リナマリン食品とキャッサバとタピオカでん粉

リナマリン食品はどんな食品に含まれ、どの工程で減らせるのでしょうか。キャッサバやタピオカでん粉の取扱い基準、現場で役立つ確認ポイントまで整理し、農業従事者が誤解しやすい点も掘り下げますが、何から見直しますか?

リナマリン食品

リナマリン食品:現場で迷わない要点
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まず押さえる定義

リナマリンはキャッサバ等に含まれる青酸配糖体で、取り扱い次第でシアン化合物の問題に直結します。

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行政の基準の核

天然にシアン化合物を含む食品は、自主検査などで「10ppmを超えない」管理が求められます。

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農業従事者の実務

品種・部位・破砕の有無・水さらし/加熱の有無でリスクが変わるため、工程設計と表示・説明が重要です。

リナマリン食品の基礎とシアン化合物

リナマリンは、キャッサバなどの植物に含まれる「青酸配糖体(シアン生成配糖体)」の一種で、食品の扱い方によってシアン化合物の問題につながります。
現場で混乱が起きやすい点は、「リナマリンそのもの」と「そこから遊離するシアン化合物(シアン化水素など)」を同じものとして語ってしまうことです。
食品行政の通知では、天然にシアン化合物を含有することが知られている食品として、キャッサバやキャッサバの葉などが挙げられており、農産物・加工原料としての管理対象になり得ます。
農業従事者向けに整理すると、ポイントは次の3つです。

 

  • 「植物が持つ配糖体」+「組織破砕」+「酵素反応/加工条件」が重なると、リスクが表面化しやすい。

    参考)キャッサバ - Wikipedia

  • どの部位を扱うか(根、葉、粉末)で、管理・説明の勘所が変わる。
  • 原料の段階でリスクがあっても、調理・加工で最終製品が基準を満たす場合の考え方が示されています。

リナマリン食品としてのキャッサバとタピオカでん粉

キャッサバは、世界で広く利用されるデンプン源作物で、タピオカでん粉の原料としても知られています。
一方で、キャッサバにはリナマリンなどのシアン化合物に関係する成分が含まれるため、食用利用では「毒抜き(低減処理)」が前提という位置づけになります。
農研機構の作物見本園の説明でも、塊根に青酸を含む品種があること、必要に応じて水洗い等で無毒化すること、でん粉はタピオカとして流通していることが示されています。
農場・加工現場での「伝え方」も重要で、例えば直売や加工委託の場面では、次のような誤解が起きがちです。

 

  • 「タピオカ=危険」ではなく、「原料植物には管理すべき性質がある」ので工程で担保する話。

    参考)作物研究部門:作物見本園 キャッサバ

  • 「海外で食べられている=生でも安全」ではなく、地域の加工知や手順が安全性を支えている話。​
  • 「健康に良い成分」扱いで粉末等にしてしまうと、逆に管理が難しくなる可能性がある話(種子粉末等の例も含め、行政はシアン化合物を含む食品の監視指導を求めています)。

リナマリン食品の取扱いと10ppm

厚生労働省の通知では、天然にシアン化合物を含有することが知られている食品(亜麻の実、梅の種子、ビターアーモンド、キャッサバ、キャッサバの葉、びわの種子等)について、自主検査の実施などにより「シアン化合物の濃度が10ppmを超えないように適切に管理」するよう指導することが示されています。
同通知では、10ppmを超えて検出された場合は原則として食品衛生法第6条第2号に該当するものとして措置すること、という考え方も明確です。
さらに、原料で10ppm超が出ても、調理・加工で最終製品が10ppm未満なら該当しない場合がある、という整理も併記されており、工程管理の意味合いが強い文書です。
農業従事者が実務で使えるチェック観点を、管理の流れに合わせて箇条書きにします。

 

  • 原料受入:品目(キャッサバ根/葉、でん粉、粉末)を明確化し、仕入仕様書・栽培履歴と紐づける。
  • 工程設計:水さらし・加熱・発酵など「低減が期待できる工程」を外さない(特に粉末化はリスクを見えにくくする可能性があるため注意)。
  • 自主検査:10ppmの基準を前提に、外部検査やロット管理の線を引く。
  • 表示・説明:家庭で追加処理が必要な形態なら、消費者が再現できる説明を添える(誤食事故を防ぐ)。

参考リンク(シアン化合物を含む食品の管理対象、10ppm、自主検査、最終製品の扱いの考え方)
厚生労働省「シアン化合物を含有する食品の取扱いについて」

リナマリン食品の低減方法と毒抜き

農林水産省の注意喚起資料では、キャッサバ芋の下処理として「薄く切る」「水に溶けやすいので途中で水を入れ替えると良い」といった具体的なポイントが示されています。
この「水に溶けやすい」「水を換える」という発想は、農産加工での歩留まりや作業性と相反しがちなので、現場では“安全側の工程条件を固定する”ことが再発防止に効きます。
また、地域によっては浸漬・発酵を組み合わせた毒抜きが行われ、嫌気発酵の過程で微生物の酵素(linamarase)により青酸配糖体が分解される、という説明も報告されています。
農業従事者が「加工委託」「6次化」「直売」の場面で使えるよう、低減の考え方を工程別に整理します。

 

  • 破砕(すりおろし・粉砕):反応が進みやすい一方、管理が甘いと“危険側の変化”も見えにくいので、次工程(加熱/洗浄/発酵)までをセットで設計する。

    参考)https://photo-kataru.com/378_SoakedWaterMandioca.htm

  • 浸漬(水さらし):水溶性の性質を利用するので、水量・交換回数・時間をルール化する。

    参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/attach/pdf/naturaltoxin-1.pdf

  • 加熱(茹で等):家庭調理の再現性が高いが、厚み・サイズ・中心までの加熱を前提に説明する。​
  • 発酵:地域知に学べるが、温度・日数・衛生管理の要件が増えるため、販売形態に合わせて採否を決める。​

参考リンク(キャッサバ芋の具体的な下処理のポイント:薄切り、水さらし、水交換)
農林水産省「キャッサバ芋は適切に下処理しよう」

リナマリン食品の独自視点とシロツメクサ

検索上位の多くはキャッサバ中心になりがちですが、農業現場の“意外な盲点”として、身近な草本にもリナマリンが登場します。
日本植物生理学会のQ&Aでは、シロツメクサ(ホワイトクローバー)にリナマリンとロタウストラリンという青酸発生配糖体が含まれることが説明されており、「植物が食害を受けにくくする化学防御」という見方ができます。
これは「リナマリン=食品だけの話」ではなく、圃場の植生・飼料利用・草地管理の文脈で“どこにでも起こり得る化学成分”として理解すると、説明責任(誰に何を注意喚起するか)が整理しやすくなります。
農業従事者の行動に落とすと、次のような連鎖を防げます。

 

  • 飼料・放牧:牧草地にクローバーが多い場合、「含有し得る成分がある」ことを知っておく(過度に恐れるのではなく、知らずに断言しない)。

    参考)カタツムリの摂食をクローバはシアン化合物防いでいるのか

  • 直売・加工:健康志向の文脈で「葉」「粉末」「乾燥品」が注目されるほど、成分管理や説明の重要度が上がる。
  • 教育・研修:新人に「毒=農薬」だけでなく「天然毒・自然毒」の体系も教えると、事故が減りやすい。​

参考リンク(シロツメクサに含まれるリナマリン等、植物の化学防御、遺伝と酵素の関係の説明)
日本植物生理学会「植物Q&A:シロツメクサとシアン化合物」