農業器具メーカーの特徴とシェアやランキングで選ぶ比較

農業器具メーカーの特徴やシェアを徹底比較します。大手4社の強みやニプロ松山などの専門メーカー、中古市場のリセールバリューまで、失敗しない選び方のポイントとは?

農業器具のメーカー

農業器具メーカー選びのポイント
🚜
シェアと信頼性

クボタやヤンマーなど大手は部品供給と耐久性が抜群

🔧
専門メーカーの強み

作業機ならニプロ、小型機械ならやまびこがおすすめ

💰
リセールバリュー

海外需要が高いメーカーは中古買取価格も高値安定

日本の農業を支える農業器具メーカーは、世界的に見ても非常に高い技術力と信頼性を誇っています。新規就農や機械の買い替えを検討する際、どのメーカーを選べばよいのか迷うことは少なくありません。メーカーごとに得意とする分野や価格帯、アフターサービスの体制が異なるため、自分の営農スタイルに合った選択をすることが重要です。ここでは、国内の主要メーカーの特徴やシェア、選び方のポイントについて詳しく解説していきます。

 

農業器具メーカー大手4社の特徴とシェア

日本の農業機械市場は、長らく「国内4大メーカー」と呼ばれる企業群によって支えられています。それぞれのメーカーには明確な強みや歴史があり、ユーザーである農家からの評価も異なります。ここでは、シェア順に各社の特徴を深掘りしていきます。

 

     

  • 株式会社クボタ(Kubota)
    国内シェア断トツの1位を誇る、まさに農業機械の王者です。トラクター、コンバイン、田植機の主要3機種すべてにおいて高いシェアを持ち、耐久性の高さと故障の少なさで圧倒的な信頼を得ています。「壊れにくい」という評判は、過酷な環境で使用される農業機械において最大の強みです。また、近年ではスマート農業にも力を入れており、自動運転トラクターや営農支援システム「KSAS」など、IT技術を駆使した製品展開でも業界をリードしています。部品の供給体制も万全で、数十年落ちの古い機種でも修理部品が手に入りやすいという安心感があります。

  •  

  • ヤンマーアグリ(YANMAR)
    国内シェア2位のヤンマーは、特にエンジン技術において世界的な評価を受けています。ディーゼルエンジンの燃費性能や粘り強さは定評があり、パワーが必要な作業でも安定した稼働を実現します。近年は著名デザイナーを起用した「YTシリーズ」など、デザイン性に優れたトラクターを展開し、「カッコいい農業」を象徴するブランドイメージを確立しました。操作性も直感的で扱いやすく、プロ農家から兼業農家まで幅広い層に支持されています。密苗(みつなえ)技術など、低コスト省力化を実現する栽培技術の提案も積極的です。

  •  

  • 井関農機(ISEKI)
    国内シェア3位のイセキは、技術開発力に定評がある「技術のイセキ」として知られています。特に田植機「さなえ」シリーズは、業界で初めて「植え付けと施肥を同時に行う」技術を普及させるなど、稲作機械の分野で革新的な製品を送り出してきました。早乙女(さおとめ)のCMで親しまれた歴史もあり、稲作農家からの支持が厚いのが特徴です。メンテナンス性の良さも考慮された設計が多く、自分で整備を行う農家にとっても扱いやすいメーカーと言えるでしょう。

  •  

  • 三菱マヒンドラ農機
    国内シェア4位の三菱は、以前は三菱農機として知られていましたが、現在はインドの巨大企業マヒンドラ&マヒンドラとの提携により「三菱マヒンドラ農機」となっています。同社の強みは、コストパフォーマンスの高さと質実剛健な作りです。特に中・小型のトラクターやコンバインにおいて、必要十分な機能を備えつつ価格を抑えたモデルが多く、兼業農家や小規模農家にとって強い味方となっています。耐久性にも優れており、長年使い続けるユーザーが多いのも特徴です。

各社のシェアは地域や作物によっても変動しますが、基本的にはこの4社から選ぶことが、アフターサービスや部品入手の面で最もリスクの少ない選択肢となります。

 

国内農機メーカーのシェアランキングや各社の詳細な強みについては、以下の記事でより深く解説されています。

 


参考)
農機具のメーカー別シェア率まとめ
​ 農機具のメーカー別シェア率まとめ | クボタ・ヤンマー・イセキなどの特徴を解説

農業器具メーカーの選び方と用途

農業器具を選ぶ際に最も重要なのは、「知名度」や「ランキング」だけで選ばないことです。自分の圃場の条件や栽培作物、そして将来の営農計画にマッチした機械を選ぶ視点が必要です。

 

まず考慮すべきは「馬力と圃場の規模」です。

 

トラクターを例に挙げると、一般的に「1馬力あたり10アール(1反)」の作業能力が目安と言われています。しかし、粘土質の重い土壌や、深耕が必要な根菜類を栽培する場合は、余裕を持った馬力選定が必要です。大手メーカーは10馬力程度の小型機から100馬力超の大型機までフルラインナップを揃えていますが、中小規模の畑作や果樹園であれば、小回りの利く小型機に強みを持つメーカー(三菱やイセキなど)のモデルが使いやすい場合があります。

 

次に「用途とアタッチメントの互換性」です。

 

水田作が中心であれば、田植機やコンバインの性能が重要になりますが、畑作中心であれば、管理機や移植機のバリエーションが重要になります。特に、野菜作においては「どんな作業機(アタッチメント)を付けるか」が作業効率を左右します。メーカーによっては、特定の作業機とのマッチング(相性)が良い、あるいは専用の純正アタッチメントが豊富に用意されている場合があります。例えば、野菜の全自動移植機などはヤンマーやイセキが独自の機構を持っており、作物の種類(キャベツ、ブロッコリー、玉ねぎなど)によって最適なメーカーが異なることがあります。

 

また、「地域の整備拠点(JAや農機具店)の対応」も無視できません。

 

機械は必ず故障やメンテナンスが必要になります。自分の住んでいる地域に、どのメーカーの販売店や修理工場が近いかを確認しましょう。「機能で選んだが、修理できる店が遠くて困った」という失敗は非常に多いです。地域によっては「この集落はクボタが強い」「あそこのJAはヤンマーの整備士が優秀」といった偏りがあります。近隣の先輩農家がどのメーカーを使っているかをリサーチするのも、賢い選び方の一つです。

 

初心者向けの農機具の選び方や、最低限揃えるべき機械のコストについては、以下の記事が参考になります。

 

【14万円でできる】小さく農業を始める時に最低限そろえるべき農機具4選
参考)【14万円でできる】小さく農業を始める時に最低限そろえるべき…

農業器具メーカーのニプロ松山とやまびこの強み

大手4社以外にも、特定の分野で圧倒的なシェアと技術力を持つ「専門メーカー」が存在します。ここでは、特に現場での評価が高い「ニプロ松山」と「やまびこ」について詳しく紹介します。これらのメーカーを知っておくことで、よりプロフェッショナルな機材選びが可能になります。

 

ニプロ(松山株式会社)の強み:作業機のスペシャリスト
「トラクターはクボタだけど、ロータリー(耕運爪の部分)はニプロ」という農家は非常に多いです。ニプロ(松山株式会社)は、トラクターの後ろに取り付ける「作業機(インプルメント)」の専門メーカーです。

 

     

  • 耐久性と耕うん性能:ニプロのロータリーは、爪の耐久性が高く、摩耗しにくいことで有名です。また、土の反転性や砕土性が良く、綺麗な畝(うね)立てや代かきができるため、土作りにこだわる農家から指名買いされます。
  •  

  • メンテナンス性:爪の交換方式に特徴があり、ボルト1本で固定する「ホルダータイプ」など、交換作業の手間を減らす工夫がされています。フランジタイプと比較して、爪交換の時間が大幅に短縮できるため、大規模農家ほどその恩恵を感じます。
  •  

  • ドライブハロー:代かき作業に使われるドライブハローもニプロの主力製品です。折りたたみ式のウィングハローなど、大規模圃場に対応した高能率な製品が揃っています。

ニプロのロータリーの種類の多さと、それぞれの土質や馬力に合わせた選び方については、メーカー公式サイトや以下の解説が役立ちます。

 

ニプロ ロータリーとは?ニプロ(松山)の魅力と選ばれる理由を徹底解説
参考)ニプロ ロータリーとは?ニプロ(松山)の魅力と選ばれる理由を…

やまびこ(株式会社やまびこ)の強み:小型屋外作業機械のトップランナー
「KIORITZ(共立)」や「Shindaiwa(新ダイワ)」というブランド名の方が馴染みがあるかもしれません。やまびこは、刈払機、チェーンソー、動力噴霧機(動噴)などの小型エンジンの分野で国内トップクラスのメーカーです。

 

     

  • 軽量・高性能な2サイクルエンジン:山間地や傾斜地での作業が多い日本の農業において、機械の「軽さ」と「パワー」の両立は必須です。やまびこのエンジンは始動性が良く、長時間の作業でも疲れにくい設計がされています。
  •  

  • スピードスプレーヤーと防除機:果樹園で使われる薬剤散布車(スピードスプレーヤー)や、ラジコン動噴などの防除機械において高いシェアを持っています。薬液を均一に、効率よく散布する技術は、農作物の品質維持に直結します。
  •  

  • あぜ草刈機:あぜ道の草刈りは重労働ですが、やまびこの自走式あぜ草刈機やラジコン草刈機は、その負担を劇的に軽減します。特にラジコン草刈機は、危険な急斜面での作業を安全な場所から行えるため、近年急速に普及しています。

やまびこの製品、特に草刈機や管理機のラインナップや特徴については、以下の記事で詳しく確認できます。

 


参考)
共立(KIORITZ)自走式草刈機 種類や特徴
​ 共立(KIORITZ)自走式草刈機 種類や特徴 | クローラーモデル等の解説

農業器具メーカーの中古市場とリセールバリュー

農業機械は新品価格が高額であるため、中古市場が非常に活発です。そして、車と同様に農業機械にも「リセールバリュー(再販価値)」の高いメーカーとそうでないメーカーが存在します。将来的に離農したり、機械をサイズアップしたりする可能性がある場合、「高く売れるメーカー」を選んでおくことは賢い投資と言えます。

 

クボタの圧倒的なリセールバリュー
中古市場において、クボタのトラクターやコンバインは別格の扱いを受けます。その最大の理由は「海外需要」です。クボタの製品は、アジア、ヨーロッパ、北米など世界中で使用されており、日本で使われた中古機が海外へ輸出されるルートが確立されています。

 

日本の農家が1000時間使用したトラクターでも、海外では「まだまだ新品同様」と見なされ、高値で取引されます。そのため、買取店も強気な価格を提示できるのです。特に「L型」「GL型」「KL型」などのトラクターは、数十年落ちでも驚くほどの値段がつくことがあります。

 

部品供給期間と中古価格の関係
リセールバリューを支えるもう一つの要因は、「部品供給の安心感」です。農機具は20年、30年と長く使うものです。マイナーなメーカーや海外製の安価な機械は、生産終了から数年で部品が出なくなることがありますが、国内大手(特にクボタ、ヤンマー)は、かなり古い機種でも主要部品を供給し続けています。「直せるから、価値が下がらない」というサイクルが、中古価格の高さを維持しています。

 

中古選びの注意点
逆に、購入する側から見ると、クボタやヤンマーの中古は「値段が下がりにくい」ということでもあります。予算を抑えたい場合は、イセキや三菱の中古を狙うのが一つの手です。これらは性能面では大手2社に引けを取りませんが、中古市場での人気がやや落ち着いているため、状態の良い機械を割安で購入できるチャンスがあります。ただし、その際は近くに修理できる工場があるかを必ず確認してください。

 

具体的なトラクターの買取相場や、なぜクボタが高く売れるのかのメカニズムについては、以下の情報が参考になります。

 

​ 農機具のメーカー別シェア率まとめ | 中古市場での人気傾向も解説

農業器具メーカーの海外事情とOEMの意外な関係

日本の農機具メーカーは、単独で製品を作っているだけではありません。実は、海外メーカーとの提携やOEM(相手先ブランド製造)供給を通じて、複雑かつ興味深いネットワークを築いています。これを知ると、カタログのスペック表だけでは見えてこない、機械の「素性」が見えてきます。

 

三菱とマヒンドラ&マヒンドラの関係
前述した「三菱マヒンドラ農機」ですが、パートナーであるインドの「マヒンドラ&マヒンドラ(Mahindra & Mahindra)」は、トラクターの販売台数において世界No.1(台数ベース)を誇る超巨大企業です。

 

マヒンドラは、低価格で頑丈なトラクターを武器に、インドやアメリカで圧倒的なシェアを持っています。三菱はこの巨大資本と提携することで、グローバルな部品調達網やコスト競争力を手に入れました。つまり、三菱のトラクターには、日本の繊細な技術と、世界一の販売量を誇るインドのコスト競争力が融合しています。これは、予算を抑えつつ新車を購入したい農家にとって大きなメリットとなります。

 

イセキとマッセイ・ファーガソン(MF)
イセキ(井関農機)は、世界的な農機メーカーである「AGCO(アグコ)」グループのブランド、「マッセイ・ファーガソン(Massey Ferguson)」と深い関係にあります。

 

大型トラクターの分野では、イセキは自社開発ではなく、MF製のトラクターを日本国内向けに調整して販売しています(OEM導入)。逆に、世界市場においては、イセキが製造した小型・中型トラクターが「Massey Ferguson」ブランドのロゴを付けて販売されています(OEM供給)。

 

つまり、あなたが海外の映像で見る赤いMFのコンパクトトラクターは、中身は「Made in Japanのイセキ製」である可能性が高いのです。これはイセキの技術力が世界基準であることを証明しています。

 

クボタとヤンマーのエンジン供給
ヤンマーは、自社のトラクターだけでなく、他社の産業機械や建設機械、さらには海外の有名農機メーカーにもエンジンを供給しています。かつてはジョン・ディア(John Deere)の小型トラクターにもヤンマー製エンジンが搭載されていました。

 

クボタも同様に、産業用ディーゼルエンジンで世界トップシェアを持っており、世界中の様々な機械の「心臓部」としてクボタ製品が動いています。このように、日本の農機具メーカーは、完成車だけでなく、基幹部品のサプライヤーとしても世界農業を裏側で支えています。

 

こうしたメーカー間の繋がりを知ることで、「なぜこのメーカーの大型機はデザインが欧州風なのか」「なぜこの小型機はこんなに高性能なのか」という理由が理解できるようになり、農機具選びがより一層面白くなるはずです。

 

三菱とマヒンドラの提携に関する詳細や、その背景にある市場の動きについては、以下の記事で詳しく知ることができます。

 


参考)
三菱重が印マヒンドラと農業機械で提携 マヒンドラが三菱農機に…
​ 三菱重が印マヒンドラと農業機械で提携 | トラクター販売世界トップとの戦略