農業ドローンの自動航行設定とアプリでのルート作成手順

農業ドローンの自動航行設定は難しそうに感じていませんか?アプリを使ったルート作成から、障害物回避、散布効率を上げる設定まで、現場で役立つ具体的な手順を解説します。あなたの設定は本当に最適ですか?

農業ドローンの自動航行の設定手順

農業ドローンの自動航行設定ガイド
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アプリによるルート作成

圃場の測量から飛行ルートの自動生成まで、アプリ上で完結する手順を解説します。

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障害物回避と安全性

レーダー感度や高度設定を最適化し、衝突リスクを最小限に抑える設定を紹介します。

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効率的な運用と再開

バッテリー交換時の中断・再開手順や、RTK信号ロスト時の対策で作業効率を高めます。

農業用ドローンを導入する最大のメリットは、熟練したパイロットでなくとも均一で正確な農薬散布が可能になる「自動航行」機能にあります。しかし、多くのユーザーは機体の性能を十分に引き出せていないのが現状です。適切な設定を行うことで、作業時間は大幅に短縮され、散布ムラによる病害虫の発生リスクも低減できます。ここでは、主要なメーカー(DJIやマゼックスなど)の機種に共通する重要な設定項目と、現場で直面するトラブルを防ぐための具体的な手順を深掘りしていきます。


農業ドローンの自動航行におけるアプリ活用とルート作成


自動航行の基礎となるのは、正確な「ルート作成」です。これには主に、専用の「アプリ」を使用します。DJIの「DJI Agras」アプリやマゼックスの専用アプリなど、インターフェースは異なりますが、基本的な考え方は共通しています。まず、圃場の境界を特定するための「測量」作業が必要になります。


測量の方法には大きく分けて3つのパターンがあります。


  • 送信機(プロポ)を持って歩く方法: 最もポピュラーな方法です。RTKモジュールを搭載した送信機を持って圃場の四隅(境界点)を歩き、ポイントを登録していきます。この方法は、障害物が少なく、足場が良い圃場に適しています。
  • ドローンを飛行させて登録する方法: 足場が悪い水田や、広大な畑では、ドローンを実際に飛ばして上空からカメラで位置を確認し、ポイントを登録します。機体のGPS(GNSS)位置情報を利用するため、送信機を持って歩く必要がなく、畦畔に入らなくても済むため安全です。

    参考)各社の農業ドローンの散布モードについて!

  • Googleマップなどの地図上で指定する方法: 事前にアプリ上の地図(航空写真)をタップして範囲を指定します。手軽ですが、地図データが古い場合や、実際の畦畔の位置とズレがある場合は、現地での微調整が必須となります。​

ルート作成時には、「マージン(余白)」の設定が重要です。圃場の境界ギリギリまで散布すると、隣接する作物へのドリフト(飛散)リスクが高まります。通常は境界から1.5m〜2m程度内側を飛行ルートの端に設定します。また、アプリ画面では「枕地(まくらじ)散布」の有無も選択できます。枕地とは、ドローンがターンするために必要なスペースのことで、この部分を最後にまとめて散布する設定にすることで、ターン中の散布ムラを防ぎ、全体として均一な防除が可能になります。


参考)産業用ドローンの自動航行編集が大幅アップデート!設定方法を解…

参考リンク:DJI AGRASなどの産業用ドローンにおける自動航行ルート作成の詳細な手順解説
さらに、変形地や飛び地がある場合の対応も重要です。最新のアプリでは、複数の多角形を組み合わせたルート作成や、散布禁止エリア(障害物エリア)をルート内部に設定する「アイランド設定」が可能です。これにより、圃場の中にある電柱や樹木を自動的に避けて散布するルートが生成されます。この設定を怠ると、障害物回避機能が作動して頻繁に停止してしまい、作業効率が著しく低下する原因となります。


農業ドローンの自動航行での障害物回避と高度設定

自動航行中の安全を確保するために不可欠なのが「障害物回避」機能と「高度」の設定です。最近の農業ドローンには高性能なミリ波レーダーやビジョンセンサーが搭載されており、電線や枝などの細い障害物も検知可能です。しかし、これらは「設定」次第で挙動が大きく変わります。


障害物回避の設定には、主に「回避(迂回)」と「ホバリング(停止)」の2種類があります。


  • 迂回モード: 障害物を検知すると、自動的にルートを変更して避けて進みます。作業を中断したくない場合に有効ですが、複雑な障害物がある場所では予期せぬ動きをする可能性があるため、周囲に十分なスペースがある広い圃場向けです。

    参考)https://www.cirobotics.jp/wp/wp-content/uploads/products/cad22f59eadd91eefc60330739c527b1.pdf

  • ホバリングモード: 障害物を検知するとその場で停止し、オペレーターの指示を待ちます。日本の狭小地や電線が多い場所では、このモードが推奨されます。勝手に動いて別の障害物に接触するリスクがないため、安全性が高いと言えます。

また、レーダーの「感度調整」も現場では重要になります。夏場の背の高い稲や、風で揺れる作物を障害物として誤検知してしまうことがあります。この場合、アプリの設定で障害物検知の感度を下げるか、検知距離を短く設定することで、不必要な停止を防ぐことができます。ただし、感度を下げすぎると実際の障害物への反応が遅れるため、慎重な調整が必要です。


参考)AGRAS T30 - FAQ - DJI

飛行高度の設定に関しては、「対地高度(AGL)」の理解が欠かせません。GPSによる海抜高度ではなく、機体下部のレーダーで計測した地面からの距離を一定に保つ「地形追従モード(テレインフォロー)」を使用します。


  • 平坦地: 通常は作物の高さプラス2m〜2.5m程度に設定します。
  • 傾斜地: 果樹園や棚田などでは、地形の起伏に合わせて高度を変える必要があります。事前に地形データを読み込ませるか、リアルタイムの地形追従機能をONにすることで、斜面でも一定の散布高さを維持できます。​

特に注意が必要なのは、作物自体の高さが変わる場合です。例えば、成長したトウモロコシ畑では、地面ではなくトウモロコシの穂先を「地面」として誤認識し、設定高度よりも高く飛んでしまうことがあります。このような場合は、レーダーのオフセット設定や、作物の高さを考慮した高度設定の微調整が求められます。


農業ドローンの自動航行で散布効率を上げる速度調整

「散布」の効率と品質を決定づけるのが、飛行「速度」と散布量のバランスです。早く終わらせたいからといって、単に速度を上げるだけでは散布ムラや薬害の原因となります。自動航行では、設定した「散布量(L/10a)」を守るために、飛行速度に合わせてポンプの吐出量が自動調整されますが、物理的な限界があります。


効率的な設定のポイントは以下の通りです。


  • 飛行速度: 一般的な液剤散布では15km/h〜20km/hが標準的です。しかし、風が強い日や、作物の繁茂度が高い(葉が重なり合っている)場合は、速度を10km/h〜12km/hに落とすことで、ダウンウォッシュ(吹き下ろしの風)による薬剤の付着率を高めることができます。​
  • 散布幅(スワス幅): 機種やノズルの種類によって異なりますが、カタログ値よりも少し狭く設定すること(オーバーラップ率を上げる)で、散布ムラを防げます。例えば、有効散布幅が4mの機体であれば、設定を3.5mにすることで、隣接するラインとの重なりが増え、塗り残しがなくなります。
  • 液滴サイズ: 最近のドローンはアトマイザー(回転ディスク)式ノズルを採用しており、回転数をアプリで変更することで液滴の大きさを調整できます。ドリフトを抑えたい場合は粒を大きく(回転数を下げる)、付着性を高めたい場合は粒を細かく(回転数を上げる)設定します。

参考リンク:DJI AGRAS T50など最新機種における散布ルート作成と効率化のポイント
また、飛行ルートの方向も効率に影響します。風向きに対して「直角」に飛行することで、各ラインでの散布条件を一定に保ちやすくなります。アプリによっては、風向きを入力することで最適なルート角度を提案してくれる機能もあります。長方形の圃場では、長辺に沿って飛行することでターンの回数を減らし、バッテリー消費を抑えて作業時間を短縮するのが定石です。


農業ドローンの自動航行とRTKの精度および信号対策

農業ドローンの自動航行において、数センチ単位の「精度」を実現しているのがRTK(Real Time Kinematic)測位技術です。しかし、このRTKにはあまり知られていない「弱点」や、現場特有のトラブルがあります。検索上位の記事では「RTKは高精度」としか書かれていませんが、実際の運用では「基地局との距離」や「信号ロスト時の挙動」の設定がクリティカルになります。


独自視点として注目すべきは、RTK基地局からの距離と精度の相関関係です。一般的に、移動局(ドローン)は基地局から離れるほど測位誤差が大きくなります。仕様上は半径数km〜十数kmまで通信可能とされていますが、精度が安定するのは半径2km〜3km圏内であることが多いです。特に、山間部や起伏のある地形では、基地局との間に障害物が入ると補正データが届かず、「RTK FIX」状態が外れて「FLOAT」や「SINGLE」モードに落ちてしまいます。


参考)RTK基地局からの距離等による測位精度 - アグリポートWe…

この「信号ロスト時」のドローンの挙動設定が、事故を防ぐ鍵となります。


  • RTK信号ロスト時のアクション設定: アプリの設定画面には、RTK信号を失った際の動作を選択する項目があります。
    • ホバリング: 安全ですが、復帰しない場合は手動操作で引き戻す必要があります。
    • 着陸: その場に着陸してしまいます。作土の上や水田の中に降りてしまうリスクがあるため、推奨されません。
    • Return to Home (RTH): 自動的に離陸地点に戻ります。障害物がなければ最も安全な選択肢です。
    • そのまま継続: GPS単独測位(誤差数メートル)に切り替えて飛行を続けます。広い牧草地などでは有効ですが、精密な散布が必要な場面では隣の畑にはみ出す危険があります。

    また、ネットワークRTK(VRS)を使用する場合は、携帯電話回線の電波状況に依存します。山間部の圃場ではドコモやauなどのキャリア電波が入らない「圏外」エリアが存在するため、その場合は独自の固定基地局(D-RTK 2など)を現地に設置する必要があります。この際、基地局自体を毎回同じ位置に設置しないと、過去に作成したルートデータと実際の飛行位置がズレてしまうため、基地局設置位置の「杭打ち」や「マーキング」が現場の知恵として行われています。


    農業ドローンの自動航行時のバッテリー交換と再開手順

    広大な圃場を自動航行で散布する場合、一度のバッテリーでは完了せず、途中で交換が必要になるケースが多々あります。この「中断」と「再開」の手順を誤ると、散布の二度手間や、逆に散布漏れ(未散布エリア)が発生してしまいます。


    バッテリー残量が低下した場合、または薬剤が空になった場合、ドローンは自動的に散布を停止し、現在位置を記憶します(ブレークポイント記録)。ここで重要なのが、慌てて手動モードに切り替えて着陸させないことです。手動で着陸地点まで戻してしまうと、システムによっては「中断地点」のデータがリセットされてしまうことがあります。


    正しい手順は以下の通りです(一般的な機種の例)。


    1. 自動帰還(RTH)の活用: バッテリー警告が出たら、アプリ上の「帰還」ボタンを押すか、RTHスイッチを使用します。これにより、機体は正確なルートを辿ってホームポイントに戻ります。
    2. 電源を切らずに交換(ホットスワップ対応機の場合): 一部の産業用ドローンは、制御系の電源を落とさずにバッテリーを交換できるホットスワップに対応しています。これにより、GNSSの再測位やRTKの再リンクにかかる時間を短縮できます。
    3. 再開(レジューム)操作: バッテリー交換後、アプリ画面に表示される「作業再開」または「中断点から再開」を選択します。
    4. 高度と進入ルートの確認: 機体は自動的に中断地点まで戻りますが、この時の「戻る高度」の設定が重要です。行きのルート上に新しい障害物(移動してきたトラクターなど)がないか確認し、必要であれば帰還高度を高く設定し直します。

    参考リンク:EAMSなど農業ドローンの自動航行におけるバッテリー交換後の再開手順動画
    また、薬剤切れ(タンク空)センサーが作動して停止した場合、配管内に空気が入っている可能性があります。再開前に一度手動でノズルから薬剤を噴射(エア抜き)しておかないと、再開直後の数メートルで薬剤が出ず、散布漏れが発生する原因となります。これを防ぐため、アプリ設定で「再開時のオーバーラップ距離」を設定できる機種もあります。例えば「再開地点の3m手前から散布を開始する」設定にしておけば、散布の継ぎ目を確実にカバーできます。


    このように、農業ドローンの自動航行設定は、単に「自動ボタンを押す」だけのものではありません。アプリによる精密なルート作成、障害物回避の感度調整、RTKの特性理解、そしてバッテリー交換時の適切なフロー。これらを一つひとつ理解し、ご自身の圃場環境に合わせてカスタマイズすることで、真の「省力化」と「高精度散布」が実現します。




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