管理は、肥料より先に効くことがあります。畝立て、暗渠、サブソイラなどは地域や圃場条件で投資判断が変わりますが、最低限「根域に空気が入る状態」を維持できると、リン酸の問題が表面化しにくくなります。土が良いのに収量が伸びない圃場は、化学性(リン酸)だけでなく、根域環境(酸素・水)の“揺れ”も疑ってください。
検索上位で多いのは「黒ボク土=リン酸固定=リン酸を増やす」という語りですが、現場の改善はもう少し“時間差”の設計で伸びることがあります。アロフェン質黒ボク土では、リン酸が土に吸着されやすい前提で、①初期に根へ届くルート(局所施肥・育苗段階の設計)と、②土をじわじわ育てるルート(作後の有機物投入や、次作に効かせるリン酸のストック化)を分けて考えるのが合理的です。
たとえば、初期生育が重要な作型(定植から短期間で樹勢を作る果菜類など)では、スタートでリン酸が噛み合わないと、後半の追肥で取り返しにくくなります。逆に、土づくり期間を取れる体系なら、リン酸を“当てにいく施肥”よりも、土の中に保持される形で蓄積させ、作物が根を張ってから回収する設計が向きます。黒ボク土が腐植を多く集積しやすいという性質は、年単位の土づくり戦略と相性が良いとも言えます。
この「時間差設計」のメリットは、無駄打ちを減らしやすい点です。可給態リン酸の数値が低く出やすい土で、毎作“怖いから上乗せ”を続けると、資材価格が上がった局面ほど経営を圧迫します。局所施肥で初期を外さず、土づくりで中長期の底上げをする—この二段構えにすると、アロフェン質の「クセ」が読みやすくなります。
参考リンク(アロフェン質黒ボク土の定義:火山放出物由来、アロフェン・イモゴライト、腐植集積などの説明)
https://soil-inventory.rad.naro.go.jp/explain/D6.html