登録免許税の計算と相続を解説!免税措置や評価額の調べ方

農家の皆さん、相続登記の費用や手続きに不安はありませんか?登録免許税の計算式から、農地で使える100万円以下の免税措置、固定資産税評価額の正しい見方まで徹底解説します。自分で申請する際のリスクとは?
登録免許税と相続のポイント
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基本の税率は0.4%

固定資産税評価額に0.4%を掛けた額が原則的な税額です。

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100万円以下の免税

土地の評価額が100万円以下なら税金がかからない特例があります。

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義務化への対応

2024年からの相続登記義務化に伴い、放置すると過料のリスクも。

登録免許税の計算と相続

農業に従事されている皆様にとって、代々受け継いできた農地や山林の相続は避けては通れない重要な課題です。特に2024年4月1日から相続登記が義務化されたことにより、これまで「名義変更しなくても特に困らないから」と先送りにされがちだった手続きが、待ったなしの状況へと変化しました。

 

参考)相続登記で登録免許税はいくらかかる?計算や納付の方法を解説

相続登記(不動産の名義変更)を行う際に必ず発生する費用の一つが「登録免許税」です。これは、登記簿上の権利関係を書き換えるために国に納める税金であり、司法書士に依頼する報酬とは別に、必ず実費としてかかります。農地を多く所有されている方の場合、土地の筆数が多くなりがちで、計算方法や免税措置を知っているかどうかで、最終的な出費に数万円から数十万円の差が出ることも珍しくありません。ここでは、農業従事者が知っておくべき登録免許税の仕組みについて、基礎から応用まで深掘りして解説します。

 

免税措置は農地も対象?100万円以下の特例

多くの農家の方が最も関心を寄せるべきポイントが、この「免税措置」です。通常、相続登記には税金がかかりますが、特定の条件を満たす土地については、登録免許税が「非課税(0円)」になる特例措置が設けられています。これは租税特別措置法第84条の2の3第2項に定められた制度で、特に地方の農地や山林を相続する際には非常に大きなメリットとなります。

 

参考)農地の相続登記はタダでできるかも!?令和9年3月31日までの…

免税の対象となるのは、以下の条件を満たす場合です。

 

  • 相続(または遺贈)により土地を取得すること
  • その土地の「固定資産税評価額」が100万円以下であること
  • 2025年(令和7年)3月31日までに登記申請を行うこと(期間は延長される傾向にあります)

ここで重要なのは、「土地全体で100万円」ではなく、「土地1筆ごとの評価額が100万円以下」であれば適用されるという点です。農地の場合、宅地に比べて平米単価が低く設定されていることが多いため、広い畑や田んぼであっても、1筆ごとの評価額を見れば100万円を下回っているケースが多々あります。

 

法務局の免税措置に関する詳細ページ
相続登記の登録免許税の免税措置について - 法務局
例えば、評価額が80万円の田んぼと、50万円の畑、30万円の山林を相続する場合、これらすべての土地について登録免許税はかかりません。もしこの制度を知らずに計算して納付してしまっても、法務局側で自動的に返金してくれるわけではないため、申請書の記載時に「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」とはっきりと記載する必要があります。

 

参考)相続登記の登録免許税の免税措置│丸目司法書士事務所

また、この措置は「土地」限定です。農機具倉庫やご自宅の建物には適用されませんので注意が必要です。しかし、農業経営においては土地(農地・山林・原野)の割合が圧倒的に多いため、この特例をフル活用することで、登記費用を劇的に圧縮することが可能です。

 

固定資産税評価額の確認と計算の端数処理

登録免許税を計算する上で基準となるのが「固定資産税評価額」です。これは実際に売買される市場価格(実勢価格)とは異なり、市町村が税金を計算するために定めた公的な価格のことです。相続税の計算に使われる「相続税路線価」とも異なりますので、混同しないようにしましょう。

 

参考)第272回相続コラム 相続登記申請時に必要となる登録免許税の…

正確な計算を行うためには、以下の手順を踏みます。

 

  1. 固定資産評価証明書の取得

    まずは、対象となる不動産がある市町村役場の税務課で「固定資産評価証明書」を取得します。毎年春に送られてくる「固定資産税納税通知書」の課税明細書でも代用可能な場合がありますが、登記申請には最新年度の評価証明書を添付するのが原則です。

     

  2. 1,000円未満の端数切り捨て(課税標準額)

    計算の第一歩として、不動産の評価額の「1,000円未満」を切り捨てます。

     

  3. 税率0.4%を掛ける

    算出された課税標準額に、相続登記の税率である「0.4%(1000分の4)」を掛けます。売買の場合は2.0%ですが、相続は優遇されており0.4%です。

     

    参考)【相続登記の登録免許税】計算シミュレーション・免除措置も解説…

    • 計算式:12,345,000円 × 0.4% = 49,380円
  4. 100円未満の端数切り捨て(納付税額)

    最後に算出された税額の「100円未満」を切り捨てます。

     

    • 計算結果:49,380円
    • 納付すべき登録免許税額 → 49,300円

端数処理のルールをまとめると、「最初は1,000円カット、最後は100円カット」となります。この順番を間違えると、法務局から補正(訂正)の連絡が来てしまい、手続きがストップしてしまいます。

 

登録免許税の計算シミュレーションに関する詳細
【相続登記の登録免許税】計算シミュレーション・免除措置も解説
特に農家の方の場合、私道(公衆用道路)を所有していることもあります。公衆用道路は近隣の宅地評価額の30%程度で計算される「近傍宅地価格」を用いるなど、特殊な計算が必要になることがあります。評価証明書に「非課税」や「0円」と記載されていても、登記上の登録免許税算出のためには価格を算出する必要があるケースがあるため、事前に法務局の相談窓口で確認することをお勧めします。

数次相続で使える登録免許税の減税テクニック

農業を営む家系では、祖父の名義のまま土地を使用しており、父が亡くなり、さらにその子供(あなた)が相続するという、いわゆる「数次相続(すうじそうぞく)」の状態になっていることが少なくありません。通常、不動産登記は「祖父→父」「父→あなた」と権利の変動過程をすべて登記するのが原則であり、それぞれに登録免許税がかかるのが建前です。

 

しかし、これでは費用負担が重すぎるため、ここでも特別な免税措置が用意されています。これが「相続による土地の所有権の移転の登記に対する登録免許税の免税措置(租税特別措置法第84条の2の3第1項)」です。

 

参考)登録免許税を抑えるには?|数次相続の免税措置と省略登記の活用…

具体的には、一次相続(祖父→父)の登記にかかる登録免許税が免除されます。

 

例えば、祖父名義の土地を、亡くなった父が相続し、さらにあなたが相続する場合、本来なら以下の2回の登記が必要です。

 

  1. 祖父から父への名義変更(本来は課税対象)
  2. 父からあなたへの名義変更(課税対象)

この特例を使うと、1回目の「祖父から父へ」の名義変更にかかる登録免許税が0円になります。対象となるのは「土地」のみで建物は対象外ですが、農地や広大な山林を代々引き継いでいる農家にとっては、非常に大きな節税効果があります。

 

数次相続の仕組みと免税措置の図解
法務局公式:数次相続などの登録免許税計算例PDF
この措置を受けるためにも、申請書への法令条項の記載が必須です。記載を忘れると通常通り課税されてしまいます。また、遺産分割協議書(誰がどの土地を継ぐかを決めた書類)の内容によっては、「中間省略登記」というテクニックを使って、いきなり「祖父→あなた」へ直接名義変更できるケースもあります。この場合はそもそも登記申請が1回で済むため、登録免許税も1回分で済みます。数次相続が発生している場合は、どの方法が最も手間と費用を抑えられるか、専門的な判断が求められる場面です。

 

義務化に備える!法務局への申請と納付方法

2024年4月から相続登記が義務化され、相続の開始を知った日から3年以内に登記申請を行わない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。農業従事者にとって、農地は生産手段そのものですから、権利関係を明確にしておくことは経営の安定にも直結します。

 

登録免許税の納付方法は、主に以下の3つがあります。

 

  1. 収入印紙での納付

    最も一般的な方法です。郵便局や法務局内の販売所で、計算した税額分の収入印紙を購入し、白い台紙に貼り付けて申請書と一緒に提出します。印紙には消印をしてはいけません(法務局の職員が処理します)。

     

  2. 現金納付(銀行振込)

    税額が高額になる場合などは、銀行で納付書を使って現金を納め、その領収書を申請書に貼り付ける方法もあります。

     

  3. 電子納付

    オンラインで登記申請を行う場合は、インターネットバンキング等を使って電子納付が可能です。

     

農家の皆様が特に注意すべきは、法務局の管轄です。基本的には「不動産の所在地」を管轄する法務局に申請します。例えば、自宅のある場所と、飛び地である山林の場所が離れていて管轄が異なる場合、それぞれの法務局へ別々に申請を出す必要があります。当然、登録免許税の納付もそれぞれの申請ごとに分けて行います。

 

法務局の管轄一覧と案内
法務局・地方法務局所在地一覧
申請書の作成は、今は法務局のホームページから様式をダウンロードでき、記載例も充実しています。しかし、農地ならではの「農地法」の許可証(相続の場合は原則不要ですが、遺贈の場合は必要になることがあります)や、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本の収集など、書類集めには根気が必要です。

 

農地の相続登記を自分でやる際の意外な落とし穴

最後に、多くの解説記事では触れられていない、農家の方が自分で(司法書士に頼まずに)相続登記を行う際に見落としがちな「農地特有の落とし穴」について解説します。

 

1. 「名寄帳(なよせちょう)」を取らないと土地漏れが起きる
固定資産税の納税通知書だけを見て登記申請を行うと、非常に高い確率で「非課税の土地」や「共有持分の土地」の登記漏れが発生します。特に農道や水路、山林などは、固定資産税がかからないため納税通知書に記載されていないことが多いのです。しかし、登記簿上はご先祖様の名義のまま残っています。

 

これを防ぐためには、役場で「名寄帳(なよせちょう)」を必ず取得してください。名寄帳には、課税・非課税に関わらず、その人が所有するすべての不動産が一覧で載っています。相続登記義務化において、この「登記漏れ」も放置とみなされるリスクがあるため、全筆網羅することが極めて重要です。

 

2. 農地転用の履歴と現況の不一致
登記簿上は「畑」となっているが、実際には何十年も前に家を建てて「宅地」として使っている、あるいはその逆で「宅地」だが今は耕作している、というケースが農家ではよくあります。

 

相続登記自体は「登記簿上の地目」に基づいて行われますが、登録免許税の計算においては、現況が優先される場合があります(近傍宅地比準など)。また、登記完了後に農業委員会への届出(農地法第3条の3第1項の届出)を行う際、現況と登記が食い違っていると、将来的に農地転用や売却をする際に大きなトラブルの種になります。相続のタイミングで、地目変更登記も視野に入れた整理を検討すべきか、一度立ち止まって考える必要があります。

 

3. 分筆されていない「先祖代々の道」
広い農地の中に、公図(地図)上は存在しない「里道(赤道)」や「水路(青道)」が混在していることがあります。これらが実は個人の名義ではなく、国有地であったり、集落の共有地であったりすることがあります。自分で登記申請書を作る際、隣地との境界が曖昧なまま申請を進めようとすると、法務局から厳密な図面の提出を求められることはありませんが、将来的な管理責任を考えると、どの範囲までが相続対象なのかを現地で杭などを確認して把握しておくことは、法的な手続き以上に重要です。

 

これらの「現場の事情」は、単なる税金の計算式だけでは見えてきません。100万円以下の免税措置などを賢く利用してコストを抑えつつ、将来の農業経営に憂いを残さないよう、正確な手続きを心がけてください。少しでも不安がある場合は、無料相談会などを利用して専門家のアドバイスを仰ぐことを強くお勧めします。