リナマリンは、キャッサバなどの植物に含まれる「青酸配糖体(シアン生成配糖体)」の一種で、食品の扱い方によってシアン化合物の問題につながります。
現場で混乱が起きやすい点は、「リナマリンそのもの」と「そこから遊離するシアン化合物(シアン化水素など)」を同じものとして語ってしまうことです。
食品行政の通知では、天然にシアン化合物を含有することが知られている食品として、キャッサバやキャッサバの葉などが挙げられており、農産物・加工原料としての管理対象になり得ます。
農業従事者向けに整理すると、ポイントは次の3つです。
キャッサバは、世界で広く利用されるデンプン源作物で、タピオカでん粉の原料としても知られています。
一方で、キャッサバにはリナマリンなどのシアン化合物に関係する成分が含まれるため、食用利用では「毒抜き(低減処理)」が前提という位置づけになります。
農研機構の作物見本園の説明でも、塊根に青酸を含む品種があること、必要に応じて水洗い等で無毒化すること、でん粉はタピオカとして流通していることが示されています。
農場・加工現場での「伝え方」も重要で、例えば直売や加工委託の場面では、次のような誤解が起きがちです。
参考)作物研究部門:作物見本園 キャッサバ
厚生労働省の通知では、天然にシアン化合物を含有することが知られている食品(亜麻の実、梅の種子、ビターアーモンド、キャッサバ、キャッサバの葉、びわの種子等)について、自主検査の実施などにより「シアン化合物の濃度が10ppmを超えないように適切に管理」するよう指導することが示されています。
同通知では、10ppmを超えて検出された場合は原則として食品衛生法第6条第2号に該当するものとして措置すること、という考え方も明確です。
さらに、原料で10ppm超が出ても、調理・加工で最終製品が10ppm未満なら該当しない場合がある、という整理も併記されており、工程管理の意味合いが強い文書です。
農業従事者が実務で使えるチェック観点を、管理の流れに合わせて箇条書きにします。
参考リンク(シアン化合物を含む食品の管理対象、10ppm、自主検査、最終製品の扱いの考え方)
厚生労働省「シアン化合物を含有する食品の取扱いについて」
農林水産省の注意喚起資料では、キャッサバ芋の下処理として「薄く切る」「水に溶けやすいので途中で水を入れ替えると良い」といった具体的なポイントが示されています。
この「水に溶けやすい」「水を換える」という発想は、農産加工での歩留まりや作業性と相反しがちなので、現場では“安全側の工程条件を固定する”ことが再発防止に効きます。
また、地域によっては浸漬・発酵を組み合わせた毒抜きが行われ、嫌気発酵の過程で微生物の酵素(linamarase)により青酸配糖体が分解される、という説明も報告されています。
農業従事者が「加工委託」「6次化」「直売」の場面で使えるよう、低減の考え方を工程別に整理します。
参考)https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/attach/pdf/naturaltoxin-1.pdf
参考リンク(キャッサバ芋の具体的な下処理のポイント:薄切り、水さらし、水交換)
農林水産省「キャッサバ芋は適切に下処理しよう」
検索上位の多くはキャッサバ中心になりがちですが、農業現場の“意外な盲点”として、身近な草本にもリナマリンが登場します。
日本植物生理学会のQ&Aでは、シロツメクサ(ホワイトクローバー)にリナマリンとロタウストラリンという青酸発生配糖体が含まれることが説明されており、「植物が食害を受けにくくする化学防御」という見方ができます。
これは「リナマリン=食品だけの話」ではなく、圃場の植生・飼料利用・草地管理の文脈で“どこにでも起こり得る化学成分”として理解すると、説明責任(誰に何を注意喚起するか)が整理しやすくなります。
農業従事者の行動に落とすと、次のような連鎖を防げます。
参考リンク(シロツメクサに含まれるリナマリン等、植物の化学防御、遺伝と酵素の関係の説明)
日本植物生理学会「植物Q&A:シロツメクサとシアン化合物」